松井家に伝わる古文書

（１）醫師 俊卓　奉書 

天保６年、近隣の野呂山開墾のために、御用金として銀札５貫目を寄附。天保９年、藩からの下命に従い、銀札六十貫目寄付。

天保中期のちょうどこの頃は、天保大飢饉が最も深刻化したころです。特に天保７年申歳は、春遅くまで寒く、苗は育たず、長雨が降り続いて、広島では７月15日に霜が降るという天候異変があったと伝えられています。穀物はほとんど実らず、大飢饉となりました。その上、コレラ（たった１日のわずらいでころりと死んでしまうため、ころりと呼ばれた）がはやり、飢えや病のために、多くの人が亡くなっています。
野呂山開拓はもとより、三津口村自体もこの飢饉で大打撃を受けていますが、俊卓は、多額の寄付を行って村全体での蓄えを推進するなどしており、天保４年癸巳歳から同９年頃までに多くの奉書を頂いています。

（２）醫師 俊卓　御奉書

天保９年、上記に対する「褒美」として頂いたものと思われます。「米拾八石被下居郡御通行之節御目通江罷出」（コメ18コククダサレ、キョグンゴツウコウノセツ オメドオリヘマカリイデ）
一般に、①俸禄（切り米や扶持米も含む）、②郡中御目通り、③御目見え　と「格」が上がっていきますが、３代俊卓にあっては、天保９年に①②を同時に頂いて、この階段のスタートを切ったことになります。時に、俊卓満55才であります。
さらに、次の（３）で③お目見えをいただき、同時に（４）（５）で 名字帯刀を許されています。

（３）醫師 松井俊卓　御奉書 

時は天保10年己亥歳（1839年）。「御年頭お目見」（お殿様への正月のご挨拶）と「お目見医師」（お殿様へのお目見を許された医師）を同時に許されました。つまり俊卓は、これ以降、いわゆる「ご典医」となります。
俊卓墓碑ニ曰「醫事大行天保己亥藩府賜宦醫品」
ちなみに、「賀茂郡役附諸家名録」（編宮尾敬三）によれば、当時、郡中御目通りを許されていたのは、加茂郡では18名、また、御年頭御目見を許されていたのは、阿賀村）宮尾彦五郎、広村）多賀谷千兵衛、竹原）頼　尚平、三津口村）松井俊卓、吉川村）竹内亮平、川尻村）大宮司梶山土佐守の順で、加茂郡内でわずか6名でありました。もちろん医師は、ご典医 松井俊卓一人であります。

（４）帯刀御免

歴史の時間に習った「名字帯刀」のうち，帯刀のお許しです。
天保10年。

（５）首字

こちらは公式に、「名字」を名乗ることのお許しです。
やはり天保10年です。（３）〜（５）は三点セットものだと思います。
（４）（５）には、お目見を申しつけられたので、以降名字を名乗っても良い　とあります。つまり、この時代、（２）に記載した①②③のうち、③お目見　が家名を名乗るステータスであったということ；　逆に言うと、お殿様にご挨拶するのには家名が必要　ということであったろうと思えます。

（６）廣邨大新開の図面

嘉永４年（1851年）頃の加茂郡広村大新開の図面。
現在の呉市広字大新開とまったく同じ地形です。 当時は田圃ばかりだったようですね。
こちらは、文政期の広村全図。

（７）醫師 松井俊卓 奉書

代がかわって，こちらは慶應２年（1866年）10月25日、明治寸前の「五人扶持」、「御城御醫師格」のお許し。格は、「町御奉行支配」。
先代の「ご典医」を相続し，名前も先代のものをそのまま襲名しています。付録の文書に「座順星野良平次へ」とあり、節句や定例月次などで御殿へ出仕していたものと考えています。

しかし松井謙吾は、この後、時代の波にもまれます。慶応４年、健康上の理由で登城免除となり、「年頭御禮上方御往来之節御目見罷出候事」。明治２年７月版籍奉還に伴い、同11月任准医師五人扶持。明治４年７月 廃藩置県 に伴い、同10月９日准医師名儀廃止終身士族、毎年米三十俵（下記８）。明治５年11月８日禄米廃止。明治６年１月19日当分学区取締補助。明治９年11月29日、第八大区第九小区副戸長、また、明治11年12月26日三津口村女子畑村戸長（下記９）。。。

要するに 明治維新の政治体制変革の中を生き抜いたわけです。ひとつ言えることは、ご典医格就任以降は、体制変化はあっても、今で言う公務員のような ものとして、体制からの給与を受け続けた　ということです。
明治４年の廃藩置県により、旧藩から得られていた扶持米は無くなりましたが、かわって新広島県から終身士族として米30俵。明治５年末にこれが廃止されると、翌６年からは公職を得て現在と同じような等級制による給与をもらっています（旧暦から新暦への切り替えのため、明治５年には12月はありませんでしたので、実質、禄米廃止の翌月には給与を得ていたことになります）。
このように、旧藩体制の中では本業の医者として禄をいただき、明治６年以降は医業を続ける傍らで公職を併任し、給与を得ています。今で言う、公務員のようなものに就任していたと考えられます。また明治10年以降（下記11参照）は、一般の公認開業医として医業を継続しています。

先が見えない明治４年末から同５年にかけてが、最も苦しかったであろうと察せられます。この頃は、政権中央では、旧士族の扱いなどに苦労していた頃だと思います。この後、任命制から選挙制度へ、明治20年までかかってゆっくりと体制が変化していく、その第一歩目の部分であります。
この頃(明治初年頃)の政治諸制度の変遷について，こちらに簡単にまとめてみました。さらに，こちらなどが参考になると思います。時代背景を考えながら実際の古文書を見ていくと、上記、わずか数行ではありますが、時代の激変にもまれ続けた 10年あまりにわたる先祖の当時の暮らしぶりを、何となく身近に感じます。

（８）被下米の覚え　松井謙吾

明治４年、版籍を奉還した後の、新広島県出納方から送られた、扶持米の 送り状覚え。

　　


（９）任　三津口村 女子畑村 戸長　松井謙吾

戸長任命の通知。

（10）三津口村村長当選証書　松井謙吾

こちらは明治22年，明治憲法の発布と同時に施行された，現代同様の「市町村制」にしたがって実施された第1回の村長選挙の当選通知。

（11）医師免状　松井卓蔵

代がかわって、河合家から尾道松井家に入家した六代卓蔵の医師としての歩み。
明治１０年広島県医学校の入学許可・卒業証書（本物！）と、明治１４年付の医師免状（写し）。
明治１０年頃に、医師の資格制度が大きく変わっていますが、これらはそれと 相前後する時代のものです。

　　
（12）加茂郡郡会議員当選証書　松井卓蔵

「郡」という行政区画があった当時の、議員さん選挙の当選証書です。

　　　　


（13）三津口町町長当選証書　松井卓蔵

旧三津口村が町政を施行した第１回選挙の当選通知です。大正１１年。
この後三津口町は、昭和１９年１月１日付をもって、近隣５ヶ村とともに合併して、 現在の安浦町へと発展していきます。

（14）三呉鉄道開通　故松井卓蔵

現在のＪＲ呉線、つまり広島県沿海部の呉と三原を結ぶ鉄道がやっと開通したのが、 昭和１０年。そのときにいただいた感謝状です。

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