1. 大脱走 The Great Escape
 スティーブ・マックイーン主演、チャールズ・ブロンソン、ジェームズ・コバーンの出演する有名なアメリカ映画(1963年、ジョン・スタージェス監督)です。
 第二次世界大戦のおり、ナチス・ドイツ軍が連合軍の脱走歴のある空軍将校ばかりを集めて新しく第三捕虜収容所をスイスの近くにつくりました。ここに入れられたのは、札付きの将兵たちのこと、厳重な監視にもかかわらず、トムと名づけた地下トンネルなど、あれこれと脱走の秘策が練られました。最後に驚くなかれ250名が一度に抜け出すという計画を進めていきます。
 脱走計画が仕上げに近ずいたとき、スティーブ・マックイーンが大量のジャガイモを手にいれてきます。何のためかといぶかる兵士達を前に、彼はジャガイモの皮を剥き、あるものをつくっていきます。
 ついに、7月4日の朝がきます。星条旗を掲げ、兵士達をたたき起こし、アメリカ独立記念日を祝おうとします。ジャガイモでつくっていたのは、密造(当たり前の本物)蒸留酒だったのです【写真は蒸留中の様子】。兵士たちはしばらくぶりにアルコールにありつき、喜び合います。しかしこの日トムがばれてしまいます。これで屈する彼らではない。その後の脱走計画の実行結果は・・・これから見る人のため、書かずにおきましょう。
これによく似たジャガイモ密造酒は、アイルランドの田舎にあるそうです。その名は、ポチーン。ポチーンと言う呼び名はこの酒をつくる時に使う容器に由来する。日本で言えばドブロクに似た感じがし、その響きはパチンコにも通ずる庶民的なもの。
 一定面積からとれる作物から蒸留酒をつくるなら、ジャガイモが一番と提案したのがスイーデンの王立科学アカデミー(1747年)であり、これを企業ベースで製造したのはドイツのほうが早く、19世紀半ばからでした。わが国におけるジャガイモを主原料としたアルコール製造は、明治中期から行われています。
 焼酎乙類の試験醸造は昭和51年秋北海道東部の清里町で開始されました。この町のジャガイモは、そのほとんどが澱粉原料になってしまっていたが、少しでも付加価値を高めようとの作戦で誕生。幸いその後焼酎ブームが到来、一流といわれる料理屋でも焼酎を飲む人たちが増えました。原料のジャガイモは北海道で一番広く(男爵薯より多く)栽培されている「コナフブキ」という片栗粉専用品種が使われています。...参考平成21年(2009年)ころの北海道における品種別栽培面積
 このブームは、戦後バラック建て飲み屋でコップを握った焼け跡派が火付け役とも、ヤングだとも言われていますが、値段が安い割に満足感があること、悪酔いしないこと、そのまま飲まずに、お湯、番茶、そば湯、ライムジュースで割るなどマイペースでつき合えるのがいい。
 ノルウェー、スエーデン、デンマークで人気のある「アクアビット」と言う大衆酒は、ジャガイモが原料で、無色のスピリットです。
平成23年(2011年)9月からジャガイモ品種「ワセシロ」(伯爵)を原料とする本格焼酎『伯爵』も発売されています。

2. 真紅の盗賊The Crimson Pirates
 18世紀のカリブ海を舞台にした1952年アメリカ映画。監督:ロバート・シオドマク。ランカスターの演ずるバロー船長がジャガイモのビタミンCの力を教えたもの。
 船上の彼らのすべてが壊血病にかかって漂流していると見せかけて、その船をひろい港まで引いていこうと寄ってきた船に襲いかかるシーンがありました。
 ジャガイモが積み込み食糧として活用される以前は、無敵の海賊でもビタミンCの欠乏には勝つことができなかった。そんな自らの体験から、この映画のような罠(わな)を考えついたのでしょうか。
 かって、マゼラン海峡を通り、めざす太平洋にでたときには乗組員の3分の1が壊血病で死亡していたという記録も残っているほど。このため、船乗りたちは、長い航海中に果物を食べ、緑茶を飲んで、目に見えない命とりと戦わなければならなりませんでした。  イギリスからアメリカに新天地を求めて初めて移住に成功した清教徒たちが、なんとか最初り冬を越せたのは、七面鳥の蛋白質とビタミンCの多いクランベリー(コケモモに近く、赤い実がなるもの)があったからだ、とも言われています。
 わが国でも次のような例がありました。
 天明五年に幕府の命令によってサハリン(樺太)の調査に行った庵厚弥六を隊長とした11名が北海道の北の宗谷で越冬したことがありました。この宗谷での越年は役人としては初めてのものであり、二月から三月の雪の多い厳寒期に半分近い5名が死亡してしまいました。宿の記録には、『霧気にあてられた』とあったそうですが、これは当時の水ばれ病、つまり脚気と壊血病のビタミン欠乏合併症のことでした。キツと呼ばれる木製防寒シュラフザックとも言うべき箱にもぐり寒さと戦った彼らも、野菜不足には勝てなかったようです。また、探検家の間宮林蔵はダイダイの汁でビタミンCの補給をしていたと言う話もあります。
 なお、ジャガイモ中のビタミンCは、生で100gの中に15ないし40mgほど入っています。

