我孫子武丸  作品別 内容・感想

8の殺人

1989年03月 講談社 講談社ノベルス
1992年03月 講談社 講談社文庫

<内容>
“8の字形の屋敷”ゆえに案出された、不可解極まる連続殺人。速水警部補と推理マニアの彼の弟&妹の3人組が挑戦するが・・・・・・

詳 細


0の殺人

1989年08月 講談社 講談社ノベルス
1992年09月 講談社 講談社文庫

<内容>
 容疑者リストつき異色の新本格推理。冒頭で明かされた容疑者たちのなかからあなたは真犯人を突きとめられるのか!?

詳 細


探偵映画   7点

1990年12月 講談社 講談社ノベルス
1994年07月 講談社 講談社文庫

<内容>
 映画界の鬼才・大柳登志蔵が手掛ける最新映画、その名も“探偵映画”。大柳はその映画の結末をスタッフの誰にも漏らさず、自分のなかだけに秘めていた。そして、撮影に入っていったのだが、最後の結末を撮り残したまま、大柳が失踪してしまったのだ。助監督らは、あわててその行方を捜すものの、監督に行方は一向に知れず。とうとう、残ったスタッフたちは自分たちで、映画の結末を考え始めたのだが・・・・・・

<感想>
 久々の再読。初読の時に面白いと感じた記憶は残っているのだが、肝心の詳細については憶えていなかった。鬼才の映画監督が途中まで撮った映画をどのように閉めるのかが問題となっていたはずなのだが・・・・・・

 我孫子氏の5作目の作品であるのだが、ミステリとしても異色。ある種、ガチガチのミステリといってもよいような内容ではあるのだが、実際の殺人ではなく映画のなかの“殺人”について、その映画を撮っている人たちが考えるというもの。映画の世界とミステリの世界を混ぜ合わせた作品となっている。

 この作品を読むと、我孫子氏の映画に関する造詣と熱意が感じ取れる。作中で、色々なミステリ映画についての知識を披露していたり、さまざまな角度からの映画の見方が書かれていたりして、これは間違いなく、著者はミステリ映画マニアなのであろうと感じ入ってしまう。もう20年以上前の作品であるのだが、意外とここに書かれているそれぞれの映画については、ネットなどの普及により、昔よりも今の方が入手しやすかったりするかもしれない。

 そして肝心の内容については、あぁ、なるほどと。単純と言ったら失礼であるが、忘れてしまったのが不思議なくらい、明快でわかりやすい解決がなされている。正直言って、作中の監督の失踪劇については納得いかなかったのだが、こういったトリックを思いついてしまうと、ちょっとみんなを驚かせてやろうという悪戯心がわいてしまうのも無理はないのかもしれない。個人的には、我孫子氏の作品のなかで一番好きな作品。


殺戮にいたる病   7点

1992年09月 講談社 単行本
1994年08月 講談社 講談社ノベルス
1996年11月 講談社 講談社文庫

<内容>
 自分の欲望を満たすために猟奇殺人を繰り返す蒲生稔。息子の様子がおかしいと感じ、連続殺人の事件との関与を疑う蒲生雅子。知人が連続殺人の被害者となったため、事件を調べ始めることとなった元刑事の樋口。事件の行く末に待ち受けているものは果たして!?

<感想>
 20年ぶりくらいの再読。それでもインパクトの強い内容のためか、ある程度真相を覚えていた。よって、叙述トリックに引っかかりはしなかったのだが、その分叙述トリックの裏側を堪能しながら読むことができた。

 叙述トリックといえば、真っ先に思いつくのが折原一氏。折原氏の作品以外で国内ミステリの叙述トリックを用いた作品と言われて真っ先に思いつくのがこの「殺戮にいたる病」。普通に読むと、猟奇的な場面を鮮烈に描いたサイコホラーなのかと思ってしまう。ただ単にそれだけで終わる小説なのかと思いきや、最後の最後で驚愕の真相を突き付けられることとなる。しかも、ラストが丁寧な説明ではなく、読者に審判を委ねるかのようにぶんなげ気味にプツリと終わらせてしまうところも印象的。まさに、ミステリ界の歴史に残る一冊と言ってよいであろう。


