横断歩道を渡り
そのゆるやかな坂を下りて行くと
ショーウインドウの前で
髪の毛をいじっている女を
こちらへ歩いてくる男が
さりげなく盗み見ている
男の後ろを歩く老婆が
そのしぐさに気付いて
同じように
女へ目をやった
かつて この通りには気弱で時間に飢えた自意識過剰
な男たちや気丈で言葉に飢えた自信過度な女たちがい
た オープンカフェでレスカを飲みながら本を読み
ぎこちない口調で背伸びした世界を語り
歩いてゆく人たちを横目で追っていた
美しい時代
と思うこと
と
虚しい記憶
との
隔たり
私には
女も
男も
老婆も
見えていた
しっかりと見ていたが
すれ違うとき
男も
老婆も
私を見ることはなく
女は
もう
通りにはいない