前田勉 「窓枠大の空」
蔓 -長兄へ-
〜 長兄へ捧ぐ ③ 〜
潮のにおいがする朝
風は
橋二つを越えた河口から
耳鳴りのような潮騒と
空(くう)を切る風力発電の鈍い音を運び
気ぜわしく橋桁の下をかいくぐっては
あらがう鴉の群れを押し返していた
いつかの日に似て雲は千切れまぁるく
なった天空の真ん中に青空がぽかりと
あいていた わたしあるいはわたしたち
やあつまってくれただれかれもみんなみ
んな大きな窓から見えるその青空から
目をそらして黙し 黙することがレイセ
ツであるかのように荼毘に付されてい
る時間に埋もれていた
黙することの辛さが煙り始めているのに
風は西から吹き流れていた
兄よ
わたしは天空の底で柳に絡みついた名も知
らない蔓の先っぽになっている
吹き飛ばされないように絡みつきながら
揺らされ揺れている
湊詩人クラブ「詩・あそび」第11号掲載