『都市育成シュミレーションとしてのSIMCITY』研究レポート
レポート22〜アメリカの都市計画〜


 アメリカというと結構土地が広大なので都市に対する規制やルールが少ないと思っている人は多いのではないでしょうか?確かに、ヨーロッパ人が入植して以来のアメリカの土地利用の規制は、近隣所有者の支障にならない限り、自由に自分の土地を利用できるという法律だけだった。それは土地を「自由」に出来るという(ヨーロッパ人側の都合の)新大陸であったからなのだ。ちなみにアメリカの都市が直線で区切られているのもその時代からである。
 しかし、現代もそのようにアメリカで自由に開発が行われてるかといえばそうではない。むしろ都市開発にはたくさんの規制が用意されている。

 自由の国から規制の国へ。いったい何がそこまで都市計画の形を変えていったのか?
 「自由」をウリとした開発は当然のことながら終焉を迎えることとなる。自由にできる土地がなくなってきたこと、そして自由にできるために無秩序な開発(高層ビルなど)が様々な問題を生むこととなったからだ。それがアメリカに都市計画運動を生むきっかけとなった。また、アメリカに希望を求めてどんどん人が集まってきたことや、機械化と奴隷解放宣言により職を失った黒人の移動などがあり、どんどん都市に人が集まってくることになった、ということも覚えておこう(その時には中産階級は郊外へ移動)。

 アメリカの都市計画を語る上で欠かせないものが「ゾーニング」「マスタープラン」である。
 「ゾーニング(zoning)」とは日本では地域制と訳されることが多いが、「zone」に「ing」がついた意味の通り様々な用途の土地を区分けすることである(こんな簡単でいいのか?)。これは近代都市計画に欠かせないもので、どこの国でも採用されている制度である(用途区域制ともいうのか)。国やその文化によって基準も異なり、制度的な厳しさとしてはドイツ、アメリカ、フランスの順に厳しいとされる。もちろん、厳しければいいというものではないが厳しくなければ人は無秩序な開発を続けるだけという点があるので、できるだけ明確にしておくというのは必要なことであろう。用途・容積率(※1)などはSIMCITYでRCI、密度で再現されている。
 アメリカの初期のゾーニングは人種差別のために使われやすかった。これはその地域の欲望だけを優先させたゾーニングに他ならない。地域住民の利害調整用のゾーニングが、利害一致による他の排斥手段として使われ、郊外には高級・中流住宅、古い市街地にはスラムなど、地域ごとに同じような環境の地区が成立していった歴史もあった。また、都市部では所有者の利益による過大な容積率の建物(※2)が建つこととなった(エンパイアステートビルはこうして生まれたらしい)。もちろん、こうしたことが現在の厳しいゾーニングを生むことになったのだが。

 「マスタープラン」というのは総合計画というやつで、その名の通り都市の総合的な計画(計画方針)を取り決めるものだが、その本質通り関心が薄く(誰だって自分の生活に直接関係のないことにあまり興味を抱かない)、行政も運用する準備もろくにしないというような状態が1980年代初頭まで続いた。しかし、近年ではマスタープランはゾーニングに対しての優位性を取り戻し、「かつては、地方の立法府にとって単なる参考的な文書と見なされてきた総合計画が、多くの州において、将来の開発のあり方に対する指針であると共に、法的で拘束力のある文書となってきている」(ハグマン)といわれるようにマスタープランの強化が進み、ついにはゾーニングよりも高い地位を獲得した。そして、マスタープランにのっとっていない開発(ゾーニング含む)は簡単にできないようになった。これはますます自治体(市町村)の都市計画がその都市独自の方針により開発を進めていくようになっていった。
 イマイチこの説明ではわかりにくいかも知れないが、簡単に言ってしまうとマスタープランとは都市計画の基本方針といえるだろう。もちろん全ての市町村が実施しているとは限らないが、州ごとに(自治体に対して)マスタープランの作成を義務づける所も多い。ちなみに日本ではどこでもやっていると思いますが・・・(市町村のHPにも書いてあると思いますよ)。SIMCITYでも、(慣れてきたらだけど)都市を作っていく上でマスタープランを立てることは大事です。プラン通りに行くとは限らないけど、その時々によって修正していけばいいものですから(妥協とは違いますよ)


 アメリカの都市計画には上記のもの以外にも、様々な背景と流れがある(前項にもありますね)。
 専門的な話はこの辺として、次回からSIMCITYとからませながらやっていくとしよう。都市計画の話もどんどん深くなりますが・・・。ここで一つだけ覚えておくのは、アメリカは日本のように縦割り行政ではなく、自治体が独自のまちづくりをしていくようになっているということ。だからSIMCITYではいろんなことが出来るようになっている、ということである。

 SIMCITYを開発したウィル・ライト氏はバンゲリング・ベイの成功のあと(成功したんだよ、向こうでは)知識と趣味のために単位を気にせず大学へ通ったという。ここで都市計画を勉強したかどうかは定かではないが(調査中)、何の関係もなしにシミュレーターの名前を付けるわけはないだろう。
 SIMCITYを「たかがゲーム」で終わらせるのはあまりにも軽率すぎると思われる。専門家に言わせれば「良くできたゲーム」であるというその理由にも触れながらこれからも頑張って更新していこうと思います(できなくても許してね 笑)。

 

※1・・・容積率(%)={(各階の総床面積)/(敷地面積)}×100
※2・・・サンフランシスコ都市部では1963年以前までは2500%という高い容積率だったが、現在は900%までに切り下げられている。また、ロサンゼルスでは1050万人が居住可能という高い容積率を指定したゾーニング計画がなされていた。
  
参考文献「現代アメリカ都市計画」

背景はゾーニングが生まれるきっかけとなったNYです


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