3. さらばバルデス Chino (The Valdez Horses)
 1973年、米・仏・伊合同作品。監督:ジョン・スタージェス。1880年代アメリカはニュー・メキシコ州の話。荒野の一軒家に飼われていた混血馬に乗っているルイーズ(ジル・アイアクンド)に向かってチノ・バルデス(チャールス・ブロンソン)が投げた言葉、
 『ジャガイモをつめた袋でもないだろう』
 これは、乗馬がサマになっていないことを言っています。つまり、両足の膝で馬の腹をしっかり締めてもいないし、両足に体重をかけてもいないのを見て、ブロンソンが馬鹿にした。
 ジャガイモからの連想は、どこの国でもよくありません。
 ヘミングウェイの短編『キリマンジャロの雪』でも、
 「・・・・ふと立ち寄ったカフェでは、あのアメリカの詩人が、前にコーヒーの皿を積み上げ、ジャガイモみたいな顔に、まぬけな表情をうかべて・・・・」
 と言うのがあり、北杜夫の『童女』という題のショートショートの中にも、
 「少女は村では赤ズキンと呼ばれていた。ジャガイモに似た顔立ちの伝わるこの村では、近来こんな可愛らしい子が生まれたことがない。」とありました。
 阿刀田 高のある文にも、
 「公園のベンチはもちろん、電車の中や喫茶店などでベタベタしている2人連れをよく見ると、女は水準以下の御面相。男は芋でも飲み込んだような馬鹿づら。・・・日本の抱擁シーンはまだ揺らん期で、やがて美しく変貌する日が来るだろう」
 とありました。この芋は何芋か知らないけれど、英語からも拾ってみますと、
ポテト・ノウズ   魅力的でない鼻のこと。 
スモール・ポテト  取るに足りない、つまらぬもの。つまらぬ人 。
ミート・アンド・ポテト・マン  肉の取り合わせにはジャガイモしかないと思っているような、単純で面白味の欠ける、真面目くさった人をいう。
 わが国でもこんな使い方が耳にはいった。
A 『どう、この服 』
B 『イモがあったら掘らせたいネ』
 センスがない、時代遅れ、田舎っぽいこと、を言っています。
 こんなジャガイモであるが、ふるさとの香りが豊で、内に秘そめたのがあり、個性的で味のあるものに使うこともある。戦中派はジャガイモから「代用食」、「戦争」(戦中、戦後)、「開拓」などを連想し、若くなると、「土」、「素朴」、「故郷」、「美容食」を連想する人が多くなります。
 6月13日の誕生花はジャガイモ。そしてその意味は慈悲(善行)です。
 この日生まれた方は、失礼だけれど、美男美女ではないかも知れない。しかし、おそらく、いやきっと、個性的でしょう。心は二枚目で、優しく、底の深い人に違いありません。

