麻耶雄嵩  作品別 内容・感想

鴉   7点

1997年10月 幻冬舎 単行本
1993年03月 幻冬舎 幻冬舎ノベルス

<内容>
 弟・襾鈴の失踪と死の謎を追って、地図にない異郷の村に潜入した兄・珂允。襲いかかる鴉の大群。四つの祭りと薪能の儀式。蔵の奥の人形。錬金術。嫉妬と憎悪と偽善。五行思想。足跡なき殺害現場。連続殺人。人殺しの手に表れるという奇妙な痣。盲点を衝く大トリック。村を支配する大鏡の正体。ふたたび襲う鴉。そして、メルカトル鮎。


木製の王子   6点

2000年08月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 比叡山の山奥に隠棲する白樫家は、一点に収斂する家系図を持つ“閉じられた一族”。その奇矯な屋敷が雪で封印された夜、再び鳥有は惨劇を見た。世界的な芸術家・宗尚の義理の娘、晃佳の首がピアノの鍵盤の上に置かれていたのだ。関係者全員に当てはまる精緻なアリバイを崩す事はできるのか!?

詳 細

<感想>
 ようやくこの作品が「翼ある闇」の後に起きた事件となる。最初この本の題名は「ジェノサイド」と仮定していたようであるがなぜか「木製の王子」。読了後も題名の意味はよくわからない。

 この話しでは誰がいかに、ということがメインではないだろう。(そのことの談義でページを多くとってはいたけど)メインとなる部分は白樫家に関する秘密であろう。ただそのメインの部分が分かりやすいためにその謎で最後までひっぱるというのも少々きついような気がした。他にも誰がアリバイの間隙をぬって、という謎があるにしても、登場人物が明確にされていないなか、それを読者に強いるというのは少々きついのではないかとも思われる。「鴉」に続く麻耶雄嵩らしい作風ではあるのだがもう一味欲しかったなというところ。


まほろ市の殺人 秋  闇雲A子と憂鬱刑事   6点

2002年06月 祥伝社 祥伝社400円文庫

<内容>
「早く乗せて!」非番の刑事・天城憂の車に、女性が乗り込んできた。真幌市在住の有名なミステリー作家・闇雲A子だった。この春から11件も連続して殺人事件が発生している。その「真幌キラー」をA子は追っていたのだ。犬のぬいぐるみ、闘牛の置物、角材・・・・・・。真幌市を恐怖のどん底に陥れる殺人鬼の正体とは?

まほろ市の殺人 春   まほろ市の殺人 夏    まほろ市の殺人 冬
「幻想都市の四季」総括

<感想>
 ボツネタとまでは言わないが、この長さではきつい内容であったのかもしれない。長編だったらもう少し、いろいろな工夫ができたのかもしれないが、この短さで連続殺人ものというのはきつかったかもしれない。二人の憂鬱刑事に闇雲A子とそのパートナーたち。といろいろと登場人物が出てきたものの、それぞれをあまり書ききれなかったようである。

 ただ、それでもラストが結構きれいにまとまっていたのではないかと思う。それでまとめてしまうのはと思うところはあるのだが、なるほどとも思えるのも確か。まぁこういう作品も麻耶氏らしいのかもしれない。


名探偵 木更津悠也   6点

2004年05月 光文社 カッパ・ノベルス

<内容>
 「白幽霊」 (ジャーロ:2001年夏号)
 「禁 区」 (ジャーロ:2002年秋号)
 「交換殺人」 (「21世紀本格」カッパ・ノベルス:2001年12月刊)
 「時間外返却」 (ジャーロ:2004年冬号)

<感想>
 やはりこういう推理小説が良い。事件が起き、探偵がその事件を依頼され、その謎を探偵とワトソン役のものが解いていく。当たり前のような事なのだが、こういうミステリーが最近では少なくなっている。奇をてらったミステリーも悪いというわけではないのだが、それでもやはり私が読みたいのはこういう推理小説なのである。

 本書の題名は「名探偵 木更津悠也」である。最初にこれを見たときには、もう少し良いタイトルを付けることができなかったのだろうかと感じた。しかし本編を読んでみると、実は以外にこのタイトルはしっくりくるものであることに気がつく。麻耶氏のシリーズ探偵といえば、メルカトル鮎と美袋のコンビがある。この二人の関係も少々おかしなものだったが、本書の木更津と香月の関係もまたおかしなものとなっている。どうおかしいのかといえば、ワトソン役の香月がやたらと木更津を賛美するのである。この度を超えた賛美ぶりが本書の特徴の一つとなっている。香月が描く“名探偵”という意味合いが本書のタイトルにかけられているようである。

