長らく
夢に棲んでいる祖母の家は
現れるたびに
折り畳まれた時間のそこかしこが
無秩序に
欠け続けている
奥にあった客間や小部屋は
とうに消えていた
黒光りした板戸も
光の届かない仏間の壁も
土間の隅にあったカマドも
縦半分が消えている


東の板戸の節をくぐり抜けた光が
鱗のように連なる土間に
波形の影をつくりながら
寝屋へ
届く

たった一枚の曇りガラス
その厚さの向こう側で拡散し
眠っている子供を
見つける

祖母は畑にいて
家の中には他に誰もいない

さわさわと
ざわざわと
聞き覚えのある音が
置き忘れたものを包み込むように
裏山から駆け下りてくる
すると
それが合図かのように
頬被りしたまだ若い祖母が
背負い籠を手に持ち替えて
ゆっくりと歩いてくる

細く短い
小柄な祖母の影は
家に入ると同時に
土間の暗さに同化して消えた



「密造者」第99号掲載