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新世紀エヴァンゲリオンは © GAINAXの作品です

EPISODE:25 | FINALE: | :DEATH | EPISODE:25' | ONE MORE FINAL:





      リリスの前で向かいあって立つ、ゲンドウと素裸のレイ
ゲンドウ 「アダムはすでに私とともにある。ユイとふたたび会うには、これしかない。アダムとリリスの、
      禁じられた融合だけだ」
      レイの左上腕部がちぎれて落ちる
ゲンドウ 「時間がない。ATフィールドがお前のかたちを保てなくなる」
      はずした手袋を右手につかんでいるゲンドウ
      その手のひらの端から、皮膚の不自然な凹凸が覗く
ゲンドウ 「始めるぞ、レイ。
      ATフィールドを、心の壁を解き放て。欠けた心の補完。不要なからだを捨て、
      すべての魂を、今、ひとつに。
      そして、ユイのもとへ行こう」
      レイが目を閉じる
      ゲンドウが右手のひらを伸ばし、レイの左の乳房をつかむ
レイ   「……うっ」
      その手がレイの身体に沈んでゆき、ずぶりと手首まで潜りこむ
レイ   「うっ、……はああ」
      そのまま、手を下腹部へと降ろしていくゲンドウ
      前かがみになって悶えるレイ
レイ   「う!」


第26話











      翼を広げたエヴァ初号機を中心にして渦を巻く突風
      両目と口が光る
      見上げるシンジ
シンジ  「アスカ!」
      上空を舞うエヴァシリーズに咥えられた、弐号機の残骸
シンジ  「うわあああーっ!」

レイ   「碇くん」

      フラッシュする記憶
シンジ  「うわあああーっ!」
      初号機の背中の拘束具がはじけ飛び、光の翼が十字架形に伸びる

      月面に刺さっていたロンギヌスの槍が抜ける
      強風の地上でスコープを構える戦自指揮官
     「大気圏外より、高速接近中の物体あり」
     「なんだと!」
      雲の間に一点の光が接近する
冬月   「いかん! ロンギヌスの槍か!」
      空中に制止したまま、首をのけぞらせている初号機
      猛スピードで飛来したロンギヌスの槍は、その初号機の喉元で停止した
      暴風が止む
      うなだれたままのシンジ

      そそり立つゼーレ01
キール  「ついに我らの願いが始まる」
     「ロンギヌスの槍も、オリジナルがその手に返った」
     「いささか数が足りぬが、やむをえまい」
     「——エヴァシリーズを本来の姿に。
      我ら人類に福音をもたらす、真の姿に。
      等しき死と祈りをもって、人々を真の姿に」
キール  「それは魂の安らぎでもある。
      では、儀式を始めよう」


      弐号機の残骸をぶら下げていた量産機が、それを投げ捨てる
      携えた槍が伸び、初号機の両手のひらを貫く
      初号機の翼に喰らいつく量産機
      地上でむくろをさらすエヴァ弐号機
      初号機をはりつけにして上昇を始めるエヴァシリーズ

      累々たる死体が左舷ブリッジに転がる第二発令所
マコト  「エヴァ初号機、拘引されていきます!」
シゲル  「高度1万2千! さらに上昇中!」
冬月   「ゼーレめ、初号機を依代とするつもりか!」
      初号機の翼から一斉に離れていく量産機たち
      初号機の目から光が消える
      自分の両手のひらを見るシンジ
シンジ  「……はぁ、……はぁ、」
      手の中央にあざが浮きあがっている
シンジ  「……はあ!」

     「エヴァ初号機に聖痕が刻まれた」
     「——今こそ衷心の樹の復活を」
キール  「我らが下僕エヴァシリーズは、」
      人間の姿に戻るゼーレ01
キール  「みな、この時のために」

      白く輝きはじめる量産機
      初号機とその周囲に配置した9体の量産機が、虹色の円形の光を放出する
シゲル  「エヴァシリーズ、S2機関を解放!」
マコト  「次元測定値が反転、マイナスを示しています! 観測不能、数値化できません!」
冬月   「アンチATフィールドか」