 読了後に気になったことを一点。大まかには満足してはいるのだが、食い足りなさを感じたのも事実である。麻耶氏の推理小説にはどうしても過度の期待をしてしまう。読み手側としては、たとえ長い期間が開いたとしても待ち続けているので、できるだけ良いものを届けてもらいたいと思っている。今回の作品を読んで、微弱ながらも有栖川氏の諸短編に見られる傾向のレベルの下がり方をしているような感じを受けた。麻耶氏には常に王道を突き進んでいってもらいたいものである。


「白幽霊」
 容疑者一同を集めることによって犯人がわかるという解決の仕方はおもしろく感じられた。しかしながらカーテンの一部が切り取られたという犯行の部分が、それだけにしか生かされていないというのは少し残念な気がする。

「禁区」
 トランプ・ゲームを再現することにより犯人を指摘するというミステリーはいくつか存在する。本書ではそのトランプ・ゲームのなかでも“大富豪”(もしくは“大貧民”という言い方もあるか)のゲームの模様を再現することにより犯人を当てるという試みがなされる。心理的描写といい、論理的な推理展開といい、今作の中では一番良かったのではないだろうか。

「交換殺人」
 交換殺人をあつかったミステリー。ではあるのだが、犯人当ての根拠が微妙だったように感じられる。話の最後で用いられる推理はブラック・ユーモア的であった。

「時間外返却」
 最初タイトルを見たときには、これは面白そうと思ったが、よくよく考えれば平凡なタイトルであることに気づかされる。
 うーーん、犯人は確かに以外であるのだが、その犯人像というのは私の中では理解できるものではなかった。なんとなく強引な力技という印象を受けた。その犯人像を除けば確かにどれもこれも納得のいく推理ではあるのだが・・・・・・


螢   6.5点

2004年08月 幻冬舎 単行本

<内容>
 大学のオカルトスポット探検サークル“アキリーズ・クラブ”の6人は去年と同様、クラブのOBである佐世保が購入した屋敷“ファイアフライ”館に集まった。その館は当然のごとくいわく付きの物件で、十年前にその館に住んでいたヴァイオリニストが仲間の演奏家たちを惨殺するという事件が起こっていた。そして今年も“ファイアフライ”館にて合宿を始めたアキリーズ・クラブであったが、次々と怪異な現象にみまわれ、とうとう殺人事件までもが起こることに! 嵐によって館から脱出することができなくなった彼らを待ち受ける運命とは!?

<感想>
 読み始めたときは昔なつかし新本格の雰囲気がここによみがえったという感じであった。中盤から後半にかけては、不謹慎ながらも思ったよりも人が死なない事からとある結末を予想していた(←この予想は完全に外れたのだが)。そして解決のラストにおいて、全く予想もしていなかった事実に驚くよりもあっけにとられ、少しの間その意味を飲み込むことができなかった。しかし、本の最初に戻りパラパラとページをめくってみると・・・・・・なるほどそういう仕掛けがしてあったのかとただ感心するのみ。

 別に大きなトリックというわけでもなく、これがオリジナルというわけでもないのだろうが、結構驚かされてしまった。本の雰囲気からいえば、“静かなるカタストロフィ”といったところか(少しおおげさかもしれない)。

 それにしても、ミステリにはいろいろな仕掛けがあり、あれこれ組み合わせることによっていろいろな効果をあげることができるものだとつくづく考えさせられる。ミステリにおいてトリックや物語のパターンなどは出尽くしたという感があるかもしれないが、読者を驚かせる方法というのはまだまだ色々と創られてゆくのだろうなと感じさせられた本である。

 派手さはないながらも、じわじわと繰り広げられるホラー色の濃いミステリといったところか。


神様ゲーム   6点

2005年07月 講談社 ミステリーランド

<内容>
 小学校四年生の芳雄は町内の同級生5人と少年探偵団を結成している。そんな彼らの町で最近起きているのが猫殺害事件。団員の飼い猫もその被害にあっており、少年探偵団の手によって犯人を突き止めようと捜査を開始する。そんなある日、芳雄は一緒にトイレ掃除をしていた転校生の鈴木君と初めて話をすることに。すると、その鈴木君は自分は神様だと名乗るのであるが・・・・・・

