前田勉 「窓枠大の空」
渡る
長い橋であった
形も
かすかに揺れる様も
雄物川にある橋と似ていた
川の形
河口側にも架かる橋のあり方さえ
似ていた
橋のたもとに住み始めたころ
初めて歩いて通った橋は
鉄骨の塗装が剥がれ錆が見えていた
溶接部
繋ぎ止め重ねあう筋交いあたり
塗り重ねられて溜まった塗料コブが
奇妙な色に光り
車が通るたび
かすかに揺れた
記憶
幾年か渡ったあと橋は架け替えられ
経路も変わり
堤防の中を行くサイクリングロードも
河川敷の遊び場も
姿を変えた
橋の両側の家並は街になり
国道は県道になった
そのことを君達は知らない
繰り返されてきた日常や
思い出せない事柄
他人事のように思えていた時間経過
長い橋であった
「密造者」第79号掲載