      円形の光が、生命(セフィロト)の樹の図版を生成した

      コンソールの下に座りこんで端末を見るマヤ
マヤ   「すべての現象が15年前と酷似してる…… じゃあ、これってやっぱり、
      サードインパクトの前兆なの?」
      急速にレンジを上げていくセフィロトの樹
      騒然となる、地上の戦自部隊
     「S2機関、臨界!」
     「これ以上は、もう分子間引力が、維持できません!」
     “各部隊は、すみやかに撤退”
      上空を仰いだまま、戦自指揮官が呟く
     「作戦は、失敗だったな」
      湖岸の戦自車両が赤く熱を帯びてゆく


      大爆発
      ジオフロントが爆炎に飲みこまれる
      第二発令所を揺るがす激震
      右舷ディスプレイに赤い「EMERGENCY」が踊る
シゲル  「直撃です! 地表堆積層融解!」
マコト  「第二波が本部周縁を掘削中! 外郭部が露呈していきます!」
      飛び散る地盤の彼方に、巨大な黒い球体がせり出してくる
冬月   「まだ物理的な衝撃波だ! アブソーバーを最大にすれば耐えられる!」
      地上のビル群の乱れ飛ぶ、セフィロトの樹の直下
      伊豆半島と三浦半島を飲みこんで拡大するキノコ雲 その周縁部に放電が起こる
     「悠久の時を示す、」
     「赫き土の禊ぎをもって、」
     「まずはジオフロントを、」
キール  「真の姿に」
      巨大なクレーターと化した第3新東京市
      白雲の渦巻くその中心に浮かび上がる、黒い球体
冬月   「人類の、生命の源たる、リリスの卵、黒き月。……今さら、その殻の中へと還ることは望まぬ。
      だがそれも、リリスしだいか」

ゲンドウ 「ことが始まったようだ。
      さあ、レイ。私をユイのところへ導いてくれ」
      そのとき、レイの下腹部がゲンドウの右手首を締めつけた
ゲンドウ 「まさか!」
      目をゲンドウに向けるレイ
レイ   「わたしは、あなたの人形じゃない」
      レイの下腹部が、ゲンドウの手首を引きちぎる
ゲンドウ 「くあっ!」
      後ずさるゲンドウ
ゲンドウ 「……なぜだ?」
レイ   「わたしはあなたじゃ、ないもの」
      レイの左腕がぶくりと伸び、上腕部が再生される
ゲンドウ 「レイ!」
      ゲンドウに背を向け、リリスに向かって浮かびあがっていくレイ
ゲンドウ 「頼む! 待ってくれ、レイ!」
レイ   「だめ。碇くんが呼んでる」
ゲンドウ 「レイ!」
      リリスの胸の前で停止するレイ
レイ   「ただいま」

「おかえりなさい。」

      リリスの胸部がせり出し、レイはその穴の中に飲みこまれていった

      心音が起こる
      リリスの下腹部の、人間の足のような無数の突起物が消える
      右腕を抱えながら見守るゲンドウ
      十字架に打ちつけられた杭から、両手のひらが引き抜かれる
      LCLの海へ降り立ち、前のめりに倒れこむリリス
      しぶきを浴び、目を見開くゲンドウ
      うつむかれた顔面部から仮面がはがれて落下する 響く轟音
      波に揺れるリツコの死体

      すうー...

      リリスの吐息
      仮面から顔を剥がしていく、白いリリス
      たるんだ胴体が、しだいに女の身体になっていく
ゲンドウ 「……レイ」

      エネルギー観測モニターのグラフが急速にせり上がる
シゲル  「ターミナルドグマより正体不明の高エネルギー体が、急速接近中!」
マコト  「ATフィールドを確認! 分析パターン、青!」
マヤ   「まさか、使徒!」
マコト  「いや、ちがう! ヒト、人間です!」
     「LILITH'S EGG」を映しだす正面モニターを遮って上体を起こす、巨大なリリス
      はあー...
      すうー...
      はあー...
      その指が、ブリッジごとマヤの身体をすり抜ける
マヤ   「ひっ! いっ! いやあー! いやああーっ!」
      抱えた頭を幾度も横に振るマヤ

