前田勉 「窓枠大の空」
句点
ぽつん
白紙の上に
句点ができた
幾度となく
見て
ずっと
記すことをしてきた
小さな記号であったはずの
。
まぁるくなぞって
起点へ戻ってしまった
ただそれだけなのに
始点は終点でもあることを
示していた
夢の中のようで
もがいても
言葉は音を忘れ
身体は動くことを忘れ
叫びたい
叫んでいる
のに
もどかしいまま
時は止まった
身体いっぱいに蓄積された記憶や情感
語りつくせないものたち
触れてきた手のひらも頬も
懐かしいオーデュコロンの揺らぎも
ファンデーションの微香も
この耳に残っている笑い声も
一番大切な心さえも
そして
あなたの存在
も
私の存在
も
電流が遮断されたように
一瞬で
無
になった
のか
ぽつり
白紙の上に
句点が残った
まるくなぞれば
終点が
始点に生まれ変わり
また同じような
弧を描いた句点が
まんまるく
どこかしこに
現れるのだろうか
「海市」第12号掲載