この日も
雄物川に朝霧がたった
幾時間か
川面を這って湧き
横切る風の流れに巻き上がり
人々の朝を閉じ込めるように
あるいは華やかに映えるように
細い小路の奥まで
白く淡く覆った

  また一日が始まったと思うことへの
  軽い後ろめたさと自省を意識しながら
  起きる
  今日だって

  朝はこんなにも時間に圧され
  押されて
  物憂く重なっている

  川の淵に引っかかっている脱色したビニール屑

  垣根に絡みついたカラスウリの枯れた蔓

  と

鳥の声に気付いて見上げると
六羽の白鳥が飛んでいた
物悲しく二度三度鳴いて
向かいの小路から旋回し
商店街の屋根を横切って飛んで行った
後追いでぐるりと廻って見送る私を
バス停に並ぶ子供たちが遠慮がちに笑う
笑っている
朝霧も白鳥も見慣れている子供たちは
はしゃぎまわるわけでもなく
バサバサと思いのほか大きい羽音にも
さして気にならないふうに
ちょっとだけ首を傾けて見るだけだ

この日も
当たり前のように朝が始まり
また一日が始まったと思うことへの
軽い後ろめたさと自省を意識しながら
六十回目の歳の朝の
一万数百回目の足を仕事先へ向ける
今日が特別な日でもなく一万数百回目のいつもの物憂い朝でしかないと
少しばかり思うことさえすれば
それはそれで特別な日になり得てどこかで身構えている
もしかして今日は
何か特別な日なのかもしれない

しれない



詩誌「密造者」第83号