<内容>
「空中散歩者の最期」
「約 束」
「海に棲む河童」
「一六三人の目撃者」
「寄生虫館の殺人」
「生首幽霊」
「日曜の夜は出たくない」
「誰にも解析できないであろうメッセージ」
「蛇足−あるいは真夜中の電話」
<感想>
久しぶりに読んだのだが、いくつかの短編のネタを覚えていたことにびっくりした。全体的にミステリ的にはたいしたことないような気もするのだが、印象に残りやすい何かがあるのかも。倉知氏の処女作であり、全編にわたって猫丸先輩が探偵役として登場する短編集。
「空中散歩者の最期」は、なんか島田荘司的なものを思い起こす内容。空中から落ちてきたとしか考えられない死体が見つかる話。ただ、これに関しては解答が物理的におかしいような気がしてならなかった。
「約束」は、孤独な少女の相手をしてくれていたおじさんの死の真相にせまるもの。自殺による凍死かと思われたものの・・・・・・。少女とおじさんとの邂逅が微笑ましい。でも、おじさんの死が猫丸先輩の語る通りであったら悲しすぎるなと。
「海に棲む河童」を読んで思ったのは・・・・・・尻子玉や河童に関するちょっとした知識を自身で身に着けていたのだが、たぶんこれを読んだことによって身についたものだったのかと腑に落ちる。有名な“海ガメのスープ”という話を思い起こす内容。
「一六三人の目撃者」は、演劇中に起きた毒殺事件。どのようにして毒は入れられたのかというもの。国内海外問わず、よくあるようなミステリ的な設定、そして普通の結末。
「寄生虫館の殺人」は、1階にいたはずの被害者がどのようにして3階に上ったのかというもの。発想は面白いのだが、“寄生虫館”が全くミステリとして生かされていないところがもったいない。
「生首幽霊」は、生首がしゃべるのを目撃した男は一目散に逃げかえり、次の日バラバラ死体が発見されたことを知るというもの。本書の中では一番よくできていた内容であると思われる。事件の計画性もさることながら、様々な伏線をきっちりと回収しているところも見事。
「日曜の夜は出たくない」は、恋人が巷で起きている連続切り裂き魔ではないかと疑い始めたOLの話。これが何故かしらないが結末が印象に残っていたようで、ラストのオチをしっかりと覚えていた。OLの恐ろし気な心象と真相のギャップがうまくはまっていたということか。
最後にこれらの全短編を結びつけるかのような“蛇足”があるのだが、本当に“蛇足”のような・・・・・・。とはいえ、処女作なのだからこれくらいの遊び心はあってもよいのかもしれない。
「空中散歩者の最期」 男は本当に空中散歩の最中に地面に落ちたというのか・・・・・・
「約 束」 再会を約束したはずのおじさんは何故自殺してしまったのか・・・・・・
「海に棲む河童」 島で遭遇したとされる河童伝説の真相は!?
「一六三人の目撃者」 衆人環視の劇の最中、どのようにして毒は入れられたのか?
「寄生虫館の殺人」 寄生虫館で起きた殺人事件・・・・・・被害者はどのようにして3階へと上がったのか?
「生首幽霊」 バラバラ殺人事件と生首幽霊の真相は!?
「日曜の夜は出たくない」 私の彼氏の正体は“日曜の切り裂き魔”!!