小説たけまる増刊号

1997年11月 集英社 雑誌増刊号形式
2000年05月 集英社 集英社文庫 (怪の巻:たけまる増刊号よりのホラー短編を抜粋)
2000年07月 集英社 集英社文庫 (謎の巻:たけまる増刊号よりのミステリー短編を抜粋)
屍蝋の街   6点

1999年09月 双葉社 単行本
2002年10月 双葉社 双葉文庫

<内容>
 2025年、ネットワーク上の仮想都市“ピット”は殺人や強盗が氾濫している無法地帯。現実世界の溝口&シンバを殺せば賞金と名誉が手に入ると、多くのネットジャンキーが命を狙う。連続猟奇殺人鬼「ドク」に脳をコントロールされつつも戦いに挑む溝口。近未来クライム・ノベル第ニ弾!

<感想>
 ここまでくれば完全にSFでありサイバー・パンク小説といってもよいだろう。その反面、逆にミステリーからはだいぶ離れてしまったような感がある。前回に続き、刑事の溝口やシンバといった面々も出てきているもあまり華々しい活躍はなかった。今作はその背景たるサイバー都市の“設定”が際立っており、登場人物らはその“設定”に押され気味になってしまったようである。

 コンピュータネットワークが張り巡らされた世界。その世界の上では溝口やシンバらでさえもネット上の蜘蛛の糸に絡め取られてしまい身動きが取れなくなってしまうということか。それはあたかもネット社会の行く末を描く黙示禄のようでもあり・・・・・・などといったら言い過ぎだろうか。


三人のゴーストハンター  国枝特殊警備ファイル   7点

我孫子武丸、田中啓文、牧野修、共著
2001年05月 集英社 単行本
2003年09月 集英社 集英社文庫

<内容>
 普通の警備会社では手におえない怪奇現象のみを扱う警備会社、国枝警備保障。その会社のメンバーは、所長の国枝、胡散臭い坊主・洞蛙坊(とうあぼう)、美貌でバイセクシャルな霊媒師・比嘉、反オカルト科学者・山県、そしてかれらの助手を勤める、元アイドルの小百合。この5人を結びつけたのは4年前の幽霊屋敷で起きた今だ未解決の事件であった。彼らはそれぞれ、己の事件と向かい合い、解決に導いていきながらも、4年前の事件の真相に迫ろうとせんと・・・・・・ <

<感想>
 これは面白い。3人の作家の短編が交互に並べられているという構成。1冊で三者三様の小説が読め、なおかつ一つのストーリーにのっとって書かれるという、楽しい試みがなされている。また、この著者の三者がそれぞれ別々の特徴をもっているため読んでいて飽きることがない。本書はリレー小説とまではいえないにしても、それに近い形式といえるだろう。そして何よりもうまいといえるのは、結末をマルチエンディングという方式にしたこと。こうすることによって、リレー小説のような形式に比べれば、作者側からすれば格段に書きやすくなるのではないだろうか。読む側も3者の物語の結末のつけ方を比較して楽しむことができる。

 ただ、最後にはこれは終わりにするにはもったいないと感じられた。もっと続けてもらいたい。もしくは新シリーズで始めてもらいたい。これは小説として新しい試みといえるだろう。誰か他にこういうのやってくれる人いないかなぁ。ミステリー作家だけで行ったら面白いものが読めるかもしれないのだが。


人形はライブハウスで推理する   5点

2001年08月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 「人形はライブハウスで推理する」 (小説現代臨時増刊号 メフィスト 1998年10月号)
  “おむつ”こと妹尾睦月の弟、葉月が突然上京してきて、ライブハウスのトイレにて麻薬の売人の密室殺人に巻き込まれる!
 「ママは空に消える」 (小説現代臨時増刊号 メフィスト 1999年01月号)
   睦月の幼稚園の園児の母親の姿がある日を境に見られなくなった。その園児は父親から虐待を受けているようなのだが・・・・・・
 「ゲーム好きの死体」 (小説現代臨時増刊号 メフィスト 1999年05月号)
   殺された男の部屋から最新のゲームソフトのみが紛失していた。その盗まれたソフトに隠された謎とは??
 「人形は楽屋で推理する」 (小説現代臨時増刊号 メフィスト 2000年01月号)
   睦月らが園児を引率して劇を見に行ったとき、一人の園児が謎の消失を遂げた。いったいどうやって? そしてなぜ??
 「腹話術志願」 (書下ろし)
   朝永嘉夫の元に一人の弟子入り志願者が! さらに彼はコンビに強盗殺人に巻き込まれてそして・・・・・・
 「夏の記憶」 (小説現代臨時増刊号 メフィスト 2000年09月号)
   睦月の子供の頃にまつわる話を聞いて、鞠夫が語り始めた推理とは?
 「特別付録 対談 我孫子武丸×いっこく堂」

<感想>
 10年ぶりに手を取ることになった鞠小路鞠夫シリーズ。いっこく堂の繁栄に載せて再出発か?

