モネの庭





裏畑の
ニセアカシアの木の脇に
いつの頃からか置かれていた赤い椅子
ペンキが剥げ落ちて
座面は黒ずんでいた

なかば朽ちたその椅子に遠くを見ている人が
座っている
一日の光と影の移ろいが
畑に映し出されてゆくのを
静かに見ている
通りを駆けてゆく子供たちを
でもなく
犬を連れて散歩している人を
でもなく
ただ顔をそちらに向けて

そこの
木陰になっている部分だけ
時間が沈潜している

    家のある丘の上からくだるひまわり畑の
   その真ん中の道にいる子供たちが
   自分を見ているように
   モネは子供の目線をこちらに向けさせて
   ちょっとばかり
   疎通を描こうとしたのかもしれない
   ジンジンする片頭痛の間合いに
   哀しい痛みを練り込んで
   親であることを自分に試したのか

   青いシャツと白いシャツを着た子供
   二人
   表情は描かれていないのに
   こちらを見ている

   丘の上の家の前で
   青空を背にした婦人の姿も
   おぼろ
   背丈ほどのひまわりへ寄り添って
   青空と光に溶けこんで
   表情が消されたままだ

裏畑の
ニセアカシアの木の脇に置かれた
なかば朽ちた赤い椅子に
今日も遠くを見ている人が
座っている
畑に映し出される一日の光と影

移ろい

見えているか



詩誌「密造者」第91号