<内容>
方城成一は祖父から勘当された後、敷居をまたぐことのなかった実家へと帰ることになった。母親の話では、祖母に死なれてから祖父の様子がおかしくなったというのだ。なんでも父は心霊現象にのめり込むようになり、家に霊媒師を連れてきて降霊会を開こうとしているらしいのだ。さらにはその霊媒師のいんちきを暴こうと家には超常現象の研究家までが出入りしているという。そして成一が実家に帰ったその日、祖父が離れで殺されてしまう・・・・・・
<感想>
いや、これは意外だった。てっきりタイトルの印象からミステリーから少し外れた内容ではないかと勝手に思い込んでいた。それが読んでみたら、これが文句なしの本格ミステリー。タイトルを「降霊会の殺人」としてもいいような内容であった。今までよくぞこんな面白い本を読まずに残しておいたものだ。結構厚い本なのだが、かえってその分楽しませてもらえた。
謎となるのは密室殺人と降霊会中の殺人という不可能犯罪。これらが焦点となり最後に事件が解かれるのだが、その解決へのアプローチが以外であった。これは「やられた!」という気持ちにさせられる。倉知氏の作品では「星降り山荘の殺人」でも同様の気分を味あわされたのだが、それに勝るとも劣らない傑作である。
<内容>
「三度狐」
「水溶霊」
「写りたがりの幽霊」
「ゆきだるまロンド」
「占い師は外出中」
「壁抜け大入道」
<感想>
一度読んで以来の再読・・・・・・ひょっとした読むのは3度目くらいかも? 占いを営む辰寅と、そこで巫女役として働くこととなった姪の美衣子。二人が経験するさまざまな事件を描く。物語の流れは、依頼人が事件を持ってきて、それに対し辰寅叔父が怪しげな占いを行い、適当な解釈を依頼人に告げる。その後、事件の真相を美衣子は叔父から聞くこととなるという安楽椅子探偵的なもの。
事件のどれもが日常の謎系であり楽しめる。陰惨な事件などはほとんど起こらず、町で起きた悩み事相談に近いような感じ。それゆえか、依頼人たちも占いを胡散臭いと思いつつも特に苦情を寄せることなく、そのまま帰ってゆく。
事件の内容とは直接関係ないのだが、適当な占いによる対応で、客商売として大丈夫なのかと思われるのだが、どうやら怠け者の辰寅は依頼人が来なくても結構というスタンスであるので気にしないのであろう。また、「壁抜け大入道」にて、辰寅は「見えすぎるからこそ、辛いことだってある」と、自分の苦悩を美衣子に漏らす場面がある。これは過去に辰寅が痛い経験をしたことがあることを匂わせており、またそれにより今のようなスタンスになったのであろうと想像させられる。
ミステリとした全体的にかなりライトなものではあるが、日常の謎系のミステリとして気楽に楽しめる。下町感があふれる依頼内容と占い師たちの優しさを感じ取れる作品。
<内容>
杉下和夫は会社で上司をどついたことにより、別部署へと飛ばされる。彼はマネージャー見習いをすることとなり、スターウォッチャーと名乗る星園詩郎につくことに。お茶の間でも人気がある星園はキャンプ場のイメージキャラとしての打ち合わせのため、埼玉の別荘地へと行くこととなり、杉下も同行することに。そこには他にUFO研究家や流行作家なども招かれていた。皆が集まると、外では雪が降りだし、地域一帯を覆うこととなる。そうしたなか、山荘で殺人事件が起きてしまう。しかも大雪により脱出不能の状態。それゆえに、犯人は山荘にいる誰かだと思われ・・・・・・。そして、杉下は名探偵ぶりを発揮し出す星園に誘われて捜査活動を行うこととなるのだが!?
<感想>(再読:2018/03)
久々の再読。新装版が出たのを機に読み直してみた。この作品、読んだことがある人はわかるだろうが、とある印象深いトリックが仕掛けられている。私自身も初読のときに思わずやられてしまったということを未だに覚えている。ただ、そのインパクトを抜きにして、どのような作品であったのかと、考えながらの再読を試みた。
序盤を読んで思ったのは、キャラクター造形の古さというか、いかにもバブル期が垣間見えるような人々の様子。当然ながら20年以上前の作品ゆえに、そう思ってしまうのも当然。とはいえ、初読の時は気にならなかったように思えるので、その辺は時代の流れかなと感じられた。