      雲の間を拘引される初号機
      血のついたミサトのクロスを手のひらから落とし、両手で顔を覆うシンジ
シンジ  「……はあっ、ちきしょう、ちきしょう、……ちきしょう、ちきしょう!」
      空洞の目が、雲の下からのけぞり上がってくる
      はあー...
      上体を初号機の正面で倒す、巨大なリリス
      はあー...
      すうー...
      はあー...
      ゆっくりと上体を起こすリリス
      すうー...
シンジ  「……綾波?」
      両手を差しのべ、初号機を包みこもうとするリリス
      はあー...
シンジ  「……レイ?」
      はっ
      ふたつの空洞がまばたきすると、人間の赤い瞳の目に変わった
シンジ  「うわあああーっ! うわあああーっ! うわあああーっ!」

     「——エヴァンゲリオン初号機パイロットの、欠けた自我をもって人々の補完を」
キール  「三たびの報いの時が、今」
      量産機の翼に無数の目が生まれる
      リリスの後方へ移動し、陣形をなす量産機
      量産機の放つ光が紋様を描く
シゲル  「エヴァシリーズのATフィールドが共鳴!」
マコト  「さらに増幅しています!」
冬月   「レイと同化を始めたか」

      量産機の口がぶくっと膨れあがり、レイの笑い顔が現われる
      フフッ
シンジ  「ひっ!」
      フフフッ ヒャハハッ
      べつの量産機の頭部もぶくぶくと盛りあがり、無数のレイの笑い顔になる
シンジ  「ひいっ! ひっ!」
      口を歪めて目を剥くシンジ
      ウフフッ フフフッ ヒャハッ ウフフフッ
      右の眼球を脳ごと露出したレイの目が、シンジを睨む
      レイの記憶
シンジ  「ひっ! わああああああーっ!」
      吼える初号機
      腹部が大きく裂け、コアがむき出しになる
      狂ったようにレバーを動かすシンジ
シンジ  「わああーっ! わあっ! わあっ! わあーっ!  わあああああーっ!」

シゲル  「心理グラフ、シグナルダウン!」
マコト  「デストルドーがケイジ化されていきます!」
冬月   「これ以上は、パイロットの自我がもたんか」
      初号機のコアの発光が消える

シンジ  「……もう、イヤだ、……もうイヤだ、イヤだ、イヤだ、もうイヤだ、もうイヤだ、もうイヤだ、
      もうイヤだ、もうイヤだ、もうイヤだ、もうイヤだ、もうイヤだ、イヤだ、イヤだ……」
      組まれた手からぶら下がっている、ミサトのクロス
      もう、いいのかい?
シンジ  「はっ!」
      頭を上げると、カヲルの優しい顔が
シンジ  「そこにいたの? カヲルくん……」
      涙を浮かべるシンジ
      レイの上半身を後ろにのけぞらせ、リリスの下半身から胴体の伸びたカヲル
      両手のひらで初号機を包みこもうとする
シンジ  「はあぁ……」
      うっとりと瞼を閉じるシンジ
      カヲルの手のひらの間で、初号機の翼が消える
      唸る初号機のコアに、ゆっくりと先端を近づけてゆくロンギヌスの槍
シゲル  「ソレノイドグラフ、反転! 自我境界が弱体化していきます!」
マコト  「ATフィールドも、パターンレッドへ!」
      初号機のコアに穴があき、ロンギヌスの槍を飲みこむ
冬月   「使徒の持つ生命の実と、人の持つ知恵の実、……」
      槍とコアが融合し、生命(セフィロト)の樹を編みはじめる
      腕は枝に、首は幹に 幹から無数の細枝が伸びていく
冬月   「……その両方を手に入れたエヴァ初号機は、神に等しき存在となった。
      そして今や、命の大河たる生命の樹へと還元している。この先に、サードインパクトの、
      無からヒトを救う方舟となるか、ヒトを滅ぼす悪魔となるのか。
      未来は碇の息子に委ねられたな」
      クッションを抱いて震えながら、片手でシゲルの袖をつかむマヤ
マヤ   「ね、私たち、正しいわよね?」
シゲル  「わかるもんか!」

