小路(2)





私も彼も黙したまま
神明社向かいの小路へ入る

二人とも自転車で通学した道であった

家の庇がせり出し
曲がりくねった狭い小路は
そのまま同じであったが
駅が近づく頃に見えたはずの
教会の尖塔の十字架はなかった
駅脇に移転していた

  あるはずがない。戻れずにいる。歩いてきた道はそんな感じか。
  と、彼が言ったのは何のことだったのか。
   
  そこにいれば、今は変わっていたのだろうか。
  前を向いていれば、ものごとは開かれたのであろうか。
  強い気持ちでいれば、迷いは生じなかったのであろうか。

  そこで言い淀んだのは、
  私。
  彼。

駅前に出てから右折し
理髪店のあった辺りからゆるい坂をのぼると
港の方から傾いた陽が低く射し込んで
葉の落ちたケヤキの梢を
消し
射抜き
長く
細く
影の幹を造形していく

時間を呼び戻すように
二人とも振り返る。



                                                                       「密造者」80号掲載