そんな序盤の様子も物語が進むにつれて気にならなくなる。そしてよくよく読んでみると、きちんと伏線を張り巡らせながら、論理的な本格ミステリを構築しているという事に感心させられる。特に、消去法によって犯行可能な人物を絞り込んでいくところについては圧巻。決して本書が一発ネタのみからなる作品ではなく、その実きちんとした本格ミステリ作品として完成されているものだと痛感させられた。
物語的には、ちょっとモヤモヤしたものが残らなくもない。初読の時の読書中に、これはシリーズとして期待できるものだとワクワクしながら読んでいたのだが・・・・・・
<感想>
あくまでもフェアに! ということであり、そこここに犯人を限定するような注釈がちりばめられている。こちらもそれに挑戦するかのように犯人を当てようと考えながら読み進めていくのだが・・・・・・
あぁ、見事に作者の意図する罠にはまってしまった。狙った落とし穴へと誘導され、すっぽりとはめられてしまった気分。なるほどなぁ、確かにそうなんだけどさぁ・・・・・・なんか妙にくやしい。
本格推理小説として十分面白いし、読みやすく手軽な一冊。ぜひ他の方々も犯人当てにチャレンジしてください。
<内容>
「猫の日の事件」 (創元推理8:1995年春号)
猫のコンテスト会場で宝石の盗難事件が起こる。警備員のアルバイトをしていた猫丸先輩が謎をとく。
「寝ていてください」 (創元推理11:1995年冬号)
ちょっと怪しい病院での新薬の実験。4人いた病室から消えた一人の男。被験者のアルバイトをしていた猫丸先輩の解釈とは。
「幻獣遁走曲」 (創元推理15:1996年冬号)
アカマダラタガマモドキは実在するのか? 調査隊の一員となった猫丸先輩が現場で起きた謎に挑む。
「たたかえ、よりきり仮面」 (創元推理17:ぼくらの愛した二十面相 1997年)
屋上イベントで“よりきり仮面”の気ぐるみに悪戯されるという事件が。怪獣の気ぐるみを着た猫丸先輩の語る真相とは。
「トレジャーハント・トラップ・トリップ」 (書き下ろし)
格安のマツタケ狩りイベントで起きたマツタケ盗難事件。案内人のアルバイトをしていた猫丸先輩が謎に迫る。
<感想>
いや、これは良いユーモア・ミステリである。どれも楽しく読むことができ、一気に読まされる内容であった。短編の題材となっているものが身近にありそうなものであるという点が良いと思う。そして、本書では殺人事件などといった大きな犯罪は起きず、その多くはちょっとした程度のものとなっている。それらの事件に対する猫丸先輩の“解釈”がおもしろい。“解決”といわずに“解釈”といったのは事件について猫丸先輩を意見を述べるのだが、そのいくつかの事件に対しては真相が述べられたわけではないものもある。よって、あくまで想像にすぎないものもあるのだが、その猫丸先輩の治め方が非常に気が利いていると思えるのだ。その場の雰囲気を台無しにしないように、丸く治めてしまう猫丸先輩の手腕を聞きながらほのぼのとした気持ちになってもらいたい。といっても、猫丸先輩本人がそんなことまで考えているのかどうかはわからないのだが・・・・・・
「猫の日の事件」
これはなんといっても事件の解決の仕方が面白い。現場の大混乱の様子を想像してしまい、笑い出さずにはいられなくなってしまう。
「寝ていてください」
考えようによってはブラック・ユーモアともとれるかもしれない。結局のところ真相はどうなのだろうか? そこが気になるところ。
「幻獣遁走曲」
この話は気が利いていて良いと思う。なんとなくほのぼのとした、もしくは恥ずかしいような気持ちになってしまう。ラストのオチもお後がよろしいようで。
「たたかえ、よりきり仮面」
怪獣イベントを題材にしてしまうというところが面白い。ここで用いられた解決は、猫丸先輩が丸く治めようとしたものという解釈もできる。うまくその場をまとめたなぁ、という感じ。
「トレジャーハント・トラップ・トリップ」
これはちょっと強引だったかなぁ、という感じがした。伏線をそれなりには張ってはいるんだけれどもね。でも、人の気持ちをうまくとらえたと言えなくもない。
<内容>
牧村知子はクリーニング店で働く主婦であり、県庁勤めの父と小学生の娘美歩と三人で暮らしている。その彼女が住む平凡な街で、女子高生撲殺事件が起こる。さらには連続殺人事件へと発展して行き、過食症の女性、新聞の投書欄に投稿するのが趣味という主婦らが殺されて行く。そして事件のたびにマスターラーヤナーからの電波受信の邪魔をしたから抹殺したという意味不明の内容が綴られる怪文章が撒き散らされる。果たして犯人の目的とは?