      枝と幹の交わるところに、無数の目が一斉に現われる
      生命の樹を包みこもうとするカヲルの上半身と後ろのレイとが入れかわる
ユイ   :今のレイは、あなた自身の心 あなたの願い、そのものなのよ
レイ   :なにを願うの?
      安らいだ笑顔のシンジ
      その笑顔が、光を反射し波打つ水面に包まれてゆく


      上から下へ落ちる水滴


      スポットライト
      きしむブランコ
      ふたつの山の間の、赤い夕陽
      足踏みオルガンを伴奏に、むすんでひらいての歌声
シンジ  :……そうだ、チェロを始めたときと同じだ ここに来たら、なにかあると思ってた
      公園の砂場
      砂場の前に立つ、幼いシンジ
      その背中から砂場を照らす、ふたつのスポットライト
     :シンジくんもやりなよ
     :がんばってカンセイさせようよ、おしろ
幼いシンジ「うん」
      嬉しそうに、砂の城を両手で叩くシンジ
      揺れるブランコ むすんでひらいての歌声
      左の女の子は手描きの目、右の女の子はまばたき式の目
      木製の舞台の上にパイプ椅子が数個置かれている そのひとつに座る、エプロン姿の女
     :あっ、ママだ
     :かえらなきゃ
      砂をすくったまま止まる、シンジの手
     :じゃあねー
     :ママー
     :キャハハハ
     :フフフフ、ママー
     :あのね、あのね、フフ
     :ウフフ、マーマ
      母親の手を取り、去っていく女の子たち
      砂場に頭を向けたままのシンジ

      低くなる赤い夕焼け
      カラスの鳴き声
      砂場と、女の子たちの母親がいた舞台との間に、深い奈落がある
      奈落の端から向こうの舞台を眺めるシンジ
      背を向けて砂場に戻る
幼いシンジ「……うっ」
      眉を寄せ、唇を噛みながら城を作りつづけるシンジ
      揺れるブランコ
      街灯が灯る
      でき上がったのは、砂のピラミッド
      傍らに立ち、それを見つめるシンジ
      スポットライトのむこうで夕闇が降りてくる
幼いシンジ「……えいっ」
      城を踏みつけるシンジ
幼いシンジ「えいっ、えいっ、えいっ、えいっえいっ、えいっ、えいっえいっ、えいっ、はっ、えいっえいっ、
      えいっ、えいっえいっ、えいっ、えいっ、えいっえいっ、えいっ、えいっ、えいっ、えいっ……」
      ブランコが徐々に揺れを止める
      壊された砂のピラミッド
      カラスの鳴き声
幼いシンジ「……うっ、ふっ、ううっ、うっ」
      目を袖でぬぐい、しゃくりあげながら、ふたたび砂をすくいはじめるシンジ


