砂糖紙 最新刊:2003/05/31
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もゆるのは 皐の風か、緑光か
若芽が芽吹き、薫風が雨を導く五月。
なんて言いながら明後日から六月。明日は台風が来るそうです。
五月は桜と梅雨に挟まれて忘れ去られてしまったのでしょうか。
鯉のぼりあげたのは覚えてる?なんて、天気予報士にでも聞いてみたいくらいに。「春に」という合唱歌がありますが、今日はまさにそんな陽気。
春の陽光と梅雨の匂いのする雨をたくさん含んだ若葉があちこちで見られますね。
道を歩くと緑がほわっと鼻をかすめて、足を止めてしまいます。
春に萌える緑、萌木色。
木々の葉が日に透けるような印象で心地良い色名です。
萌葱色だとネギの濃い緑で、萌黄色だと上にあるのと同じ若い木の葉の黄緑色として使われたようです。
萌木色の葉の青い匂いと、萌葱色のネギの香りでは随分イメージが変わるものです。
日本語の妙、でしょうか。また若草色は芽吹いたばかりの若い草の黄緑色。「若草物語」を連想させて、爽やかにそよぐ緑が浮かびます。
若菜色、苗色、若葉色といった固有の植物を思わせるものもあれば、若緑なんて率直な色名も春の黄緑には似合います。
なんだか‘若紫’のようで、‘若緑’にも文学的な匂いを感じたり。
これの単純な英訳のようなfresh greenも、もちろん黄緑を表す言葉。サラダを思い出すのは花より団子というものでしょうか?
中国の色名は音だけで心がコロコロ鳴るみたい。
シンヤースー、ヤーリュー、チュンリュー、ネンツァオリューなんて、可愛い響き。
春がウキウキするのは日本人だけではないのです。日本だって桜が散ったら春が終わりだなんて、そんなもったいないことはありません。
遅咲きの桜に混じる若芽を見て、‘桜萌黄’の重色目(赤に黄緑)も出来たと思うのだけど。ちなみに単に草色というと、もう少し緑に近い印象。
笹みたいな雑草がよく野原にあるけれどそんな色かな?…夏の草原というのが正しいのでしょうね。
私の言葉ばかりでは、梅雨前に気持ちのリフレッシュ!とはいかないようです。
百人一首から、またひとつふたつ引いてきましょう。
ありま山 ゐなの笹原 風吹けば
いでそよ人を 忘れやはする
大弐三位(後拾遺集・恋二)
浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど
あまりてなどか 人の恋しき
参議等(後撰集・恋一)
思いがけず、ふたつとも恋歌でありました。
草原に思いを馳せる姿が耳にもさらさらと心地よいものです。
しかし、笹原も茅の篠原もどちらかというと草色。
そのため、季節はずれではありますが、若緑の美しい歌を最後にひとつ。
君がため 春野のにいでて 若菜つむ
わが衣手に 雪はふりつつ
光孝天皇(古今集・春上)
本当は旧暦の春先、今の二・三月の歌ですが、訳などを越えて、黄緑色に美しい情景を与えてくれます。
これも恋歌(笑)。今も昔も皆悩みはかわらないのでしょうね。
次回はギリギリでない更新を目指そうと思います。
なにかご指摘があれば、こっそり教えてくださいね。
興味があれば、本を開いてみてください。
それでは、良い梅雨を。
参考図書:『評解 新小倉百人一首』三木幸信、中川浩文・著 (株)京都書房
『田辺聖子の小倉百人一首』田辺聖子・著 (株)角川書店
『色々な色』 近江源太郎・監修 ネイチャー・プロ編集室(三谷英生、野見山ふみこ)・構成、文 (株)光琳社出版
フーコーフリコと私。
風光:景色、ながめ。
風向:風の吹いてくる方向
フーコー:フランスの物理学者
降る:空から落ちてくる。たくさん集まる。
振り:すがた。挙動。それらしく装うこと。
言:ことば。口に出して言うこと。
振り子:重力の作用で、左右同じ距離にゆれ動くようにした装置。
フーコー振り子:国立科学博物館(本館正面階段脇)で今もずうっと回ってる。