<感想>
きわめて現代的な社会派小説である。いちおうミステリーの形態はとってはいるものの、社会派的な小説部分の比重のほうが大きいようである。事件が起き、それにかかわる背景のなかで、キーワードとして出てくるものが(例えば、現代の子供の生き方であるとか、おたくの要素であるとか)心理的心情的に分かりやすく解説されている。これらの部分はかなり楽しく読めるのであるが、ミステリーとしてはかけ離れている気もする。
ミステリーの部分としては、ミッシングリンクもの。連続殺人事件が起こり、それらの被害者たちの関連性が問われる内容となっている。いちおう、解決の内容が前述した部分と関わっているのであるが、密接しているとはいい難い。よって、がちがちの本格ミステリーとして読むものではないのであろう。とはいうものの解決の部分では、いちおうは論理的な形式もとっているし、わかりにくくも伏線のなるべくものも存在している。また読者を驚かせる仕掛けのような部分も確かにある。
この作品は書き方によってはかなり陰惨な雰囲気のものなったと思う。しかし、著者は主人公に平凡な家庭を築く主婦とそれをとりまく普通の人たちを配し、ほのぼのとした小説にしあがっている。この書き方によって、ミステリーとは少々かけ離れてしまったというように感じられるのだが、著者の述べたいと思われる主張を読者に伝えようとする試みは成功していると言えよう。
<内容>
「人を殺したかもしれない・・・・・・」真幌の春の風物誌「浦戸颪」が吹き荒れた翌朝、美波はカノコから電話を受けた。七回の部屋を覗いていた男をモップでベランダから突き落としてしまったのだ。ところが地上には何の痕跡もなかった。翌日、警察が鑑識を連れてどやどやとやって来た。なんとカノコが突き落とした男は、それ以前に殺され、真幌川に捨てられていたのだ!
<感想>
なんとも気味の悪い不可解な事件にのほほんとした学生カップルが挑戦する。なかなか倉知氏らしい雰囲気が出ていて、物語自体も綺麗にまとまっている。事件の糸口も全編とおして、関連する部分や伏線などが張ってありできも良いとは思う。ただ、事件のトリックとしてはある種ありきたりのような気もするし、理由をつけてはいるにしても少々突飛であると思う。ちょっと苦しかったかなという気がした。
またひとつ思ったのは、倉知氏の独特の雰囲気を味わうには中編ではページが足りなかったかなという気がする。倉知氏ならこの内容でもう少し長い作品が書けたのではないだろうか。長編であるほうが登場人物らの感情などがもっと豊かにあらわすことができたと思う。この本のページではちょっと中途半端に感じた。
<内容>
『病気、至急連絡されたし』手を替え品を替え、毎夜届けられる不審な電報。花見の場所取りを命じられた孤独な新入社員を襲う数々の理不尽な試練。商店街起死回生の大イベントに忍び寄る妨害工作の影。
年齢不詳、神出鬼没、つかみどころのないほのぼの系、猫丸先輩の鋭い推理が、すべてを明らかにする!?
「夜届く」
「桜の森の七分咲きの下」
「失踪当時の肉球は」
「たわしと真夏とスパイ」
「カラスの動物園」
「クリスマスの猫丸」
<感想>
なんだかよくわからない探偵? 猫丸先輩の活躍が一冊に収められた待望作。
今年度の本格ミステリの短編集では法月綸太郎の「法月綸太郎の功績」と本書がまさに双璧といいたくなる出来である。“クイーンの法月”と“チェスタトンの倉知”といってしまいたくなる。倉知氏をチェスタトンと表現するには異論があるかもしれないが、本書における猫丸先輩の推理の奇想ぶりからは、クイーンの論理とは対極的に思えるものを推したくなりこのように表現した。
とくに感心した一作が「夜届く」。こちらが全く予想もしなかった裏に潜むともいうべき感情を見事に表に引き出している。この裏に潜むという表現も猫丸先輩にいわせれば、「なんとまぁ傲慢な」といわれてしまうかもしれない。この“傲慢な”という言葉の裏に秘められたものになんともいえぬものを感じた。この一編がチェスタトンの「見えない人」の現代版という言葉を連想させた。
作品の多くが“推測”という題名にも表れているように、あくまでも猫丸先輩の仮定という形にされている。証拠などが後から提示されるわけでもないし、それが確かめられるわけでもない。それでもその奇想天外な“推測”に味のあるのが猫丸先輩であるが、今作品の「たわしと真夏とスパイ」は論理的な解決がされている一編となっている。商店街の大売出しセール夜祭りにおける中途半端な嫌がらせ。誰が、何のためにという出来事を伏線をからめながら実にうまく解決している。
今、挙げた二編が作品のなかのベストであるが、他の作品もそれぞれの味がでているし、我が物顔で登場してくる猫丸先輩がさまざまな推測で楽しませてくれる。これはこれからもシリーズとして待ち遠しい作品集となりそうである。
<内容>