 読みやすさはあいかわらずなのだが、もはや推理小説というよりは睦月と朝永と鞠夫らの物語の続きと言った感じ。なんとか推理小説とう形態はとっているものの・・・・・・

 まぁ、読物として楽しいからいいのでしょう。


まほろ市の殺人 夏  夏に散る花   6点

2002年06月 祥伝社 祥伝社400円文庫

<内容>
 真幌市に住む新人作家君村義一の許へファンレターが出版社から転送されてきた。送り主の住所も同じ真幌。執筆に行き詰まっていた君村は、四方田みずきとのメールのやり取りで意欲もわき始め、まだ見ぬ彼女に恋をした。一度は彼女に会うことができたものの、彼女との連絡は突如とぎれ・・・・・・そして、思いを募らせる君村がとった行動が、思いがけない事件を呼ぶ!

まほろ市の殺人 春    まほろ市の殺人 秋    まほろ市の殺人 冬
「幻想都市の四季」総括

<感想>
 1992年に書かれた「殺戮にいたる病」をほうふつさせるような内容となっている。中編という長さを生かして、うまくまとまっていると思う。仕掛けとしてはわかりやすいネタではあるものの、そこをうまくもう一ひねりして読者を楽しませる構成となっている。思えば真本格の第一世代のなかでも我孫子氏は本格ミステリーの作品(特に長編)をあまり書いていない。こういった我孫子氏の本をもっと読みたいものである。


少年たちの四季

2003年02月 集英社 集英社文庫

<内容>
 マンションの隣に越してきた萩原さんは大人のくせにいつもゲームばかりしている。中三の夏休み、受験勉強に飽きたぼくは、居心地のいい萩原さんの部屋に遊びに行くようになった。でも、そんな無邪気で楽しい日々も、死人が出るまでのことだった。ある日、窓の外を若い女が落ちて・・・・・・飛び降り事件は自殺? それとも他殺? 思春期の四つの季節を瑞々しく描く青春連作ミステリ。

 「僕の推理研究」
 「凍てついた季節」
 「死神になった少年」
 「少女たちの戦争」


弥勒の掌   7点

2005年04月 文藝春秋 本格ミステリ・マスターズ

<内容>
 高校教師の辻は家に帰ってきたとき妻がいなくなっている事に気がついた。元々妻との間は辻の不倫が原因で冷え切っていたので、嫌気がさして出て行ったのだろうと考える。しかし、帰ってこない日が長くなるにつれ、結局辻は警察に失踪届けを出すことに。そして辻自身も気になり始め、自分で妻の行方を探し始めようとする。すると、とある新興宗教団体の存在に・・・・・・
 刑事の蛯原はある日突然、妻が殺されたという知らせを受けることに。娘二人を残され、呆然とたたずむも、やがて蛯原は犯人への復讐を自分自身に誓う。単独で事件を捜査する蛯原はやがてある新興宗教団体へとたどり着くのであるが・・・・・・

本格ミステリ・マスターズ 一覧へ

<感想>
 当然のことながら何らかのトリックが隠されているんだろうなと思いながら読んでいたのだが・・・・・・いや、なるほどと。少し疑っていたところもあったのだが、ほぼ完全に一本取られたという気分である。歌野氏の「葉桜」ほどのインパクトは感じられなかったものの、かつての昔懐かし新本格ミステリーのトリックにはまってしまったと、そんな気分にさせられた。

 本書において何が痛快に感じられたかと言えば、
 (↓↓↓↓↓ ネタバレ)
 物語のラストにおいて、探偵というべき者達と犯人かと思われた者達との立場が完全に入れ替わってしまうと言うことである。

 (↑↑↑↑↑ ここまで)