4. 旅 情 Summertime
 1955年、デビット・リーンの脚本・監督のイギリス映画。アメリカのいわゆるオールドミスのジェーン(キャサリン・ヘプバーン)は長い秘書生活で青春をすり減らしていましたが、ようやくヨーロッパ見物の夢を実現し、ロンドンとパリーを観光後、高揚した気持ちでベニスまでやってきました。
 女の一人旅では、初めのうちは見るものすべてがめずらしかったが、やがて孤独感にさいなまれる日々が続きました。
 そんな時、サン・マルコ広場の喫茶店で、ジッと見るレナード(ロッサノ・ブラッツィ)が現れ、あたふたと去る。翌日赤いゴブレットを見つけて購入しようと骨董品店に入ったら彼が店主でいた。気になる人の店をアメリカ製16mm映写機に収めようとして運河に落ちるシーンはよく知られ、これで目に細菌が入って、96歳で亡くなるまで完治しなかったという後日談もありました。しかし、彼の息子と会い、彼に妻がいることがわかってしまいます。そこでやけ酒を飲むことになるのですが、夫の画家に女ができたと泣く女が隣となり、「冷めたポテトチップよ」と大きめのガラスの皿に入ったチップスをつまみます。
 ホテル(ペンシオーネ・フイオリ−ニ)へ追ってきたレナードは妻とは別居していると言い、夢のような夜を過ごした。このままでは別れられなくなりそうな自分の気持ちを恐れ、急にサンタルチア駅をたつことになりました。そのラスト・シーンと時々背景に流れるメロディ『Summertime In Venice』が昔の青年の心に染みていることでしょう。

 イギリスでは、チップスをクリスプと呼びます。これには「そう快で、パリッとする」の意味があります。ジェーンは、これを食べてスカッとしたのでしょうか。
 チップスと言う言葉の出てくる映画では、「チップス先生さようなら、Goodbye, Mr. Chips」(1939)というのを見つけました。作者ヒルトンの母校のラテン語担当の恩師をモデルにしたものでした。ただただ固く、伝統を代表したような主人公の前に、近代的女性キャサリンが現れ、結ばれていく話でした。二人は保守主義と自由主義を表徴し、チップスはあだ名と理解しましたが、念のため新潮文庫のヒルトン著・菊地重三郎訳の本を購入して、確認したところチップスとは真面な苗字であり、全寮制のパブリック・スクールの男性教師の話であった。
 そこで、ポテト・チッフプスから連想されるものを拾ってきて、つなぎとする。御免。  井狩春男著「返品のない月曜日」(昭和60)より、
『本を食べ物にたとえるとナンになるか?
 文庫本は、一口チョコといったところ。雑誌はポテトチップス。
 文芸書は、塩コンブで、全集ものは、スルメイカ。人文書は・・・・・
 どうするかな、ヤキトリとする。辞書はフランクフルトソーセージ。
 絵本は、ポッキーといったとこか(なぜかみんな酒のつまみになってしまった)。』

5. わかれ道 One Potato,Two Potato
 1963年、アメリカ映画。監督:ラリー・ピアス。たくさんある映画の中で、題名にポテイトウが入ったのは、原名「One potato,two potato」だけでしょうか。(註・その後韓国で「Potato Symphony」が出た)日本語訳の題名は「わかれ道」でした。
 1956年の「ジャイアンツ」に出たこともあるバーバラ・バリーは、これで1964年カンヌ映画祭主演女優賞をもらっています。監督はラリー・ピアスで、彼のデビュー作。
 人種問題というアメリカの深い病巣をえぐりつつ、親と子のつながりを描いた映画。
 オーヴィル・H・ハンプトンの小説を映画化したもので、エレンという女児をつれた白人女性ジュリーが真面目な黒人労働者(バニー・ハミルトン)と家庭をもつが、行方不明の夫が戻り、娘の親権を主張し...。結婚をめぐって人種差別というアメリカの病巣をえぐったものでした。最後に白人の前夫のもとに引き取られることになったエレンが悲しみと怒りをこめて母親の体を打つ印象的シーンがありました。  不勉強のため、ジャガイモ(サツマイモ?)とのつながりをつかんでいません。原題名は、次のイギリスの子供の歌からとったものではないかと思いますが、御存知の方がいましたら知らせて欲しい。
 One Potato, Two Potato
 Three Potato, Four
 Five Potato, Six Potato
 Seven Potato, More