五年三組のクラスで不用品ばかりが盗まれるという不可解な事件がおき続けている。写生の授業で描いた絵画、人気のないにわとり、張りぼての巨大招き猫、縦笛の真ん中の部分。いったい誰が何のために事件を起こしているのか? 僕はクラスの変わり者の龍之介君と一緒に犯人を突き止めようとするのだが・・・・・・
<感想>
まぁ、普通に面白いといったところ。もうすでにミステリー・ランドの既刊の中で少年探偵団ものはいくつか出てくるので目新しさは感じられなかった。しかし、元々倉知氏の作風はほのぼのとした雰囲気を持っており、こういった作品を書くことにおいてはとても適しているのではないかと思われる。よって、それなりに良い作品にできていたと感じられた。
ただし残念に思えたのは序盤から中盤にかけてが冗長すぎたというところ。与えられる謎は連鎖するものではなく、序盤に提示される<四つの不用品の盗難事件>のみ。にも関わらず、そのことについてだけの推理・推測と捜査が延々と続けられる。正直、最初のほうはだれてしまった。
しかし、後半にて解決へと進んでいく部分いついてはうまくできていると感じられた。4つの盗難物のミッシングリンクをどのように解決するのかが本書の見ものといったところ。まぁ、ミステリー・ランドだから許される展開のようでもあり、それでも倉知氏の作品だったら普通の作品であってもこういう結末はありなのかなと思われたりと、とにかくそんな感じの終わり方であった。このへんは読んでごらんいただきたいところ。
あと、蛇足になるが本書では倉知氏の作品の多くに登場するあの人の影が見え隠れする。最初はまさかあの子が・・・・・・と思ったのだが、真実は読んでのお楽しみというところで。
<内容>
「水のそとの何か」(毎日ベランダに置かれるペットボトルの謎!)
「とむらい自動車」(なぜ、タクシーが次から次へと呼ばれてくるのか?)
「子ねこを救え」(虐待される子ねこを救え!)
「な、なつのこ」(割られたスイカの謎とは?)
「魚か肉か食い物」(大食い少女が逃げ出した理由とは??)
「夜の猫丸」(会社に鳴り響く電話の怪!)
<感想>
前作はその内容が示すよう“推測”というに相応しい作品であったのだが、本書はそれに輪をかけたかのようにますます“推測”ぶりが強まっていったと感じられた。まぁ、確かに面白い事は面白いのだが、ちょっとその“推測”ぶり(今回は“空論”ぶりということにしたほうが良いのかな?)が強すぎるのではないかなと思えた。また、それぞれの短編が小さなネタひとつのみを扱って、長々と伸ばしていたようにも感じられたので、そういう面でも物足りなさを感じてしまった。
と、いうわけでミステリーとしての評価はそれほど高くないのだが、それでも猫丸先輩のシリーズの小説としての価値はあると思う。楽しく手軽に読めることは間違いないので、読んで損はない一冊である事は確か。
あまり関係ないけど、「魚か肉か食い物」というタイトルには、なんか笑えた。
<内容>
「運命の銀輪」
「見られていたもの」
「眠り猫、眠れ」
「ナイフの三」
「猫と死の街」
「闇ニ笑フ」
「幻の銃弾」
<感想>
倉知氏のノン・シリーズ短編集。デビュー以来、書きためていた短編を本書ともう一冊「こめぐら」と合わせて2巻にまとめたもの。
最初の「運命の銀輪」という作品はコロンボ警部を思わせる倒叙ものの作品。これはシリーズになってもおかしくなさそうなキャラクターが登場している。一台の自転車に残された痕跡から、刑事が徐々に犯人を追いつめていく。
シリーズといえば、意外というかたまたまなのか、「ナイフの三」と「闇ニ笑フ」の主人公が同一人物のようである。ノン・シリーズ短編集ではあるが、ここだけがかぶっている。主人公が脚本家を目指して修行中という設定が「闇ニ笑フ」の内容にうまく利用できたということが、このキャラクターを再利用した理由のように感じられる。
個人的に面白かったというか、あっけにとられてしまったが「見られていたもの」。冒頭に、意味深な著者からの注釈があるのだが、その注釈が付けられていることにより、この作品から感じ取れる印象をがらりと変えている。
倉知氏の作品での代表的なキャラクターといえば猫丸先輩となるが、著者には猫に何らかの思い入れがあるのだろうか。本書では猫丸先輩は登場しないが、猫が登場する作品がタイトルの通り2編ほど見受けられた。全体的にバラエティに富んでいて楽しく読める作品集であった。
<内容>
「Aカップの男たち」
「真犯人を探せ(仮題)」
「さむらい探偵血風録 風雲立志編」
「偏在」
「どうぶつの森殺人(獣?)事件」
「毒と饗宴の殺人」
<感想>
「なぎなた」と同時発売されたノン・シリーズ短編集。こちらはなんとなく“ボツ作品集”という気がしてならないのだが、一応どの作品も雑誌などに一度は掲載されている。
「Aカップの男たち」は“密室”とか“鍵”とか、そういったキーワードが出てくるミステリではあるものの、毛色が違い過ぎる内容。決して実写化してもらいたくない作品・・・・・・いや、実写化したらしたで見る価値はある?