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<感想>
 いや、これはすごい作品だと思う。どのようにすごいのかといえば、子供向けとは思えないほどの歪みっぷりがものすごい。その歪みっぷりは麻耶氏らしいといえばそれまでなのだが、それを子供向けの本の中で堂々とやってしまうのだから絶句してしまう。

 私的には“神様ゲーム”というタイトルの意味をなす物語の構成は面白かった。また、本書にはある種の残酷さが付きまとうのだが、それが主人公にとっては間接的であるかのようにうまく描かれていたと思う。残酷な現実の中で、うまく距離をとって描いているように思われ、その辺の描き方は絶妙であったと感じられた。

 さらには、これが麻耶氏ならではの意地の悪さだと思うのだが、最後の最後での突き落としはやりすぎとしか思えなかった。こういったところは「夏と冬の奏鳴曲」以来、全く懲りていないのだろうと思わされるところである。


貴族探偵   7点

2010年05月 集英社 単行本

<内容>
 「ウィーンの森の物語」
 「トリッチ・トラッチ・ポルカ」
 「こうもり」
 「加速度円舞曲」
 「春の声」

<感想>
 貴族探偵を名乗る、ちょっと変わった探偵によるミステリ短編集。

 起こる事件はさほど大したものとは思わないのだが、犯人当てや犯人を指摘する過程など、それぞれ細かくきちんとひねられたものとなっている。このへんはさすがと言えよう。今さらと言えるような探偵小説であるにもかかわらず、きちんと目新しさを感じさせるところはすごいと感心させられる。

「ウィーンの森の物語」は失敗した密室トリックとそのリカバリーをするという犯人の行動から真相を推理し、「トリッチ・トラッチ・ポルカ」はバラバラ死体の謎を解く。どちらも犯人は意外な人物となっている。アリバイがあるように見えながらも、それぞれ思いもよらぬアクロバティックな方法で犯行を実行している。

「こうもり」はやられた、としか言いようがない作品。普通に読んでいながらも、あっさりと重要事項を読み飛ばしてしまった。後からあわててページをめくりなおし、あからさまな描写にあきれつつも、驚かされた。

「加速度円舞曲」は被害者の習性や犯行状況により、不可解な状況にせざるを得なかった犯人の努力に感嘆させられる。よくぞこんな行き当たりばったりの状況を作り出せたなと。

 そうしたなかで「春の声」のみが麻耶氏にしては普通であったなと。結構、さまざまなところで使用されているようなトリックなので。


隻眼の少女   7点

2010年09月 文藝春秋 単行本

<内容>
 大学生の種田静馬は両親を亡くしたことを気に病み、自殺を遂げようと以前に訪れた事のある秘境・琴乃湯へと来ていた。静馬はその地で伝説とされる“竜ノ首”と呼ばれる岩に魅入られ、よく訪れていた。そこで彼は御陵(みささぎ)みかげという名の探偵と名乗る隻眼の少女と出会うこととなる。みかげの母親は探偵として日本全国に名をとどろかせており、その亡くなった母親の名を継ぎ、みかげは現在探偵として修行中の身の上であるという。
 そうして探偵の登場を待ち受けたように、琴乃湯の地の地主である琴折家に悲劇が起こる。この地では琴折家から代々チカラ持つ者として女のみに“スガルさま”と呼ばれる地位が継がれてきた。その継承者となる予定であった三つ子のうちの一人、春菜が首を切られた死体として竜の首で発見された。さっそく推理を披露することとなったみかげは琴折家の頼みにより事件の解決に挑むのであったが・・・・・・

<感想>
 これまた麻耶氏らしい、作為と悪意に満ちた作品と言えよう。今回も相変わらず、「麻耶氏の作品には外れなし」である。

 事件は旧家で起こる連続殺人事件。その中身はまるで横溝正史氏が描く事件のよう。わらべ唄こそないものの、あれよあれよという間にどんどんと被害者が増えていくこととなる。その途中途中で繰り広げられる探偵・御陵みかげによる端正なロジックの数々。しかし、その論理をあざ笑うかのように犯人はその先へ先へと行っており、探偵は犯人によって翻弄されることとなる。

 前半部分は普通のミステリらしい場面が繰り広げられるのだが、端正なロジックが披露されるものの、展開としてはやや退屈だと感じられた。麻耶氏の作品としてはあまりにも普通のように感じられ、騙されまいと思いながら読んでいたものの著者の意図をつかむことはできず、平凡なミステリ作品なのかとさえ思いこまされる。