6. スターウォーズ Star Wars
 1977年、アメリカ映画。監督:ジョージ・ルーカス。遥か彼方の銀河系における大冒険の話。悪の化身の親衛隊長ダース・ベイダーの率いる帝国軍と設計図持ち出しという特殊任務を持ったチビ・ロボットと偶然に出会ったルーク・スカイウォーカーら自由の戦士たちの反乱軍とのあいだで、激烈な戦いが続けられていた。氷の惑星ホスの秘密基地を帝国軍に発見され、激しい攻防の末、反乱軍は全員退去することになります。
 ハン・ソロ、レイア・オーガナ姫たちはファルコン号で脱出する。しかし、敵の宇宙船に追われ、小惑星帯に飛び込んでしまう
 この宇宙空間に点在する無数の小惑星の中にSFXスタッフが遊び心で入れた本物のジャガイモが1個混じっていると言う話です。2作目の「帝国の逆襲」で主人公達の乗るミレニアムファルコン号が帝国軍の追跡を振り切る為にアステロイドベルトに逃げ込むシーンがあります。その隕石群のなかにジャガイモ1個が混ざっていたり(左側前方)、スニーカーが飛んできたり…
 お金も暇もある?という貴方。ビデオを借りてきて、このロンドン交響楽団のシンフォニーを楽しむのもよし、それとも惑星を念入りに調べますか。
 1977年、当時33歳のジョージ・ルーカス監督らしい映画でした。

7.七年目の浮気 The Seven Year Itch
 1955年アメリカ映画。監督:ビリー・ワイルダー。エアコンを持たないアパートに住むCMモデルマリリン・モンローが、地下鉄通過時に換気孔から出てくる涼しい風をスカートの下に受けつつ、「今度の方が前のより涼しいわ。きっと急行ね」と言いながらまくれ上がったスカートを両手で押さえるあのポーズは、お忘れないはず。
 モンローの住む部屋の下には、結婚7年目で浮気の虫ウズウズしている男リチャードが一人でいた。男はトマトの植木鉢を落とした彼女に『よかったら一杯どうですか』と誘われる。暑くて下着を冷蔵庫に入れて冷やす彼女、エアコンのある彼の部屋に始めて入ったくる。そのとき、輸入もののシャンパンと袋入りのポテトチップスを持参します。(監督自身はマティーニが大好きだが)
 実はこの少し前、「俺は幸福だ。ヘレンは得難い妻だ。酒、タバコ、女はやらないぞ」、と考えて、酒などを入れたロッカーの鍵を本棚の上に投げ上げておいていた男でしたが、シャンパンにチツプスを食べ、一緒にピアノをひいていくうちに・・・。美しさに負けて襲いかかりそうになるため、チップスを持ってお引き取り願うことになりました。

8.静かなる男 The Quiet Man
 1952年。アメリカ映画。監督:ジョン・フォード。ご存知のジョン・ウェン主演のアメリカ映画です。西部劇の王様ジョン・フォード監督が両親と自分の心の故郷アイルランドを舞台に、土地を愛するなどのアイルランド人かたぎをユーモラスに描いております。これには原作がありますが、登場人物の名前はほとんど変えています。原作者のモーリス・ウォルシュは農家生まれでダブリンで小説を書いていたアイルランドま代表作家のひとり。なおこの映画は、監督が初めて海外ロケしたものですが、場所はモーム・クロスやコニマラの海岸などで、石の多いところやピートも見られます。室内の撮影はアメリカに帰ってからセットでやっています。
 映画は、無口なショーン(ジョン・ウェイン)が一旗あげてアイルランドの村に帰ってきたところから始まります。その日、(今はゴルフ場になっているところで)羊を追う赤毛の美女メリー・ケート(モーリン・オハラ)を見て一目惚れします。
 彼女の家の夕食では、ゆでた大きめのジャガイモを配る風景が出てきました。故郷のこの村はアイルランドのダブリンの近くでした。その昔ジャガイモに頼っていたこの地方で、19世紀半ばにジャガイモに疫病というカビが原因の病気が大発生し、これを防ぐボルドーなどがまだ知られてなかたので、飢餓に見舞われ、ケネディやレーガン大統領*の曾祖父たちが村を離れ、アメリカへと渡ったこともありました。そんなとこですから、ジャガイモが今でも毎日食卓にの上がっています。
 結婚に反対する彼女の兄のものに、マッチ・メィカーと一緒に挨拶に参上した日の夕食にも、私の期待を裏切ったりしないで、ジャガイモとミルクが出ていました。そして、結婚した翌日も彼女はバラより、『キャベツやポテトを植えたら』と言ってくれた。まさにアイルランドが舞台らしい、ジャガイモ好きを喜ばしてくれる映画でした。
 2人の監督と主演の組み合わせとしては、幌馬車、黄色いリボン、アパッチ砦が有名です。モーリン・オハラは2015年10月24日アイダホ州ボイジの自宅で亡くなった。95歳であった。最後は家族と一緒に「静かなる男」の音楽をききながら息を引き取ったという。
『12 怒りの葡萄』も同じ監督によります。彼は様々なジャンルの映画を撮りますが、どれも「男の生きざま、特に組織ないし社会に対する男」というテーマが貫かれていました。
*:俳優時代はリーガンと発音していたが、大統領候補になってから、アイルランド語のレーガンとした。両大統領は曾祖父の故郷ダブリンを訪ねている。映画ではショーンが男らしく兄と結婚への交渉をしてくれないと、怒ったメリーがダブリン行きの列車に乗ったのを引き下ろすシーンもある。

