前田勉 「窓枠大の空」
塵
朝
わずかに開けた窓の隙間から
塵が
光の帯に薄く形を整えて
輝き
上下に揺れ
舞い
風が少しだけ整うと
導かれるようにして
大気へ吸われて行った
どこかしこの記憶をかき集め
時間を並べ替えながら
昨夜から探しあぐねていたもの
無くしてしまった黄色いボタン一つ
言おうとしたのに口だけ動いて出てこなかった声
人ごみの中に見かけた母の顔
兄達と連れ立って角を曲がっていく父の後ろ姿
私はそこに居なかった
無くしたはずの黄色いボタンを
左手に握り
砂利道の先を行く誰か
を
追いかけていたのは
夢であった
夢であることは
夢の中で気付いていた
黄色いボタンは
誰の服のものであったのか
誰を追いかけていたのか
私の周りを舞う塵の動きが
窓枠の縁あたりで勢いを増し
この始まりから逃げるように
吸われてゆく
詩誌「密造者」第81号