前田勉 「窓枠大の空」
起点
やがて
何回目かの季節が訪れ
深夜
蓄積された記憶と時間は
おだやかに
やさしく
誰彼の気配を消し
綿雪となって降り積もる。
数えることをやめた頃から
やがては巡ってくるはずの
起点
が
見えなくなってしまった。
渦巻く時間が
らせん状の内径を勢いよく昇り
天空へ
未知の私の空へ
飛んだ。
その時点から
折り畳まれたのかもしれない。
わざとらしく
あるいは
漆黒の空間に紛れて
かってに棲息しはじめたのか。
そう思ったことに戸惑う
無防備な自身の感情よ。
もしくは
自制心の喪失よ。
言葉以前に
数え忘れたのではなく
数えないようにしただけ
と
うそぶく気恥ずかしさ。
やがて
何回目かの季節は巡り
何回目かの一日が重ねられ
そして
記憶が形成されてゆく。
「海市」第10号掲載