「真犯人を探せ(仮題)」「さむらい探偵血風録 風雲立志編」「どうぶつの森殺人(獣?)事件」の3作品は完全にボツネタっぽい。良く言えばバカミスともいえるのだが、とりあえず脱力系ミステリ作品ということで。
「偏在」はある意味、一番意外性のある作品とも言えるであろう。まさか、こんな展開になろうとは。
「毒と饗宴の殺人」はノン・シリーズ作品集のなかに唯一とも言えるシリーズキャラクター、猫丸先輩が登場している。なんとなくボーナストラックとも思えるのだが、毒殺ミステリとして、意外とうまくできているとも感じられた。
さすがにこちらの作品集はバラエティに富んでいるというのを超えてしまっているように思われる。もう一方の「なぎなた」の方が一般的な気がした。よって、こちらはあまり一般向けとは言えないような作品集。
<内容>
「現金強奪作戦!(但し現地集合)」
「強運の男」
「夏の終わりと僕らの影と」
<感想>
タイトルと表紙に偽りあり? ・・・・・・とまではいかないまでも、この表紙はちょっと・・・・・・。なにしろ、最初の話は無職の男が胡散臭い男から銀行強盗を持ちかけられる話だし、2作品目は中年同士の変わったギャンブルの話。シュークリームのような甘さなどみじんもない。とはいっても、内容はそれなりに面白く、十分に楽しめる作品集ではある。
胡散臭いギャンブルを描いた「強運の男」はさほどでもなかったのだが、最初の「現金強奪作戦」は楽しめた。こちらも胡散臭さがぷんぷんしており、そうした状況から主人公の青年は他人が描いた現金強盗に参加する羽目となる。その結末は是非とも作品を読んで堪能してもらいたい。
3作品目の「夏の終わりと僕らの影と」こそがこの表紙を表した作品である(シュークリームは関係なさそうだが)。ここで起きるのは事件というよりは、高校生らが映画撮影をしているときに起こる青春の一コマとでも言えばよいのだろうか。ミステリ要素はあるものの、どちらかといえば青春小説を楽しむというような趣向か。
この作品の時代背景が2000年よりも少し前の時代としているのだが、これが作品に生きてくるのかなと思ったのだが、そういうわけではなかったよう。発表したのは最近であっても、構想したのはだいぶ前というだけだったのかな。
<内容>
「限定販売特製濃厚プレミアムシュークリーム事件」
「通い猫ぐるぐる」
「名探偵南郷九条の失策 怪盗ジャスティスからの予告状」
<感想>
先月出た姉妹版の“生チョコレート”の表紙を読了後に見た時には、なんとなく詐欺的なにおいを感じたものだが、その趣はこの作品を読んでさらに強まることに。っていうか、こんなキャラクター、全く登場していないじゃん!! 基本的には、おっさん密度が非常に濃い作品集となっている。
「限定販売〜」という作品名に騙されてはいけない。これはメタボな男たちが体質改善セミナーに参加し、そこで起きる事件というほどでもない事件を描いた作品。誰がシュークリームを食べたかを論理的に推理するという内容。この作品が冬に出てよかった。夏だったら、暑苦しいことこのうえない。話の展開はどうかと思えてならないのだが、論理的な推理に関しては決して悪くはない。
「通い猫ぐるぐる」は、猫を用いた暗号事件のようなもの。なんか、そんな感じ。
「名探偵南郷九条の失策」は、こまた雰囲気は鬱陶しいことこのうえないのだが、ミステリとしては、それなりに面白く仕上がっている。似たようなトリックのものは多々あるのだが、それでも何となく騙されてしまった。
作調というか、物語の雰囲気になじむことができれば、それなりに楽しむことができる作品集だと思う。
<内容>
聴覚を失ったことをきっかけに引退した時代劇の大スター片桐大三郎が、彼の“耳”を務める秘書の野々瀬乃枝と共に難事件を快刀乱麻のごとく解決する!