 いや、とにかくこの本も色々なところで情報を得る前に読んでしまうべき本であろう。ミステリファンにはたまらない、どんでん返しの罠が炸裂する一冊である。我孫子氏にはこういった本をもっと多く書いてもらいたいと思っているのだが・・・・・・


狩人は都を駆ける   5点

2007年12月 文藝春秋 単行本

<内容>
 京都で探偵事務所を開くも依頼人は全く来ず、ときどき来る依頼人は隣が動物病院のせいか、動物がらみの仕事ばかり。探偵は今日も、動物の行方を捜すため街へと繰り出すことに。

 「狩人は都を駆ける」
 「野良猫嫌い」
 「狙われたヴィスコンティ」
 「失踪」
 「黒い毛皮の女」

<感想>
 読んでみて思ったのは、なんで今更こんな作風の本をということ。特に最近、荻原浩氏の「サニーサイドエッグ」を読んだばかりだからそう強く思うのかもしれない。ほとんど荻原氏の作品と作風がかぶっていると感じられた。本書がそれと異なるところといえば、後味の悪い事件が多いということであろうか。

 最初の作品で表題ともなっている「狩人は都を駆ける」、これは最初こそコミカルな感じで始まるものの、後半の展開は実に嫌な感じである。しかし、その嫌な感じの展開が最後には強引にちょっと良い話みたいに収められてしまうところが納得がいかなかった。

 その後の作品は“連続猫殺し”“犬のボディーガード”“猫の失踪”“猫の飼い主探し”といったものが短いページの中で繰り広げられている。この中で“犬のボディーガード”の話に関しては中途半端な気がして、てっきり後の作品に話が続くのかと思っていたのだがそれっきりで終わっていた。

 元々この著者は真正面から推理小説を描く作家ではないものの、多作の作家ではないために新作が出れば否が応でも期待してしまう。できればもう少し濃い目のミステリ小説を書いてもらえればと思うのだが。


警視庁特捜班ドットジェイピー   5点

2008年06月 光文社 単行本

<内容>
 警視庁はイメージアップ作戦として、容姿端麗な5人の警察官を登用し、警察戦隊を作る事を決定する。そこで集められた5人は確かに容姿端麗ながらも、いずれもひとくせある問題を抱えた人物達ばかり。そんな彼らが協力して立ち向かうこととなる事件とは・・・・・・

<感想>
 喜国氏のイラストによる表紙があまりにも作品にマッチしすぎていて、我孫子氏が描いた作品というよりも、喜国氏の漫画を読んでいるような気分にさせられる作品である。

 本書は物語としては、馬鹿馬鹿しいながらも充分に楽しむことができる。容姿端麗で問題児ながらも、それぞれが一芸に秀でており、それらの能力を生かして事件捜査に役立てるという設定は、ありきたりながらも、それなりには楽しめる。

 しかし、本書の一番の問題点は、そういった能力を持った彼らが挑む事件があまりにもしょぼすぎるということ。本一冊を使って、単なるストーカーを捕まえるというだけではもったいなさ過ぎる。

 せっかく作った戦隊であるのだから、もう少し彼らの特性を生かす事の出来る事件を用意してもらいたいところである。ということで、シリーズものとしての続編を早めに書いてくれる事を期待したい。


さよならのためだけに   

2010年03月 徳間書店 単行本

<内容>
 近未来の日本、少子化対策として行われた結婚仲介業PM社による相性判定が重視されるようになった時代、水元憲明と長峰月(ルナ)はハネームーンから戻るなりすぐに離婚を決意した。二人は“特A”という最も良い相性判定が出て結婚したはずなのだが、何故かそりが合わなかった。そうして離婚を進めようとした二人であるが、それが重大な事件を引き起こすことになるとは知らず・・・・・・

<感想>
 久々の我孫子氏の作品ということで期待したのだが、ミステリというよりはSF系の恋愛小説という感じのものでやや残念。また、話の内容もストレートというか普通のものという感じであった。

 本書を読んで一言いいたくなったのは、二人の離婚を止めようと説得する者達が下手過ぎるのではないかということ。どう見ても、主人公の二人の相性が最悪というにはほど遠く、仲良くなりそうな気配がそこここに見える。ちょっと方向を修正してやれば、円満に解決できるように思え、そういったところがどうにも歯がゆかった。

