非在
       〜 長兄へ捧ぐ  ① 〜





軒先をかすめて
左に折れる小路の先
長く伸びた日脚が
ブロック塀にへばりついている
早く過ぎてしまった今日を
ゆっくりと確認するように
(あなたを)
温めている

庭先のヤブカンゾウの細く長い葉が
昨夜からゆらり揺れて
サワサワと物寂しく
時に
鋭角に削がれた
誰かの心を通過する風切り音になって
鋭く
ヒュッ
ひゅっ

鳴り響く

そして

生まれたときから続いてきた時間を
今に刻んで
止んだ

   生臭く剥き出しになった私が
   空(くう)に晒されている
   ぶらり
   ぶらりんこ
   と揺れながら
   まだ七月のはじめだというのに
   天空にこもった午後の熱風を浴びて
   干されている

   いつかあなたが言っていた
   生き方の管(くだ)が折れ曲がった形のような

   干からびたミミズのようでもあり
   剥かれて落ちたリンゴの
   あおい皮のようでもあり

   在り方の哀しみよ
   考えることに疎く滞留する時間よ
   ここにいるということの
   安寧な事象よ

   ざわつくな



                       - 長兄に捧ぐ - 




                                                                   「密造者」第97号掲載