 そうして話は後半へと移って行くことに。この作品は目次を見てもらえればわかるとおり、前半の話と後半の話に18年の間が開けられている。後半は最初に起きた連続殺人事件から18年後に同じ場所でさらなる連続殺人事件が起こるという展開がなされている。

 正直、読んでいる途中では連続殺人の意図やそこで起こった余計なように感じる事件、さらには18年経過してのさらなる事件と、それぞれが何をもってして起きているのかという必然性を全く読み取ることができなかった。しかし、真相に至ることによって、それらの全てが解決することとなる。まさか事件の動機に全てが隠されているとは思いもよらなかった・・・・・・

 最後に明らかになる真相によって、意味合いとしてはすっきりするものの、物語の流れとしては綺麗に終わる話とは決して言えない。あえてそうしたもやもや感を残すことにこそ麻耶氏の悪意が顕著に表れている作品とも言えよう。一世一代といってもおかしくないようなトリックに彩られたミステリ作品であった。


メルカトルかく語りき   6.5点

2011年05月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 「死人を起こす」
 「九州旅行」
 「収 束」
 「答えのない絵本」
 「密室荘」

<感想>
 お世辞にも趣味が良いとは言えない問題作をまた・・・・・・絶対に、麻耶氏が書いた作品じゃなければ、けなされていただろうなという趣向。

「死人を起こす」は、6人の高校生が変わった屋敷に泊まりに行き、そこで事件が起こる。後に、その事件の真相を探ろうと残された者達がメルカトル鮎に事件を依頼するが、さらなる事件が起きてしまう。
 雰囲気は本格ミステリらしく、事件の謎を解いて行くメルカトルの推理も見事なもの。しかし、最後の最後で事件の関係者たちはメルカトルから思いもよらぬ真相(?)を聞くこととなる。あまりにもとしか言いようのない、確信犯的推理に絶句するのみ。

「九州旅行」美袋が住むマンションの一室にてメルカトルと共に発見した死体。現場の状況からメルカトルがとある推理を披露する。
 これはなんとも、推理というか展開がすごい。途中の推理など吹き飛んでしまうラストシーンがすごい。さらに言えば、タイトルが凄過ぎる。

「収 束」は孤島に住む宗教団体の中で起きた殺人事件にメルカトルが挑む。
 事件そのものよりも構成が面白い。メルカトルの推理により、容疑者が浮かび上がり、それが冒頭の場面へと続くこととなる。犯人のぼかし方もいろいろとあると思うが、これはまた斬新なぼかし方と言えよう。

 一番の問題作「答えのない絵本」。学校内で起きた殺人事件。物理教師を殺害したのは、校内に残っていた生徒だと思われる。メルカトルが論理的に導き出した犯人は!?
 これは、タイトルの通り、メルカトルの推理そのものを信用してよいのであろうか。それとも、メルカトルは依頼人に都合がよいように、このような結論を導き出したのであろうか。どのように受け止めてよいのか、考えさせられてしまう問題作。

「密室荘」別荘で過ごすメルカトルと美袋。しかし、その別荘の地下から死体が発見されたことにより、とんでもない展開に。
 ボーナストラックとしか言いようがないが、「九州旅行」に続いてメルカトルに翻弄される美袋の様子が描かれている。実際のところ、美袋を慌てさせるために、メルカトルが仕組んだのではないかと邪推したくなる。


貴族探偵対女探偵   5.5点

2013年10月 集英社 単行本

<内容>
 「白きを見れば」
 「色に出でにけり」
 「むべ山風を」
 「幣もとりあえず」
 「なほあまりある」

<感想>
 「白きを見れば」 古井戸のある山荘で撲殺死体が見つかる。女探偵が事件に挑む。
 「色に出でにけり」 複数の愛人を持つ女性を巡る事件? それとも・・・・・・
 「むべ山風を」 学内で起きた殺人事件。カギはティーカップと断水??
 「幣もとりあえず」 座敷童が出るといわれる旅館での殺人事件
 「なほあまりある」 孤島で起きた殺人事件。謎を解くのは・・・・・・

 ひとつひとつの短編の内容を見ていくと、論理的な犯人当てのミステリとして、なかなかよくできていると感じられる。しかし、全体的に見ると、なんか陳腐に見えてしまうところもあり、今までの麻耶作品のなかでは、ワーストの部類に入るかも。連続TVドラマもののような安っぽさを感じてならなかった。