 最終的には、結局二人が先走り過ぎたというか、ありがちな離婚を早まるカップルでしかなかったというか、まさに大山鳴動して鼠一匹というような内容。


眠り姫とバンパイア   6点

2011年03月 講談社 ミステリーランド

<内容>
 荻野は友人からの紹介で家庭教師のバイトを引き継ぐこととなった。勉強を教えることになった小学5年生の相原優希という女の子ははおとなしく優秀なのだが、ちょっと内向的なところがあった。さらに荻野は優希からびっくりするような話を聞かされる。それは、彼女の父親はバンパイアで母親には秘密でときどき会いに来るのだと・・・・・・

ミステリーランド 一覧へ

<感想>
 久々のミステリーランドの新刊。もう出版されることもないかと思っていたのだが、まだかろうじて続いているよう。今回は我孫子氏の作品が刊行されることとなった。

 タイトルを聞いた時には、ファンタジー系の作品かなと思った。というのも、別のミステリーランドの作品で吸血鬼を扱ったものがあったので、ミステリ的なものは期待していなかった。実際に読んでみると、決してファンタジー系ではなく、ミステリ作品として十分になりたつ作品であったことに驚かされる。

 とはいえ、子供向けのミステリ作品という印象が強かった。父親がバンパイヤと信じる小学生の女の子と、その女の子の様子に不穏なものを感じ、謎を解こうと奔走する家庭教師。そうして、最後に女の子の家族にまつわる秘密が明かされることとなる。

 全体的にコンパクトに収め、うまくできていると感じられた。登場人物の数もギリギリで抑えており、読みやすい物語となっている。やや暗めな話であるものの、子供向けのミステリとしてはちょうどよい作品と言えよう。


狼と兎のゲーム   6点

2013年07月 講談社 単行本

<内容>
 小学5年生の智樹は友人の存在を重荷に感じていた。彼がクラスで孤立することとなったのは、唯一の友人となってしまった心澄望(こすも)のせい。心澄望の家は2年前に母親が失踪したのち、弟と二人、父親から虐待を受け続けていた。そうしていつものように、智樹は心澄望と一緒に遊んでいたのだが、ある出来事を目撃してしまったため、心澄望の父親の手から逃げる羽目となる。心澄望と共に逃げ続ける智樹。そんな彼らを心澄望の父親は執拗に追い続けるのであったが・・・・・・

<感想>
 元々はミステリーランド用に書いたそうなのだが、内容が内容だけにミステリーランドで刊行するのは止めて、代わりに「眠り姫とバンパイア」を書きあげたとのこと。そんな背景に納得してしまう作品。

 ミステリーランド用に書かれたということもあり、薄味の作品。その薄目のページ数の中に、“厭”な要素がぎっしりと詰め込まれている。まさに“イヤミス”というか、“イヤアドヴェンチャー”という感じ。子供の冒険を描いた作品というものが児童書にはよくあるが、こんな冒険は絶対に子供にはさせたくないと思えるし、自らも決して体験したくない。

 最終的に夢であったら・・・・・・とさえ感じられるような内容なのだが、そのどれもが現実のものとして受け止めなければならない事実。さらに、最後には主人公にとって重い事実が待ち受けている。ここまで“イヤ”な印象ののみで終わってしまう児童書っぽい作品と言うのも・・・・・・結局どの年齢層に薦めればよい作品なんだか。


特捜班危機一髪  警視庁特捜班ドットジェイピー   5点

2014年09月 光文社 単行本

<内容>
 警視庁のイメージアップ作戦として登用された容姿端麗な5人の警察官、その名もドットジェイピー。この面々が事件を解決し、世間一般にも認知されたものの、彼らに恥をかかされた知事は、ドットジェイピーの解体をたくらむ。その手先として、二人の優秀なSPの兄妹をドットジェイピーに入れ、そして彼らに知事自身の警護をさせて罠に欠けようとたくらむ。窮地に追い込まれつつあるドットジェイピーであったが・・・・・・

<感想>
 内容が薄い・・・・・・というかミステリですらないし。

 警察のイメージアップ作戦として作られた警視庁特捜班ドットジェイピーが、その生みの親であるはずの知事から恨みを受け、陰謀に巻き込まれるというストーリー。ただ、これがまた本当に陰謀(というほどでもないのなが)に巻き込まれるだけで、ドットジェイピーの面々がなんら行動をとらないのが気になるところ。それぞれのキャラクターにそれなりの個性があるのだから、もう少しなんとかならないものかと思ってしまった。

