鎮魂   -石巻城址で-





言葉は無かった

そう

言葉は無かった

城址から見下ろす情景は
道路と家屋の基礎だけで
それが街であったことをあらわしていた
八ヶ月前のあの日
何度も何度も見た画像の

あの日の街

押し寄せる怒涛に流され消える家
棺の並んだ映像と積み上げられた車が
ネガフィルムの中で反転し続けて
交錯する

   言葉を吐くことはなかった
   吐けずにいた

   そのことに苛立っていたが そんな苛立ちは
   直面した事実の前では些細で貧弱でちっ
   ぽけで何の役にも立たない感情でしかな
   かった
   重すぎて あの日 生きてきた時間と止
   まってしまった時間とのわずかな狭間で
   人びとが言葉を発しあるいは恐怖で凍り
   ついたまま叫び 全身全霊まさに力の限
   り声を張り上げてもかなわず自然の力に
   飲まれてしまったのであれば ここに立
   っているだけの自分はどうであったか
   (何をしていたのか) 背中合わせの日本
   海側の地で激しい揺れに怯え慌て身の回
   りの範疇で 生 震えて我意に添っていた
   あの惨めな”確信”をどこに位置づけようか

高台を東に歩を進めていると
消えた街に向かって
オカリナを奏でる女の人がいた

譜面台には少女の写真が留められてい




秋田魁新聞「あきたの賦」掲載