「冬の章 ぎゅうぎゅう詰めの殺意」
「春の章 極めて陽気で呑気な凶器」
「夏の章 途切れ途切れの誘拐」
「秋の章 片桐大三郎最後の季節」
<感想>
聴覚を失った大スター、そしてタイトルにある“XYZ”ということで、エラリー・クイーンが描く“ドルリー・レーン四部作”をモチーフとした作品であることはすぐに推測できると思える。実際に起こる事件も四部作で用いられるものを流用したようなもの。それを和風ドルリー・レーン(といいつつも、上品さに関しては雲泥の差が)が、秘書と共にコミカルに解決していくという内容。
設定といい、事件といい、なかなかうまく描かれているが、全体的にいえば事件に関する内容が薄かったかなと。主人公である片桐大三郎の設定に関する描写がやや多すぎたような印象。とはいえ、十分に堪能できる論理的な推理を展開してくれており、本格ミステリを楽しめることは確か。個人的には「Zの悲劇」と「レーン最後の事件」にあたる「夏の章」と「秋の章」の二つが良かったかなと。
「冬の章 ぎゅうぎゅう詰めの殺意」は、電車内で起きた毒殺事件の謎を解くというもの。これに関しては解決に大いに不満が残った。解決されたものが唯一の真相というようには思えなかったし、むしろ無理があるような気がしてならなかった。色々と細かな粗が気になってしまった一作。
「春の章 極めて陽気で呑気な凶器」は、マンドリンで殺害された画家の事件の謎を解くというもの。事件の解については、うまくできていると思いつつも、細かな部分がわからなくても、犯人は自動的にひとりしか該当しないのでは? と。むしろ、警察がそこを追及しなかったところが微妙でならない。
「夏の章 途切れ途切れの誘拐」は、誘拐事件を描いた作品。これは“レーン四部作”からは、一番かけ離れた内容と思えたのだが、個人的にはこの作品が一番よく出来ていたと感じられた。論理的に強引な部分もあるのだが、全体的にうまくできており、衝撃的な印象を残す内容も含まれている。この一作で作品全体に対する評価が大幅に上がった。
「秋の章 片桐大三郎最後の季節」この作品に関しては、あれこれ言わずに、先入観無しで読んでもらいたい内容。ただし、これを読む前に是非とも「レーン最後の事件」を読んでおいてもらいたい。ただ、そうすると“レーン四部作”を全部読まなければならないので、未読の方はこの本に手を付けるまで、ずいぶんと時間がかかってしまうかも。
<内容>
「運命の銀輪」
「皇帝と拳銃と」
「恋人たちの汀」
「吊られた男と語らぬ女」
<感想>
倉知氏による倒叙小説。昔は、あまり倒叙小説など書かれていなかったような気がするが、近年はちらほらと書かれるようになってきた気がする。そうしたなかで、如何に他の作品と差別化を図るかが倒叙小説の課題ではなかろうか。その差別化を図る上でポイントとなるのは2点。探偵役のキャラクター造形、そしていかなる方法もしくは論理で犯人を追い詰めるか。
本書で探偵を務めるのは捜査一課の警部、乙姫。この警部の外見が特徴的で、警部を見た人は誰もが死神と形容する。その名前と外見がアンバランスな警部が容姿端麗な鈴木刑事をひきつれ、容疑者を追い詰めていくこととなる。このキャラクター造形に関しては、とにもかくにもドラマ化を意識していると感じてしまったのは私だけだろうか? 悪い感じ方かもしれないが、どうしても最近流行りの俳優の顔が頭に浮かび上がってきてしまう。
そして、その乙姫警部による犯人の追い詰め方であるが、この辺はずいぶんと平凡であるなという感じ。ゆえに、作品全体が平凡なミステリ作品集であったような。最後の「吊られた男と語らぬ女」あたりは変化球気味の展開で面白いと思えた。他の作品もそれぞれポイントは付いているものの、ハッとさせられるような驚きまでは与えられなかったかなと。
それでも、決してキャラクター造形や内容が悪いというわけではなく、読みやすくて取っ付きやすいミステリ小説としては非常に好感が持てる。今後シリーズ化をして、同種の作品を書きつづければ、段々と味わいが出てくるのではなかろうか。
「運命の銀輪」 合作で小説を書いていた男が相棒を殺害し、自転車で逃走しアリバイを創るのであったが・・・・・・
「皇帝と拳銃と」 脅迫された教授は計画を練り、相手を屋上から落として死亡させることに成功したのだが・・・・・・
