前田勉 「窓枠大の空」
回帰 〜女川漁港で〜
時として
思いは
あなたが指折り数えていた頃の
ちょっと古めかしい魔術師のような曖昧な位置で
さりげなく通り過ぎてゆく風を捉え
表通りへ駆け抜けて行ったのかもしれない
うつつをこっそり隠しこんで
あちらこちらを飛び廻っていたにちがいない
薄暮が刻まれ
擬音
が沈み込む海辺の街
物事は
あたり前のように時をつなぎ
言葉
を並べ
いつの間にか
饒舌になって
語ること
を
語り
人は
ひととなって
無意識の中で
生きること
を
生きて
いる
過去形で彩られた
形無いもの舞い上がると
鮮やかでいたはずの
時間も
赤茶色に酸化し
ポリフィルムの薄さに閉じ込められていた
時として
思いは
あなたが指折り数えていた頃の
暖かい時間を呼び戻しながら
思い描いていた位置へ
戻っていたのかもしれない
「詩と思想」2015年4月号掲載