9.ビッグ、仁義なき戦い Big
 1988年、アメリカ映画。監督:ベニー・マーシャル。子供のセンスを持つ青年ジョシュがおもちゃ会社に入り、社長の目にとまり、重役にまでなってしまう話です。その重役会議のマンネリさにうんざりし、重役用の車で女スーザンと青年の家に向かうとき、その中でフレンチフライが出てきました。
 国によって、当然出てきてよいものが出てきます。アイルランドが舞台のときに出てくる皮つき水煮いもをフランスやアメリカに期待でき難いがオランダなら大丈夫でしよう。
日本の映画ではジャガイモ自体にお目にかかることはほとんどありません。出るのはやはり戦後の食糧難を描くものになります。
 1973年の深作欣二監督による菅原文太、松方弘樹らの出てくる映画「仁義なき戦い」で見ました。
 かたぎの広野こと菅原文太が、坂井こと梅宮辰夫と刑務所で食べる食事に丸ゆでされたジャガイモを見つけました。当時の普通の家庭でも銀シャリにありつくことが少なかったのですが、刑務所内の粗食のシンボルとしてかチラッと出ました。そして当然不満の言葉も並べられていいました。
 欧米では囚人のことを 『Not quite the clean potato』(あまりきれいでないジャガイモ) と遠回しに表現しますが、さしずめこの映画では共食いをしていることになりましようか。<浅間和夫>


10. 『地下水道』、『スターリングラード』
 『地下水道』は昭和32(1957)年のポーランドの映画だった。原名 は『Kanal』。監督:アンジェイ・ワイダ。ジャガイモをたくさん食べる国のこと、それが出てくる映画があって当然でしょう。第二次大戦下のワルシャワ、と言ってもその街の地下が舞台。ソ連軍の進攻に希望を託し、武装蜂起した対独レジスタンスがドイツ軍により壊滅的な打撃を受け、地下水道に追い込まれる。全編ほぼ迷路のような 地下水道の汚水の中を這いずり回る対独レジスタンスの無惨な姿を正視したもの。 途中、「カルトッフェル(ジャガイモ)、カルトーフェル」と連呼して芋を民 衆に配るシーンが出てきます。
 ポーランドを代表するこのアンジェイ・ワイダ監督はレジスタンスに参加し た経験をもつので、描写はリアル。この映画でカンヌ映画祭審査員特別賞を受 け、ポーランド映画が世界から注目を集められる端緒になった。多分廃盤にな っているはずなので、私こと”変なジャガきち”にとっては残念なことです。

 その第二次世界大戦で、ドイツとソ連の戦いとなるとジャン・ジャク・アノ ー監督の『スターリングラードStalingrad』(1993.ドイツ・アメリカ.監脚撮ヨゼフ・フィルマイヤー)もあります。
 1942年秋頃の市街戦でソ連側の羊飼いの父におおかみ相手の射撃を仕込 まれていたヴァシリとドイツの狙撃の名手ケーニッヒとの対決が普通の人には 見ものなのだが、私にはヴァシリが後ほどケーニッヒのスパイにされる少年の いるレジスタンス家族との最初の出会いでジャガイモが出てくることに関心が あった。  2002.1 