アスカ  「つぁーっもうっ! あんた見てると、イライラすんのよっ!」
      裸で重なるアスカとシンジ
シンジ  「自分みたいで?」
      顔をくしゃくしゃにして泣く幼いアスカ
幼いアスカ「ママーっ!」
      シンジの布団で寝言を言うアスカの唇
アスカ  「マ、マ」
      第7ケイジで膝を抱えるシンジ
シンジ  「ママ……」
      血のついたミサトのクロス
ミサト  「結局、シンジ君の母親にはなれなかったのね……」
      テレビの野球中継の音
      洗濯物と扇風機、ティッシュの箱、ビールの空き缶、カップ麺の殻
ミサト  「んー、ねぇ、しよう?」
カジ   「またか? きょうは学校で友だちと会うんじゃなかったっけ」
ミサト  「んー? ああ、リツコね。いいわよ、まだ時間あるし」
カジ   「もう一週間だぞ、ここでゴロゴロしはじめて」
ミサト  「だんだんね、コツがつかめてきたのよ。だからぁ、ねえ?」
      あえぎ声
ミサト  :たぶんね、自分がここにいることを確認するために、こういうことするの
      前後する足
      あえぎ声
      ミサトのクロスを手に乗せて、傍らから眺めるシンジ
アスカ  :バッカみたい ただ、さびしいおとながなぐさめあってるだっけじゃないの
リツコ  :カラダだけでも、必要とされてるものね
ミサト  :自分が求められる感じがして、嬉しいのよ
アスカ  :イージーに自分にも価値があるんだって思えるものねえ、それって
      あえぎ声
      シンジの瞳に映る、前後に動く足
シンジ  :これが、こんなコトしてるのがミサトさん……
ミサト  :そうよ これもあたし お互いに溶けあう心が映しだす、シンジ君の知らないあたし
      ホントのことはけっこう痛みをともなうものよ それに堪えなきゃね
アスカ  :あーあ、ワタシもおとなになったらミサトみたいなこと、
     「するのかなあ」
      のしかかるカジの裸の肩
      キッチンのテーブルに頭を寄せるアスカ
アスカ  「ねえ、キスしようか?」
      襖の向こうから睨むミサト
ミサト  「だめ!」
      背もたれに肘をかけるアスカ
アスカ  「それとも怖い?」
      裸の背中にシャツを通すミサト
ミサト  「子どものするもんじゃないわ」
      シンジに歩みよるアスカ
アスカ  「じゃ、いくわよ」
      向かいあうシンジとアスカ
アスカ  「なにもわかってないくせに、ワタシのそばに来ないで!」
      迷うシンジの手
シンジ  「……わかってるよ」
アスカ  「わかってないわよ! バカ!」
      シンジの足に蹴りつけるアスカ
アスカ  「あんたワタシのことわかってるつもりなの!」
      アスカの舌なめずり
アスカ  「救ってやれると思ってんの?」
      アスカのTシャツの胸
アスカ  「それこそ傲慢な思いあがりよ!」
      アスカの首筋
アスカ  「わかるはずないわ!」
      アスカの太股
シンジ  :わかるはずないよ
      アスカはなんにも言わないもの なにも言わない、なにも話さないくせにわかってくれなんて、
      ムリだよ!
      電車の中
レイ   :碇くんはわかろうとしたの?
シンジ  :わかろうとした
      アスカの病室でのシーン
アスカ  :バーカ! 知ってんのよ? あんたがワタシをオカズにしてること
      いつもみたくやってみなさいよ ここで見ててあげるから
      シンジの目の前に迫る、アスカの制服の胸
      座席に片足を乗せてシンジに詰めよるアスカ
アスカ  :あんたが、ぜんぶワタシのものにならないなら、ワタシ、なにもいらない!
シンジ  :だったらぼくに優しくしてよ
      裸で覆いかぶさる三人の女たち
ミサト/アスカ/レイ
     :優しくしてるわよ
シンジ  :うそだ!
      裸で微笑む三人の女たちが背景を飾る
      踏切の音
シンジ  :笑った顔でごまかしてるだけだ! 曖昧なままにしておきたいだけなんだ!
レイ   :ほんとうのことは、みんなを傷つけるから それは、とてもとてもつらいから
シンジ  :曖昧なものは、ぼくを追いつめるだけなのに
レイ   :その場しのぎね
シンジ  :このままじゃ怖いんだ、いつまたぼくがいらなくなるのかもしれないんだ、
      ざわざわするんだ、落ちつかないんだ! 声を聞かせてよ!
      ぼくの相手をしてよ!
      ぼくにかまってよ!
      立ちつくすシンジ
      後ろからシンジを眺める三人の女たち
      ゆっくりと三人の方へふり返る