「恋人たちの汀」 金貸しの叔父を殺してしまった男は、恋人に頼んでアリバイ工作を行うのであったが・・・・・・
「吊られた男と語らぬ女」 彫刻家の男を首吊りに見えるように工作した写真家の女は・・・・・・
<内容>
「変奏曲・ABCの殺人」
「社内偏愛」
「薬味と甘味の殺人現場」
「夜を見る猫」
「豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件」
「猫丸先輩の出張」
<感想>
いろいろなジャンルの作品が詰めこまれている。
「変奏曲・ABCの殺人」は、サイコホラーのような雰囲気のアンチミステリと言った感じ。嫌な世の中を風刺しているようにも捉えられる。
「社内偏愛」は、ライトSFといってもよいかも。会社を管理するコンピュータに気に入られた男の悲哀。
「薬味と甘味の殺人現場」は、不自然な死体の状況について言及する内容。ただ、考察するだけで終わてしまうのはもったいないような。
「夜を見る猫」は、最初は単なるほのぼのとした話のようであったものが、後半はミステリ的な展開へとなだれ込む。田舎であれば現実的にありそうな話?
「豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件」は、SFミステリっぽい発想が非常に面白い。それだけに、物語全体の理由付けの足りなさが惜しいと思われた。もう少し長めの作品にしても良かったのではなかろうか。
「猫丸先輩の出張」は、犯人消失の謎を、何故か現場にいる猫丸先輩が解き明かす。ただ、話の設定からして、物語の全貌があまりにもわかりやすい。本書のなかで一番長めの作品であるのだが、ミステリ作品としてちょっと弱め。
「変奏曲・ABCの殺人」 無差別殺人のニュースを見た男は、事件に便乗することを考え・・・・・・
「社内偏愛」 会社を効率よく管理するためにAIを取り入れたものの・・・・・・
「薬味と甘味の殺人現場」 口にネギがつっこまれ、周りにケーキが並べられた状態で発見された死体の謎。
「夜を見る猫」 田舎に帰ってきた女は猫が示唆するものに気付き・・・・・・
「豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件」 戦時中に研究施設で起きた前代未聞の事件。
「猫丸先輩の出張」 研究施設で起きた、犯人消失事件。
<内容>
「文豪の蔵」
「ドッペルゲンガーの銃」
「翼の生えた殺意」
「それから」
<感想>
倉知氏による本格ミステリ作品集。女子高生小説家の水折灯里が、警視庁捜査一課の刑事である兄にねだり、変わった事件がないかを聞き、兄と共に現場へとおもむく。そして一通り情報を得ると、なんと兄の体に御先祖様がとりつき、事件を見事解決してしまうというパターンの作品集。
ここでは主人公らが三つの事件に挑んでいる。鍵がひとつしかない南京錠で締められた蔵のなかで発見された死体の謎に挑む「文豪の蔵」。2か所同時に別の場所から発見された銃弾の謎に迫る「ドッペルゲンガーの銃」。雪が降った後、被害者と発見者の跡しかない不可能殺人の真相を解き明かす「翼の生えた殺意」。
実はどの作品も謎が解かれると、「何だそんなことか」と手品のトリックを明かされたときのような感触を抱く。ただ、その謎が明かされる前は、何がどのようになっているのかと、うんうんと首を捻りながらの謎解きが楽しめるようになっている。初心者向けのミステリというような気もするが、それなりにしっかりと楽しめる作品になっているので、これはお薦めできるミステリ作品集と言えよう。
個人的には「ドッペルゲンガーの銃」がうまくできていたかなと。トリックと動機がうまく絡み合っているところがよいと思われた。それに対して「翼の生えた殺意」のほうは、少々トリックが強引ではないかと。これは鑑識の段階でトリックがばれてしまうのではないかと感じられた。
そして最後の「それから」は、おまけというか、あとがきみたいなもの。わざわざ「それから」というあとがきまで添えてくれたのだから、これは続編を期待していいかもしれない。何気にこういう真っ向からのミステリに取り組んだ作品は、今は少ないので、是非ともシリーズ化を期待したいところ。