スケールチェンジについて
—スケールチェンジを複雑にする
—スケール練習について その3
Index
その1にて示したのは、半音ずつ上がる、半音ずつ下がるというパターンでした。
しかし、スケールを移動するのだって、別に半音だけに拘る必要はないわけです。
ここでは(b)キーチェンジ のバリエーションを挙げていきます。
規則的に移動する
規則的にスケールを平行移動させる場合を考えてみましょう。
一オクターブは半音ずつ、12音があります。とりあえず最小単位である半音ずつの上昇/下降はすでに述べました。では、それ以外の場合はどうなるんでしょうか。
下の表は、音の並びと、Cとの間の隔たり(1が半音分を表す)を示したものです。みたままです。
0 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
C |
C# Db |
D |
D# Eb |
E |
F |
F# Gb |
G |
G# Ab |
A |
A# Bb |
B |
C |
半音ずつ上昇というのは、C(0),Db(1),D(2),Eb(3)……です。つまりnを1ずつ足してやればよい。音の間隔 n = 1です。
では半音ずつ下行は、素直に考えると n = -1です。
しかし、nが負の数はまずい。音階は12進法なので -1 は +11と等価と考え、(-1≡11(mod 12)) 、すなわち半音下降は n=11 です。
機械的に考えると、音の間隔には、n=1,2,3…11の11通りあります。
同様に考えると、それぞれ、上昇/下降の逆転は本質的には同じなので、n=(2,10),(3,9),(4,8),(5,7),(6)の組み合わせが思い浮かびます。
n=5,7はいわゆる四度進行/五度進行ですね。とりあえず話が面倒くさいので、楽典によくのっている5度圏の図をお示ししましょう。
結論を言ってしまえば、最も重要なのは、半音進行と五度進行です。半音進行と五度進行は等価です。それは1〜12の中でこれらの数(n=1,5,7,11)だけが12と互いに素だからですね。互いに素、ということは、この間隔ずつで進めば12の音すべてを経由して元の音に戻ってくることが出来る。
その他の音間隔では、そういう風にはなりません。
たとえばn=2すなわち全音進行では、
C(0)→D(2)→E(4)→F#(6)→G#(8)→Bb(10)→C(12)
C#(1)→Eb(3)→F(5)→G(7)→A(9)→B(11)→C#(13=1)
と、六つの音からなる二つの系列(それぞれの系列は6つずつ)ができることになります。2で割って一余る数のグループ(奇数)と割り切れるグループ(偶数)ですね。n=2の間隔で移動する限り、系列は分断されており、別の系列には決して移動することはできません。
同様に、
n=3つまり短三度間隔では四つずつの音の系列が3つ。
n=4つまり長三度間隔では三つずつの音の系列が4つできます。
とりあえず、ジャズにおいて最も実践的なのは四度、五度進行です。(これはどこの楽典にも書いてあることなので、知識として知っていると思いますけれども)。トレーニングする時に最も頻用するのは、この進行でしょうね。
但し、半音下行もany key感覚を身につけるにはとても有用ですし、substitute chordの概念からもわかるとおり、Dominant motionと等価であるから、さしあたり最も重要なのはこれらであると憶えておいて下さい。
トレーニングの実例をあげましょう。
まず、その1でとりあげた単純なスケールやその2でとりあげた三度跳躍・四度跳躍を、この四度進行で試してみてください。おそらく、半音ずつ上昇下行より簡単だと思います。これは、四/五度移動であれば、フラットやシャープの符号の付き方が近縁であるために、音感というよりは頭の中での楽譜で処理がしやすいからではないかと思います。できるだけ頭の中に譜面を浮かべるのではなく、唄うことを心掛けて下さい。
あと、移行する次のキーが四度上だと、そこに着地するようなフレーズだと、ずっと円環しているような不思議な気分になります。なんか、フレーズの据わりが悪いというか、そんな感じです。(勿論オクターブの切り替えは必要ですが)
たとえば、ドレミソというフレーズを二拍ずつチェンジしていけば、
このような、ずーっと続くようなフレーズになります。僕はワンブレスで吹ききる練習も時々やります。
いっそのこと、「ドレミ」でひとかたまりにして、キーチェンジしていけば、次のFでは、ファソラとなり、それがひたすらつづくので、ずーっとドラミファソラシドが続いていくような錯覚があります。
