基本フレーズのバリエーション

—フレーズを複雑にする

—スケール練習について その2


Index


(a)基本のフレーズ
(b)キーチェンジ

の中で、ここでは(a)「基本フレーズ」のバリエーションを挙げていきます。

 ひと言で言えば、「ド」から始まるものは簡単だし、隣の音へ移るようなのは簡単です。跳躍が増えると、(特に音感がない人間にとっては)結構しんどくなる。

 逆に、そういうのは、トレーニングとしては面白い。

三度

 まずは一番簡単な跳躍として三度跳躍です。


ex.2-1. 三度跳躍の基本パターン三例  (一小節ずつです)

 実際には「その1」でやったのと同様に上行系と下行系をこのように組み合わせて練習したりします。これも、僕がアップの時によくやるものの一つです。ノータンギングでゆっくりリップスラーでやったりすることもあります。


ex.2-2. 三度跳躍の実例

 三度が重要なのは、いうまでもなくコードの基本であるダイアトニック・コード自体が、スケールの音を一つおきに音を積んで得られるものだからです。要するに三度が基本になっているんですよね。コードの構成音という、最も単純かつ強固な構造が、三度によって作られているわけで、この三度跳躍の練習は分散和音の練習とかなり重複する部分が多いということになります。実際、バップ・イディオムのフレーズは、三度のフレーズがかなり多いんですよね。

 初心者の陥りやすいパターンとして、コードにはまったスケールの音を吹くのはいいのだけれども、スケール内を二度移動しかできない、つまりドレミファソラシドかドシラソファミレドの断片を吹いているだけというものがあります。(個人的には「ドレミソロ」と呼んでいます)これは、フレーズの作り方を三度跳躍をベースに考えるだけで、だいぶましになったりします。

 少し脱線しますが、「簡単にアドリブする方法!」とかいって、ブルースとかの一発ものに、ブルーノートスケールを示して、「この音を使えばいいんだよ!ほうらジャズっぽいだろう!」というのを初心者用の教材に、よく目にしますね。

 確かにブルーノートスケールは適度に音間が離れているから、単純な上行や下行で結構それなりのフレーズが吹けてしまうものですが(Bobby Timmonsなんか、ほとんどそれかも)、手法としてはスケール隣接音移動がほとんどで、つまり本質的には「ドレミソロ」と同工異曲といえましょう。そういう観点では、初学用の「とりあえずブルーノートメソッド」は自分はあまり好きではありません。

 あれは海外旅行に英語が話せない人がとりあえず用足しができる程度の英語がしゃべれたら……という時に使う常套句と同じようなレベルであると思います。勿論、そうやって、とりあえずジャズっぽい感じで演奏できることで「な?ジャズってええやろ?」という楽しさを知ってもらうという意味では大変意義のあることだと思いますが。


四度


ex.2-3. 四度跳躍の基本パターン二例(一小節ずつ)

四度跳躍も一時期よく練習しました。慣れてくると、四度上昇はほとんど完全四度で一部に増四度があるだけなので、実は三度よりも簡単なんです。

 四度は、実は三度に負けず劣らず重要です。コードの性格を決める音、ピボットになりうる音が三度と七度だからです。この三度と七度の関係がちょうど四度なわけですね。特にドミナント7th(たとえばC7)の時の増四度=tritone(EとBbの関係)は解決に向かう響きとして重要です。

 たとえばCmaj7では構成音がC,E,G,Bです。まるで飲み屋で注文していないのにお通しが出てくるのと同じように、ジャズの場合は記譜でCmaj7とあれば、書かれていないテンション、たとえば9th(D)、13th(A)、+11th(F#)とかのテンションは勝手に付け加えられることが多かったりします。このようにコードの音を足し算することはよくやりますが、逆に引き算する時に、最後に残りうるのが3rd,7thであるということです。

 コンテンポラリーなフレージングの際によく出てくるのが四度跳躍のパターンです。四度跳躍くらいになってくると大体倍音を挟むので、スピードを上げると、なかなか手応えのある練習になってきます。これは後述します。


ペンタトニック

 ペンタトニックの練習が何故必要なのかというのは、最初にアドリブみたいなのをやり始めた時にはよくわかりませんでした。たとえばFのブルースで、Fペンタトニックのフレーズを吹いても、どうにも格好悪いことが多い。なんか、揺るぎなさすぎて。しかし、トーナルから離れたアウトフレーズを吹く場合に、このペンタのかっちり感が羅針盤になるわけですよ。停電の時に初めてわかる懐中電灯のありがたさ、とでも言いましょうか。

 例えば、ブレッカーブラザーズが、アウト、アウト、アウトの音を並べたいかにもメカニカルなフレーズを吹いたりしますが、あの並べられたアウトの一つ一つの要素はペンタトニックと考え、その背後にあるトーナルを考えると理解可能なことが多いです。


ex.2-4ペンタトニックのパターン二例 (一小節ずつ)

 ペンタトニックスケール。左の方の、ペンタトニックのいっこ飛ばしが個人的に好きで一時期よく練習していました。また、右の例はラから始まる上行フレーズです。ドからのフレーズ比べると、ちょっと頭の中では一つややこしくなります。

 あと、ペンタトニックを語るときに外せないのが、ペンタトニックを並べ直しますと、例えば、Cのペンタトニックであると、E-A-D-G-Cとならべることができますね。この並びの場合、各音は四度離れていますから、いわゆる四度積みになります。そういう観点で前述した四度跳躍とも関係していることです。

 トニックをベースとしたフレーズとしてはまずこんなところです。この調子でどんどんフレーズを増やしていけばいいのですが、この続きとしてはその5:ツーファイブのバリエーションをみて下さい。