11. 『ホタル』、『マンホール』、『男はつらいよ』
 邦画ではなかなかジャガイモの出るシーンに出会うチャンスがない。
 わが国でのジャガイモ消費量は、年間17キロほどしかないから、数倍食べる 国と比較して、当然と言えば当然のことだ。
 かって『いも侍』のタイトルにひかれて、映画をみたことがあって が、サツマイモのことでがっかり。北海道ではジャガイモを『いも』と呼ぶの で、『いも姉さん』に対する『いも兄い』ぐらいを期待して見たが、まだジャ ガイモもサツマイモも見たことがない人が多い時代の侍の出てくる映画だっ た。
 そんな話を、あるワインを楽しむ集いのおりに映画に詳しい札幌の横田昌樹 さんに話したところ、『邦画にもあるよ』と話してくれたのが、『ホタル』と 『マンホール』。

ホタル』は、降旗康夫監督、高倉健、田 中祐子の熱い愛と勇気を与える2001年邦画。多くの方は健のセリフ「二人で一 つの命じゃろうが」に関心があるのでしょうが、私にはかっての戦友が南富良 野からジャガイモを送るシーンに関心がありました。

 『マンホール』という2001年邦画は、鈴井貴之監督、安田顕、三輪 明日美らが出演するもの。女子高生の希と勤勉実直な小林正義の設定で、その 真面目な警察官をしている小林の処へ帯広にいる母親から新ジャガが送られて くる。警察官として真面目に勤務する青年がその生真面目さゆえに自分のホー ムページの中で援助交際に走った女学生を戒める書込みをする。それをたまた ま見た女学生が警察官に逆切れしてパソコンストーカーとなり、警察本部へ嫌 がらせをし始める。そうした経過の中で郷里からジャガイモが届き、持って行 き場のない気持をジャガイモにぶつけるものだそうです。タイトルは、願いが 叶うという噂の"夢のマンホール"に由来し、舞台は札幌地方になっています。

 2002年元旦、おせちも雑煮も食べることなく、腸閉塞のため入院するハメに なった。これが幸いして、山田洋次監督の有名な映画『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』(1973(昭和48)年邦画、松竹)を寝ながら見ることができた。この時のマドンナ役はリリーこと浅丘ルリ子。寅が網走市郊外の酪農家を手伝って柴又に帰ってくる。そのドサ廻りで出合った歌姫リリーが『とらや』を訪ねてくる。二人の心も通い合うその夜の歓迎の宴で、テーブルに粉ふきジャガが盛られていた。この山は戦中を想い出させるほどの量。寅にはカラーテレビはないが、「人を愛する気持ちがあるから」上流階級なのだと言ったが、熱いジャガイモもこれをサポートしていた。

12. 『怒りの葡萄』 The Grapes of Wrath
 ジョン・フォード監督がスタインベックの作品を1940年に映画化したもの。
 ヘンリー・フォンダが演ずるトム・ジョードが仮出所となり、オクラホマに 住む小作農の家族のもとに帰ってくる。仕事を求めて、おんぼろトラックに12 人と家財を満載してカルフォリニアに向かう。
 ニューメキシコの山岳地帯に入り、山間からコロラド川や「五彩の砂漠」を 見下ろしたアリゾナ州境で植物検疫を仕事とする州の監視人に止められチエッ クされるが、『ノー・プランツ』と説得し、積み荷を降ろすことを勘弁しても らう。続いて真夜中にさしかかったカルフォルニア州との境でも農事検問所で 止められる。『具合の悪いばあさんがいる。早く医者のところにつれて行かな ければならない』と、瀕死に見える顔の力を借りて乗り切ろうとする。係官は 老婆に懐中電灯の光をあてて驚き、『種子も果物も野菜も持っていないと誓う な、とうもろこしも、オレンジも』と聞く。  アメリカでは当時から防除の難しい病害虫の、他州からの侵入に当時から殊 更注意を払っていたことがわかる。ジャガイモ自体の画像は出てこなかった が、示唆に富み、今にも通じる重要な映画であった。
 近年、「生いもを輸入しろ」、の外圧を受けています。外国からの進攻、騒 乱などから市民の命を守るのは国の責任であることは、当然のことです。加え て、子孫の食料確保のため国の土を守ることも、同様に重要な責務と考えられ ます。海外に発生しているが、国内では未発生の線虫(いくつかの種類やその パソタイプ)、癌腫病、コロラドハムシ、等々の病害虫の侵入により、計り知 れない損害を被ることは、ゴールデン・ネマトーダのたった1つのパソタイプ の侵入でどれだけの損害を被っているかを見れば、その重要性がよく理解され ましょう。将来に悔いを残さない対応が国に求められています。
 監督のジョン・フォードはジャガイモ大好きのアイリッシュの血を濃く受け 継いだ人であり、ヘンリー・フォンダを『荒野の決闘』に選ぶなどキャスティ ングに潔癖さがにじむ。『OK牧場の決闘』など西部劇つくりの名人でもありま すが、今回のものも植物検疫などにもふれ、真面目な作品に仕上げています。 (2002年)

