時には





深夜
思い描いていたことや
そこから派生し展開されてくるもの
それらが時間を重ね
細かい気泡の舞う暗闇を越えて飛び交うと
海鳴りのような
息継ぎのないエンドレスな音を伴って
コトバ喪失状態のまま置き去りにされた
いつかの私そのものも
飛ぶ

  思い返すことはしない
  と言っていたのは誰であったろうか
  誰なんだろう
  亡くなった母はよくそうつぶやいていた
  そうありたかったのかもしれない
  すでにそこから
  思い返すことは始まっていたのに
  飽和した想いはその位置で止まり
  抜け出せないままクルクルと回った

  ありがとう
  と口癖のように言い始めてから数年後
  父はあっさりと逝った
  戦争の話を一度も語ることなく
  そこから避けるように生きていた

そして
波間のように心もとない襞うごめき
回転体の渦に呑み込まれてゆくものたち
消えてゆく

  眼も耳も閉じ
  頭の中である言葉を繰り返し
  今 から逃げてきた私は
  どこかに埋め込まれた因子に気付く
  いつ私の中に仕組まれていたのか
  どこに埋め込まれているのか
  時には少年のように
  静かすぎて自分の位置が分からない
  とでも叫んでみようか

壁に掛けた木偶が少し揺れる



「詩と思想」2013年5月号