『第4章:絆-改訂』-4完
ゆっくり引き抜くと、血がついていた。
そっと、一条さんを仰向けにする。 「…一条さん…?」 一条さんが少しだけ身動きした。 「…み、ず…」 「あっはいっ!」 俺はあわてて冷蔵庫からポカリを出して来て、一条さんを抱き起こそうとした。 「…あつっ…」
痛むのか、顔をしかめる。 「…ごだ…の…ませて…」
一条さんの声は、涸れてしまっている。 「…もう…いいですか?」 一条さんが小さく頷いたので、俺はポカリをしまいに行って、ついでにまた綺麗なタオルをお湯で濡らしてきた。顔や首や腕や手を、丁寧に拭く。 「…ん…」
一条さんは、動けないままで、俺に身を任せている。 「…さすが…に…きついな…。死ぬかと思った…。」 「すみません…俺…少し傷つけてしまったらしくて…」 と、一条さんが急に眉をしかめる。 「ん…」 「どうしました?」 一条さんは、うっとおしそうに笑った。 「起こしてくれ…トイレに行く…」 「ど、どうしました?気分悪いですか?」 「馬鹿…。五代の…が…流れ出してくるんだ…。」 「ああああっすみませんすみませんっでも、立てますか?」 「だから…立たせてくれ…」 「ええっじゃあ、お姫さまダッコで…」 「五代…あまり、恥をかかせるなよ」
俺はあせりまくってしまったけれど、なんとか一条さんはベッドから降りて立った。 「…つ…。」
一条さんが、また顔を歪めた。 「…大丈夫だよ…五代…たいしたことはない…」
そして、一条さんは俺に支えられて、トイレに入った。
あんなに怖がっていたのに…あんなに脅えていたのに… (…嫌われたら、どうしよう…。) トイレのドアが開く気配がしたので、俺はすっ飛んでいった。 「い、一条さん!…大丈夫ですか?」 一条さんはまだ蒼い顔をして、一歩一歩も辛そうだった。 「…一条さん…」
俺の手を借りて、一条さんはやっとベッドに辿りついて、横になった。 「…どうした、五代?まだ寝ないか?」 怒ってはいないようだった。でも、一条さんはいかにも疲れた、辛そうな顔をしていた…。 「…ほら…風邪ひくぞ?」 「は、はいっ!!」
俺はあわてて、一条さんの横にもぐりこむ。 「一条さん…俺…すみません…」 一条さんが、微かに笑う気配がする。 「…どうした?」
まだ、声が少しかすれている。 「すみません…無理させてしまって…」 「したかったんだろう?」 「…はい。…でも。」 「…五代…気にするな…」 「…でも…。」 「俺も…したかったんだから…気にするな…」 「…は…い。」
したかったから…と、言ってもらえて嬉しかった。 「今すぐ、電話が鳴ると…さすがに困るが…」 一条さんは笑いかけ、身動きしかけて、また顔をしかめた。 「…あっ、つ…」 「…ちゃんと手当てしなくて…大丈夫ですか?」
「いや…たいしたことはないよ、本当に。
次って…。
「五代…もっと寄ってくれ。少し冷えてしまった…。
一条さんは腕を伸ばして、俺の頭を抱き取ってくれた。
俺の落ち込んだ気分を宥める為に、明るく優しく振舞ってくれているのが、よくわかる。 (ごめんなさい…ごめんなさい…)
あやまり続ける俺の心をまた感じたのか、一条さんが手を伸ばして、さっきのように髪を撫でてくれる。 しばらく経ってから、一条さんは静かに俺を呼んだ。 「五代…」 「はい…」 「…五代…」 「…はい…」
いつものように、一条さんはそれっきり、何も言わない。 俺は、そっと手を上げて、拳を握った。
一条さん、俺は…もっと強くなります。
ほら…こうして強くなろう、と思っただけで、アマダムは熱くなる。
けれど…心配がただひとつ。
そんなことにはならない。きっと、大丈夫だ…でも。
一条さん…その時は、俺を殺してくれますか?
一条さんの静かな寝息が聞こえてきた。
いつか…ちゃんと頼んでおかなければならない…。 (第4章:絆-改訂 完) |