13. 『エイプリルの七面鳥』 Picese of April
 「多分この映画にはジャガイモに関係したシーンが出てくる」と期待して出 かけ、その予想が当たり、「見に来てよかった」とうれしくなるものと、外れ てがっかりするものがあります。『エイプリルの七面鳥』は前者に相当し、ソ 連も絡んだ『ひまわり』(Girasoli.1970.イタリア)などは期待したが駄目でした。
 『エイプリルの七面鳥』(2003年アメリカ映画)は、ニューヨークに住む娘 が、感謝祭の日、郊外に住む両親、祖母、弟妹を招く話。郊外から向かう車で のガンを病む母などがからんだトラブル、と初めて一家を迎える娘エイプリル (ケイティ・ホームズ)が七面鳥を焼こうと散々努力する過程を描いていた。
 余命いくばくもない母親のため初めて七面鳥のローストを作ろうとするがオ ーブンが故障。アパートの見知らぬ人を頼りに駆けめぐるハメになるため思わ ぬハプニングが続く。その際マッシュポテト、ポテトピーラ、生いも を上から押して方形に切断する器具が彼女の不慣れな扱いのもとに出てきま す。脚本家ピーター・ヘッジスの監督デビー作、神経質な母親役のパトリシア ・クラークソンも好演して、アメリカ市民の幸福願望と、その実現のための深 刻なハプニングを見せていました。
 

(『いも類振興情報』第83号6頁・2005年4月 )

14. 『パシフィック・ハイツ』(Pacific Height)
 1990年、アメリカ映画。最近、冷えたスープが静かに広まりつつあります。 その代表格はジャガイモ、セロリ、ネギ類を使う『ヴィシソワーズ』。そのヴ ィシソワーズの出る映画を、と言っても言葉として出るものですが、ようやく 見つけました。
 サンフランシスコの高級住宅地に夢のマイホームを手に入れた若いカップル がいた。その下を借りた男が、この二人の出方を冷静に計算し、被害者を装っ て、実はこのマイホームの乗っ取ろうとする。
 映画監督は『真夜中のカーボーイ』、『2番目に幸せなこと』のジョン・シ ュレシンジャー、出演はメラニー・グリフィス、マシュー・モディーンら。
 乗っ取りを画策する詐欺師は、ゴキブリを自分で飼育して放って被害者を装 ったり、釘をガンガン打ったりチェーソーの音を立てたりの大騒ぎ。たまりか ねた日系人の間借り人は出て行く。こんな連日の心労で夫は入院し、奥さんは 流産してしまう。しかし、奥さんはついに自ら詐欺師に立ち向かうことにす る。
 まず、詐欺師が偽名で投宿しているホテルに、その夫人になりすまして行 き、18人の嘘のパーテーを申し込んでやる。そのメニューにヴィシソワ ーズを入れてもらう。そのくらいでは大して困らないので、詐欺師のカー ド類を盗難にあったと、カード会社に届けて、使えなくしてやり、彼の車を盗 難車に仕立てて足も奪ってやる。こうして、降りかかった恐怖にめげず、女ひ とりで立ち向かうのが面白かった。
もう一つ、言葉だけの「ヴィシソワーズ」は1962年のアメリカ映画『突撃隊』(Hell Is for Heroes)にあります。監督はクリント・イーストウッドの師匠であるドン・シーゲル。主演は『大脱走』のスティーヴ・マックイーン。1小隊6名でドイツ軍と戦う話。
 私のお薦めのヴィシソワーズは、夏分限定ですが、喜茂別町から支笏湖に向 かう国道276号左の見落としそうな店『ソーケーシュ』や札幌市内中之島の 『穀物祭(こくもつまつり)』などで味わえます。
 

(『いも類振興情報』第86号18頁・2006年1月 )