 キャラクター小説として売り込むのはよいのだが、だったらだったで、もうちょっと話を盛り上げてもらいたいところ。結局、誰が物語の主軸なのかもよくわからないまま、新キャラと何人かの脇役が出てきただけで話が終わってしまったという感じであった。

 一応、シリーズものの第2弾という位置づけではあるのだが、このくらいの内容であれば、半年に1冊は出してもらいたいくらいだ。でも、個人的には第3弾が出ても、もう買わなくてもよいかなと思っている。


裁く眼    5点

2016年08月 文藝春秋 単行本

<内容>
 漫画家を目指すもデビューを果たせず、実家で暮らしながら町で似顔絵書きを続ける袴田鉄雄。そんな彼の元に法廷画家の依頼が来た。なんでも法廷画家たちが直中毒により、皆ダウンしてしまったというのである。鉄雄が依頼されたのは、連続毒殺事件の容疑をかけられた美女に対する裁判。鉄雄は周囲から法廷画家としてのノウハウを聞きながら、地道に仕事をこなしていく。すると、ある日鉄雄は何者かに命を狙われることとなり・・・・・・

<感想>
 久々の我孫子氏の作品であったのだが、読んでみると・・・・・・あれ? 我孫子氏って、こんなにミステリを書くの下手だったけ? と感じてしまった。

 法廷画家というところに着目してミステリを書こうとしたのは良かったのだが、その他があまりにも微妙。肝心の法廷で取り扱われている事件について、それが最終的におざなりになってしまうというのはどうなのであろうか? 法廷の外で起きる事件も、なんかあまりにもチープというか・・・・・・

 法廷画家というものに着目したことは、題材として非常によかったと思われる。せっかくこの法廷画家というものを取り上げたのだから、ぜひともそれだけで一冊まるまる書いてもらいたかったところ。それなのに何故か、中学生の姪がもうひとつのメインパートとしてしゃしゃり出てきてしまっている。別にこの姪を登場しなくても、ミステリとしてなんの影響もなかったのでは? どうもページ数の埋め合わせのような感じにしか捉えることができなかった。

 期待した割には、全体的に薄っぺらい内容で終わってしまったなという印象。我孫子氏は作品を書くペースがあまり早くないので、新刊が出るとつい買ってしまうのだが、今後は文庫落ちでも十分なような。


怪盗不思議紳士    5.5点

2018年03月 角川書店 単行本

<内容>
 終戦後の混乱した日本において、跳梁跋扈する神出鬼没の怪盗“不思議紳士”と、その宿敵である名探偵・九条響太郎。そうしたなか戦災孤児の草野瑞樹は、とある事件をきっかけに九条響太郎の助手となる。そして九条が久々に不思議紳士と対決することとなった矢先、九条が爆殺されるという事件が起きてしまう。残された草野瑞樹は、九条の敵をとろうと、とある行動に出始め・・・・・・

<感想>
 我孫子武丸の新作であるが、我孫子氏の作風って、こんなんだったっけ? というような作品。この作品は元々、劇団の演目であった「怪盗不思議紳士」というもののリメイク脚本を我孫子氏が頼まれ、それを引き受けたとのこと。そして、その脚本からこの作品が生まれたようである。

 と、そんな背景で生まれた作品のようであるが、実際に読んでみると、あまり小説化することに向いていないような話ではないかと。レトロな雰囲気はしょうがないにしても、どうも全体的に間延びしている作品という印象が強かった。

 序盤の大きな事件が起きるところまでは良かったものの、途中が中だるみし過ぎ。怪盗から予告が来て、そこから実際に怪盗の行動が起こるまでが、あまりにも長い。そういうわけで、ミステリを読むというよりも、面白みのない物語を延々と読まされたという感じが強くなってしまった。まぁ、結末と言うか、話全体が子供向けの冒険活劇のような感じのものなので、基本的にどうというような見どころがなかったかなと。もし、作中に気に入ったキャラクターを見出して、そこに感情移入できれば、また異なる感想を抱けるのかもしれない。




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