これ、ずーっと上行していますので、どっかでオクターブ下に切り替えたりしなければいけませんが、その切り替えは、適当なとこでやって下さい。自分が楽なところで。これも極力譜面をみるのではなく、自分の頭の中で構成するようにして下さい。譜面にしてしまえば、この練習の意味がなくなってしまいます。
もっとも、最初のうち、自信がなければ、このcycle of 5thのキーの並びだけを書いた紙をみながら練習したりするのもいいかもしれません。
いずれにしろ、どんなキーであっても瞬時にできるようになるというのが肝要です。
それ以外の機械的なスケールチェンジ
先ほどは最も重要な四度進行を述べました。
では、それ以外の進行は不必要なのか?と、いわれますと、ところがどっこい、ダイアトニックアプローチ以外のスケールを考えたりするのには、これらの調性移動は、とても有効なトレーニングになります。だいたい、きょうびの小難しいジャズのメカニカル・フレーズというものは、こうした動きから作られていることが多いんですよね。
たとえば、これはあくまで一例ですが、このようなフレーズを長三度で調性移動します。頭二拍をとれば(とらなくてもいいけど)、ほらこの通り、いわゆるコルトレーンチェンジのできあがりです。
コルトレーンっぽいフレーズ
また、このような短いフレーズを短三度進行で動かせば、com.dimフレーズになります。これは音が重なっちゃっているのでいいフレーズではないですし、成立過程からいうと純粋にいうとコンディミとは言えないですけれども。
コンディミっぽいフレーズ
結論からいってしまうと、
n=2:全音進行はホール・トーンスケールに、
n=3:短三度進行はディミニッシュ、コンディミフレーズに
n=4:長三度進行は3rd interval change (またはいわゆる「コルトレーンチェンジ」)
に非常に密接に関わってきます。
音感のかなり優れた人でも、聞いている曲が歌謡曲とかポップスの場合、こういったいかにもジャズっぽいメカニカル・フレーズは、自分の中に引き出しがない場合もありますから、こうした進行で練習をするのは結構手応えがあります。
実例を挙げましょう。
これはペンタトニックスケールの最初の音列「ドレミソ」とその逆「ソミレド」です。これを先ほど挙げた通りに動かしてみます。
上から順に半音、全音、1.5音(短三度)、2音(長三度)と平行移動させています。アイコンクリックで音も出ます。
n=が大きくなるにつれて、系列の音数は減少するので、フレーズ自体は短くなります(一番上の段の半音進行は、他と比べて長すぎるので、途中で切ってます。)。慣れてくると、さらにインテンポで短くなったそれぞれの系列を半音ずつ動かしてもよいかと思います。
それぞれのトーン・チェンジを弁別せよとはいいませんん。ただ、それぞれ、味わいというか、ニュアンスが違うことがわかって頂けると幸いです。
ちなみに、こういう練習をするんだったら、上の例にも挙げたように、キー・チェンジをテンポよく行う必要があります。前のキーの残像を残して、次のフレーズを吹くというイメージが重要なんですね。長くても四拍、できれば二拍ずつくらいでチェンジしていかないと、一つ一つのキーチェンジが二小節以上とか、長い場合、そのスケールの中で頭の中のフレーズが途切れますので、なんのこっちゃらわからなくなってしまう。
ところで、トロンボーン・ジャズで、このようなメカニカルなフレーズが必要かといわれると、正直に答えると、そうでもないように思います。トロンボーンの楽器特性上、向いていない。実際にこんなことがライブハウスでできるかというと、少なくとも僕はあんまりできないです。
しかし、これも、楽器の練習というよりは自分自身の頭の中の練習なわけです。ですから、実用性は度外視して頂けると幸い。トロンボーン奏者にとっては自分の楽器での演奏が最も親しみやすいのでトロンボーンを使っているまで、くらいに考えてもらった方がいい。頭の中でこういう回路を作っておくことは、間違いなく有用です。
勿論、前章でやったように、音の並びを書いた紙をみながら練習するのも良いと思います。但し、完全に楽譜にしないこと。出来れば何もみないでやることをお薦めします。
機械的に動かさないスケールチェンジ
キーの並びだけを書いた紙を用意して吹くというのを前章・前々章でも書きましたが、それを利用して、全く出鱈目に音の並びを書いて、その通りにインテンポでフレーズを吹いていくという練習も、一度くらい試してみてもいいかもしれません。ストイックかつマゾヒスティックな練習だし、あまり音楽的ではないので、お薦めはしませんが、そういうの僕は好きだから一時期やってました。
これは、簡単に言うと、単語カードによる復習と同じようなもんですね。順番にやっていると、順番そのものを憶えてしまうので、ランダムにシャッフルしてやるということです。こういう練習をすること自体、音感がないことを露呈しているようなもんですが。