      キッチンのテーブルに頭を伏せて座るアスカ
      歩みよるシンジ
シンジ  「なにか役に立ちたいんだ。ずっといっしょにいたいんだ」
アスカ  「じゃあ、なにもしないで。もうそばに来ないで。あんた、ワタシを傷つけるだけだもの」
シンジ  「ア、アスカ、助けてよ。ねえ、アスカじゃなきゃだめなんだ」
アスカ  「うそね」
シンジ  「は……」
      シンジを睨めつけるアスカ
アスカ  「あんた、だれでもいいんでしょ?」
      立ち上がり、シンジににじり寄るアスカ
      テーブルのまわりを、ふらつきながら後ずさるシンジ
アスカ  「ミサトもファーストも怖いから、お父さんもお母さんも怖いから!」
シンジ  「……アスカ」
アスカ  「ワタシに逃げてるだけじゃないの!」
シンジ  「アスカ、助けてよ」
アスカ  「それがいちばんラクで傷つかないもの」
シンジ  「ねぇ、ぼくを助けてよ!」
アスカ  「ホントに他人を好きになったことないのよ!」
シンジ  「あっ!」
      シンジを突き飛ばすアスカ
アスカ  「自分しかここにいないのよ! その自分も好きだって感じたこと、ないのよ!」
      シンジの肘がコーヒーメーカーを払い、煮たぎったコーヒーが床にぶちまけられる
      湯気を立てるコーヒー、その上に倒れるシンジ
      むこうから様子をうかがうペンペン
      蔑んだ表情でシンジを見下ろすアスカ
アスカ  「あわれね」
      のそりと立ち上がるシンジ
シンジ  「……たすけてよ、ねえ、だれかぼくを、だれかぼくをたすけて、
      たすけてよ、たすけてよ、ぼくを助けてよお!」
      テーブルをひっくり返すシンジ
      ビクッとするペンペン
シンジ  「ひとりにしないで! ぼくを見捨てないで! ぼくを殺さないで!」
      狂ったように椅子を振りまわし、アスカの足許に叩きつけるシンジ
      やがてまた頭を垂らし、息を切らせるシンジ
      立ったまま一部始終を眺めていたアスカ
アスカ  「……イヤ」
      息の止まるシンジ
      息の止まるシンジ
      息の止まるシンジ
シンジ  「ふっ!」
      アスカの喉首に両手が伸びる
      アスカの目が見開かれる
      腕を垂らし、つま先が浮いていく


      アスカの首を絞めるシンジと、幼いレイの首を絞める赤木ナオコ博士


      子どものクレヨン画
      赤い顔の人の絵
      家の中で血を吹く人の絵
      おとなに殴られる子どもの絵
      家の前の男の絵
      色鉛筆画
      バケツの中の魚の絵
      肋骨をさらした犬の死骸の絵
      瓶の中で蠅のたかった魚の頭の絵
      血を吹く男女の絵
      信号機の絵
      塀の上で丸くなっている猫の絵
      めまぐるしく変わる第壱話から第25話までのタイトル

      フラッシュする記憶
シンジ  「だれもわかってくれないんだ」
レイ   :なにもわかっていなかったのね
シンジ  「イヤなことがなんにもない、裏切りのない世界だと思っていたのに」
レイ   :他人も自分と同じだと、ひとりで思いこんでいたのね
シンジ  「裏切ったな! ぼくの気持ちを裏切ったんだ!」
レイ   :はじめから自分のカンちがい、勝手な思いこみにすぎないのに
シンジ  「みんなぼくはいらないんだ。だからみんな死んじゃえ」
レイ   :では、その手はなんのためにあるの?
シンジ  「ぼくがいてもいなくてもだれも同じなんだ。なにも変わらない。だからみんな死んじゃえ」
レイ   :では、その心は、なんのためにあるの?
シンジ  「むしろいない方がいいんだ。だからぼくも死んじゃえ」
レイ   :では、何故ココにいるの?
      プラットホームで泣いている幼いシンジ
シンジ  「ココにいてもいいの?」

(無言)

シンジ  「……ひっ、ひっ、うわあああああああーっ!」
      無数の黒いキズに覆われた、顔のないシンジの姿がフラッシュする


マコト  「パイロットの反応が、かぎりなくゼロに近づいていきます!」
シゲル  「エヴァシリーズおよびジオフロント、E層を通過! なおも上昇中!」
      量産機たちの作る白い紋様の下で、黒い月がゆっくりと上昇を続ける
MAGI 『現在、高度、22、万キロ、F層に、突入』
マコト  「エヴァ全機、健在!」
シゲル  「リリスよりのアンチATフィールド、さらに拡大、物質化されます!」

      上昇する黒い月の下に、純白の光が広がる
      惑星大のリリスが、黒い月をすり抜けてからだを起こす
      リリスの手のひらの間に包まれる、黒い月、リリスの卵
      深くかがんだ姿勢で、いとおしげに卵を見つめるリリス

マコト  「アンチATフィールド、臨界点を突破!」
シゲル  「だめです! このままでは、個体生命の形が維持できません!」
      クッションに顔をうずめて座りこんでいるマヤ