 最初の作品でさっそうと女探偵が現れ、さらに貴族探偵も現れて、熾烈な推理合戦が始まる。そこまでは良かったのだが、2作品目からの女探偵の推理がいただけない。むしろ邪魔だとさえ感じられてしまう。この辺、もう少し一工夫ならなかったものだろうか。

 作品のなかで「幣もとりあえず」は、麻耶氏ならではの破天荒な仕掛けを見せてくれる。思わず、前半のページに戻り、1行1行見直してしまった。ただ、これはギリギリアウトのようなトリックのように思えてしまうのだが・・・・・・と思いつつも、それはそれで楽しむことができた。

 貴族探偵シリーズは、なかなかその趣向が面白いだが、今回の作品は、はまっていたとは感じられなかった。シリーズが続くのであれば、できれば違う形で出会いたいもの。


さよなら神様   7点

2014年08月 文藝春秋 単行本

<内容>
 「少年探偵団と神様」
 「アリバイくずし」
 「ダムからの遠い道」
 「バレンタイン昔語り」
 「比土との対決」
 「さよなら、神様」

<感想>
 2005年に書かれた「神様ゲーム」に登場する鈴木と名乗る“神様”が登場するシリーズ作。とはいえ、前作とは舞台も違うし、話も関連していないので、この作品だけ読んでも全く問題ない。

 舞台は小学校、クラスに神様と名乗る鈴木という人物がいて、主人公である桑町が鈴木に犯人の名前を聞き、その犯人の名前を指摘するところから全ての短編の幕が開ける。この鈴木という人物は傍観者に徹していて、特に物語上何かをするということはない。基本的に嘘は付かないということを物語上のルールとしているようである。その鈴木からのご宣託を聞き、学校の少年探偵団が活動を開始する。

 本書の特徴としては、この少年探偵団が興味本位に事件を追いかけるというわけではなく、事件そのものが自分たちの生活に直結し、事件を追いかけざるを得なくなるという残酷な面を持ち合わせている。その辺は、単なる子供向けの少年探偵団シリーズというものではなく、悪意あふれた少年探偵団ものという、なんともどの年齢層にお薦めすればよいのかわからなくなる内容。

 ただ、基本的には少年探偵団が捜査をし、主にアリバイ崩しを中心としたミステリ小説となっている。実は最初読み始めたときは、やや子供向けレベルくらいの作品というように感じてしまった。ただ、それが章を重ねるごとに、徐々に悪意があふれ、パターンと思われた枠組みも徐々に想像を上まってゆき、さらには「バレンタイン昔語り」を読んだときには、やられたと感嘆させられてしまう。この「バレンタイン昔語り」であるが、こんなミステリ書かれた日にはどうすればいいんだかと、打ちのめされてしまうほどの内容。

 日ごろミステリ作品はもう書きつくされたなと思いつつも、このような作品を読むと、まだまだ可能性はあると感じずにはいられなくなる。麻耶雄嵩恐るべしの一言。


化石少女   6点

2014年11月 徳間書店 単行本

<内容>
 桑島彰は、幼馴染である神舞まりあのお守りをするために、まりあと同じ高校に入学し、まりあが部長を務める古生物部に入部する。しかし、部員は二人だけのため、執拗に生徒会から狙われ、たびたび取り潰しの危機にあう。そうしたなか、学園内で起こるさまざまな事件。その事件を解決しようと、神舞まりあは、推理を披露するのだが・・・・・・

 「古生物部、推理する」
 「真実の壁」
 「移行殺人」
 「自動車墓場」
 「幽霊クラブ」
 「赤と黒」
 「エピローグ」

<感想>
 麻耶氏にしては、ややゆるめの連作ミステリ短編集。ゆるめといいつつも、学園ものであるわりに、毎回殺人事件が起こるという内容。その事件に古生物部の神舞まりあが挑む。

 ただ、事件に挑み、しっかりとした推理を披露するのはいいのだが、真相に関してはあいまいなまま。はっきりとした結末を示さないのは、賛否両論ありそうである。

「古生物部、推理する」は、シーラーカンスの被り物をしたものによる殺人事件が起こる。
「真実の壁」は、停電した時、真実の壁に殺人の瞬間が映し出される。
「移行殺人」は、文化祭の準備中、桑島の知人が殺害されるという悲劇の謎を解く。
「自動車墓場」は、放置されていた車のなかで死んでいた逃亡犯を発見する。
「幽霊クラブ」は、生徒会の校舎探索中に起きた自殺事件の真相に迫る。
「赤と黒」は、体育館で起こる一種の密室殺人事件。