15. 『ALWAYS 続・三丁目の夕日』
 2007年邦画。監督:山崎 貴。 2006年日本アカデミー賞ほか数多くの映画 賞を総ナメにした感動の大ヒット作『ALWAYS 三丁目の夕日』の続編。2007年 4月に中華人民 共和国温家宝首相が日中会談で安倍晋三との会談の際に、前偏 本映画を見たと述べていた。
 前作終了から4か月後の設定。東京タワーも完成した。東京オリンピックの 開催が決定し、日本では高度経済成長期が始まろうとしていた。昭和34年に春 の東京の下町夕日町三丁目に住む人々(薬師丸ひろ子ら)の姿を描いたもの。
 小説家茶川(吉岡秀隆)は、踊り子をして飛び出したヒロミ(小雪)を想い続け ている。ヒロミが茶川をあきらめ大阪に向かう途中、『純青』誌に載った茶川 の小説【踊り子】のなかでヒロミへの愛情をつづったところを読んで感激し、 ヒロミを探しに出た茶川の家にくる。そして丸ごとジャガイモの入った「 ライスカレー」をつくって茶川を待つシーンとなる。

蛇足:NHK2012の『梅ちゃん先生』の主役の堀北真希さんも、青森から集団就 職のため上京し薬師丸ひろ子の鈴木家の一員のようになる人(星野六子)を演 じています。

アメリカ映画『コブラ』

ジャガイモと映 画 第2集 (No.16〜27) へ行く

16. 『ソラニン』
17. 『しあわせのパン』
18.『U-900』
19.『ポテチ』
20.『追憶のアイルランド』 I Could Read the Sky
21.『独裁者』または『チャップリンの独裁者』The Great Dictator
22.『ニーチェの馬』原題 A TORINOI LO (英題The Turin Horse トリノの馬)
23.『悲しみのミルク』原題 La teta asustada (英題 The Milk of Sorrow)
24.『落穂拾い』 Les Glaneurs et la   Glaneuse
25.『戦場のピアニスト』 The Pianist 
26.『愛を読むひと』 The Reader
27.『じゃがいもシンフォニー』Gamja Simponi、英題 『Potato Symphony』 

ジャガイモと映 画 第3集 (No.28〜) へ

28.『エリザベス:ゴールデン・エイジ』Elizabeth: The Golden Age 
29.『シェフとギャルソン、リストランテの夜』 Big Night 
30.『エグジット・スピード』 Exit Speed  
31.『Hot Potato』やっかいもの(勝手な訳です)  
32.『トイストーリー3』Toy Story 3
33.『海賊大将』 A High Wind in Jamaica
34.『天空の城ラピュタ』
35.『スタンド・バイ・ミー』Stand by Me 
36.『幸 福』
37.『JIGSAW デッド・オア・アライブ』DEAD OR ALIVE 原題: BROKEN

ジャガイモと映 画 第4集 (No.38〜)の内容 は

38.『苦役列車』 
39.『お焦げ先生とジャガイモ七つ』 
40.『まおゆう魔王勇者』(まおゆうまおうゆうしゃ、 Archenemy and Hero)
41.『アラン』 Man of Aran 
42.『SPUD』(ジャガイモ) 
43.『ジャガイモ』(韓国映画) 
44.『男はつらいよ 寅次郎純情詩集』
45.『ラ・マルセイエーズ』La Marseilaise
46.『Eatrip』(イートリップ) 
47.『チスル』(ジャガイモ) 

ジャガイモと映 画 第5集 (No.48〜)の内容 は

48.『かもめ食堂』 
49.『カレーライス』 別 題. Curry Rice
49.『ライスカレー』(テレビドラマ) 
50.『黄色いライスカレー』 
51.『カレーライスの女たち』 Every Japanese 52.『銀河鉄道の夜』  I carry a ticket of eternity :Nokto de la Galaktia Fervojo
53.『わたし出すわ』 
54.『いもと男爵と蒸気自動車』 (テレビドラマ)
55.『ブリキの太鼓』  Die Blechtrommel、英訳: The Tin Drum
56.『Uボート』  Das Boot、英題:The Boat
57.『スーパーサイズミー』 Super Size Me
58.『「私たち結婚しました』 
59.『地下鉄のザジ』 
60.『鉄道員(ぽっぽや)』 

映 画 第2集 (つづきNo.16〜)
アメリカ映画『コブラ』


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