金曜日の朝





今日が
何気ない素振りで刻まれ始めると
それを確かめるように
たたみ込まれていた昨夜の発酵した意念が
追随してゆく
まるで陽を浴びた塵のように
無数の光の粒となって舞い
カーテンの向こう側で
きらびやかに解けはじめる

  言いたいのは
  人
  ひと
  人々ではなく
  ひと
  人とひととのつながりの前の
  人
  ひとつの
  ひと
  であるべき
  個体
  だ

               てんでに逃げろ!

  語り継がれることもなく
  形骸化してしまった体躯は
  捨て置かれた記憶に似て
  時間に沈潜し腐敗し消えるのか
  意識されることもなく
  大宇宙の端っこでぐるぐる自転しながら
  あぁ、俺は
  と
  言葉にできないまま
  自戒することさえできずに
  そこで終わるのか
  人らしく近づくことはできるのか
  ひとらしく
  だ

  何にこだわり何に委縮するのか
  人にか
  人びとにか
  自分にか

きらびやかに舞う光の粒が
カーテンのプリーツに紛れ込み
そこだけが帯状の影になってゆく
憑かれたように
その影と光の粒を見ながら
始まった


  十四時四十六分までには
  まだ時間がある



「海市」第3号掲載