いちにち(2)





吹雪
川面を走り
河原の雪からはみ出た木の枝先が
激しく震えている

若草色の橋が
途中から灰色の点描となって
見えない向こう岸へ
伸びていた

誰もいない河川敷
風切り音で途切れたハクチョウの声が
いつもより哀しげに
海の風に乗って流されてくる

 届かないように
 悲しみへ
 流されないように
 限られた時間へ

 目に見えない位置に立たされて
 不条理劇でもないのに
 両手で耳を塞ぎ目を閉じ口を噤(つぐ)んで
 あとは何ができる

 届かないように
 数えることをやめた
 いちにち の時間
 何ができる ナニガデキル

 遅い朝
 自分の中の今 を止めて
 ずっと
 窓に舞う雪華を眺めていた

羽ばたく音が近づく
アイヌコタンで聞いたムックリの音に似て
ギュンギュンと力強く響かせ
頭上を飛んでいる



                                                                     「海市」第11号掲載