あさ霧(2)





今朝も
雄物川の霧が
家並みを覆いながら
小路へ流れ込んでくる
ときおり
その
あさ霧は
きままな微風に
力なく
たゆたい
渦巻き
乱れ
そして
端々の先が
空(くう)に吸われるように
消えていく

  ながく
  ながい
  朝までの
  漆黒の
  時間
  想うことも哀しむことも
  静かに刻む時の襞(ひだ)に挟まれ
  隠されたままだ

  遠くから聞こえてくる音をカクニンシナケレバならない
  ゆっくりと開いた扉から先 闇に隠されているはずの
  姿をミツケナケレバならない 今一度声をキカナケレ
  バならない 間に合わなかった時間をモドサナkレバ
  ならない

  ながい
  ながく
  静まりかえった夜
  とり残されたように
  部屋の片隅で
  いちにちに刻まれるものたちと一緒に
  うずくまっているものがある

いつもと変わらないはずの

物憂いあさ霧が
窓枠の限られた空の広さの中で
ゆっくりと流れてきては
揺れながら
消えていく



                                                                    「密造者」第102号掲載