風飛び出す林の底で





意識することから遠くなった林の底で
風は
ケモノたちの匂いを含み
幼子たちの声を拾い
孕んだ時間を撒き散らし
佇む塑像を撫でながら
小径を這うように過ぎ去った

ただ佇立することで
自らの生を成り立たせている
何も変わりないことが

自らの生なのだ
そう言いたげに
塑像はそこに在り
あくまでも視覚的に
確認行為を行いながら
宙(そら)から射す陽を浴びた自らの影
その揺れを瞳孔に受け入れて
時間へ映しこんでいる

軽い自意識の暗さに似た
確認行為
自分だけの呪文

泡立った後の
澄んだ
泥水
のようで

西の陽射しを裂き
海原へ

重なった遠くからの思いを引き連れ
オレンジ色の布をなびかせながら
林の底から飛びだして行く
呼び戻された懐かしい声も
木々の葉の揺れる音に紛れて
飛んで行く



                                                                    「密造者」第101号掲載