 個人的には、最後の最後でこれら結末が示されていない部分に対して全体をまとめるような解が示されるのではないかと思っていた。エピローグにて、とある真実が示されるものの、思っていたよりも小さいもの。このへんはやや拍子抜けといったところか。麻耶氏の作品ゆえに、ハードルの高いところを期待してしまったので、少々残念な作品と感じてしまった。


あぶない叔父さん   6点

2015年04月 新潮社 単行本

<内容>
 「失くした御守」
 「転校生と放火魔」
 「最後の海」
 「旧 友」
 「あかずの扉」
 「藁をも掴む」

<感想>
 稼業が寺という高校生男子・優斗が主人公。うわさ好きの友人が持ち込む事件に関わることとなる。また、彼女と元カノの三角関係にも悩まされる。優斗の家には、離れに住んでいる叔父さんがいて何でも屋の仕事をしている。この人物の外見は金田一耕介を思わせる。事件が起こるたびに優斗は叔父さんに相談し、思いもよらぬ事件の真相が明らかになるというもの。

 最近の麻耶氏の作品では、パターン化を意識した連作短編が多くみられる。この作品もまさにそれにあたり、北国の小さな町で起こる事件に何らかの形で高校生の優斗らが関わることとなり、それを叔父さんの力によって解き明かすというもの。ただし、謎を解き明かすというものとは少々異なる趣向となっており、それが本書のひとつの特徴である。

 また、本作品は金田一耕介シリーズのパロディのようにも思われ、行く先々で事件が起きつつも、全て事が終わるまで解決できないという本家を異なる形で皮肉っているようにも感じられるのだが・・・・・・それは考え過ぎであろうか。

 この作品は読み進めていくうちに、謎がどのように解き明かされるのか? というよりも、事件に関わっているであろう“あの人”がどのようなアクロバティックな形によって事件現場に登場してくるのか、ということのほうがメインになりつつある。全編面白く読めるのは確かなのであるが、ミステリとして見どころがあるのかと言えば、少々微妙なような。一応はトリックらしきものはそれぞれ使われているものの、あくまでもパターン化した事件の連続により真相に対するインパクトは薄れてしまっているように思われる。

 本書の最後で、この一連の作品に対して何らかの終結がとられるのかと思ったのだが、最後の作品でも他と同様普通に終わってしまっている。ということは、これはシリーズ化して続くという事なのであろうか? まぁ、新作が出たら出たで、手に取ってしまいそうな気はするが。


友達以上探偵未満   6点

2018年03月 角川書店 単行本

<内容>
 「伊賀の里殺人事件」
 「夢うつつ殺人事件」
 「夏の合宿殺人事件」

<感想>
 女子高生の探偵コンビが活躍する作品集。一見、ライトな印象に見えるかもしれないが、読んでみると意外と硬い文章となっており、読むのには苦労させられるかも。その辺は、いつもながらの麻耶氏の作品らしき作調。

 それぞれの事件がアリバイを基調とし、そこに一味付け加えたようなミステリ模様が描かれている。それらを探偵コンビがどのように解き明かすかがポイントとなる。この“どのように解き明かすのか”というところが、本書の目玉であり、焦点となるべきところであると捉えられた。

 それがわかるのは、最後に掲載されている「夏の合宿殺人事件」であり、これは主人公二人が最初に関わることとなった殺人事件として描かれている。本書を読んでいると、どう考えても“上野あお”のほうが探偵役で、“伊賀もも”は事件をかき回しているだけに過ぎないと思えてしまうのだが、実はそこに秘められた真実が「夏の合宿殺人事件」で描かれているのである。これを読むと、二人の関係に対する見方が変わることとなる。

 と、それなりに楽しませてくれば作品であったかが、これは今後シリーズ化するのであろうか。最近の麻耶氏の作品は、シリーズ化できなさそうな終わり方をしているものが多くみられたような気がするが、この作品に関しては、まだまだ続いてもよさそうな気がするが・・・・・・


「伊賀の里殺人事件」 伊賀の里ミステリーツアーの最中に起きた殺人事件。忍者の装束を来た被害者は誰によって殺害されたのか?
「夢うつつ殺人事件」 夢のなかで聞いた犯罪計画、そして実際に起きた殺人事件。現場の状況から解き明かされる真相とは?
「夏の合宿殺人事件」 バレー部と文芸部の合宿の最中に起きた事件。死体の状況から導き出される真相は??




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