前田勉 「窓枠大の空」
あさ霧
静穏な
朝はやく
霧が滲んでゆく時間がある
庭先の
色濃いトマトの葉の表に
伸びてきた藪萱草の花茎の先に
塀のうえをゆっくり歩く猫の背に
まだ目覚めない人びとの屋根のうえに
病んで眠れない人の心に
わた雪のように
音もなく
ふわりと降り立ち
滲んでゆく
新聞配達のバイクがとおり過ぎて行くと
霧は
その後を追うように
曲がりくねった細い小路に沿って
勢いよく舞い踊った
岸壁に打ち砕ける夏の日の海の貌に似た
かすかな潮の匂いを呼び込んで
朝はやく
病んで眠れない人の心に
あさ霧が
静かに滲んでゆく
週刊アキタ 「詩の広場」