      月と太陽を背に、背中から12枚の白い翼を伸ばすリリス
冬月   「ガフの部屋が開く。世界の、はじまりと終局の扉が、
      ついに開いてしまうか」
      地表に覆いかぶさるリリスの、白い頭部と赤い瞳
      リリスの手のひらに女性器のような穴が現われ、卵のまわりを無数の赤い液粒が包む

      ネルフ本部内通路には、無線機を握ったままちぎれた腕が転がっている
      血だまりがLCLに変わる そこに映る綾波レイの制服の足
      無数に横たわったネルフ職員の死体が、着衣を残してLCLを垂れ流している
      傍らにたたずみ、それぞれの死体を見下ろす、無数の綾波レイ
レイ   :世界が悲しみに満ちみちていく
      海にただようリツコの白衣の傍らに現われたレイ
レイ   :空しさが人々を包みこんでいく
      ミサトの裂けた赤いジャンパーの傍らに現われたレイ
レイ   :孤独が人の心を埋めていくのね

      驚愕してうめくマコト
マコト  「うっ、うっ、うっ」
      第二発令所コンソールの上に現われた制服姿のレイが、マコトに微笑みかける
      フフフッ、フフフッ
マコト  「はあっ、あっ、あっ」
      フフフッ、フフフッ、フフフッ
      両手でマコトの顔を包むレイ
      口を歪めるマコト
マコト  「ううっ、うっ、ひいっ」
      レイの姿がミサトに変わり、マコトに顔を寄せていく
      うふふふ、んふうっ
マコト  「ああっ」
      そのまま抱きついて口づけるミサト
      ミサトの背中にまわそうとしたマコトの手が
     「ばしゃん」
      マコトはLCLへと還元された
シゲル  「ううっ! ううっ!」
      コンソールの下へ潜りこみ、背後から迫る無数のレイに怯えるシゲル
      その肩に手をかけるレイ
      フフフッ、フフフッ、フフフッ
シゲル  「ああっ! はあっ! はあっ! はああーっ!」
     「ばしゃん」
      満足げに宙を見る冬月
冬月   「碇、お前もユイ君に会えたのか?」
      冬月を見つめながら空中をただようレイ
      レイがユイに変化し、冬月の頬を両手で包みこもうとした瞬間、
     「ばしゃん」
      砕けたネルフのマグカップが、LCLの水たまりに残る
      しゃがみこんで携帯端末を見つめるマヤ
マヤ   「ATフィールドが、みんなのATフィールドが、消えていく……
      これが答えなの? 私の求めていた……」
      マヤの震える両手の上に、後ろからべつの手がそっと重なる
マヤ   「はっ!」
      その手が端末のキーボードに指を走らせる
      驚いてふり向くマヤ
      んっ
マヤ   「先輩!」
      ふ、マヤ
      マヤを抱きしめるリツコ
マヤ   「ひっ」
      ふり返りしなにマヤの足が携帯端末を蹴る
      コンソールの下へ滑っていく端末機
      涙を浮かべてリツコに抱きつくマヤ
マヤ   「先輩、……先輩! 先輩! 先輩! あ」
     「ばしゃん」
      マヤの手首が端末画面の上でLCLをまき散らす
 



 I NEED YOU.」


      次々と消えていくゼーレのモノリス
     「ばしゃん」「ばしゃん」
      フフフッ、フフフッ
キール  「はじまりと終わりは同じところにある」
     「ばしゃん」「ばしゃん」「ばしゃん」「ばしゃん」
      フフフッ、フフフフッ
キール  「よい、すべてはこれでよい」
      どろりと溶けるキール
      キールの体内から、ひと粒の赤い光が飛び去ってゆく
      残されたキールの機械の身体が、カチカチと音をたてつづける
      フフフッ、フフフフッ、フフフッ、フフフフッ

      右腕を抱きかかえて横たわるゲンドウ
ゲンドウ 「この時を、ただひたすら待ちつづけていた。
      ようやく会えたな、ユイ」
      ゲンドウの足の下に立つユイ
ゲンドウ 「俺がそばにいると、シンジを傷つけるだけだ。だから、なにもしない方がいい」
ユイ   :シンジが怖かったのね
ゲンドウ 「自分が人から愛されるとは信じられない。私にそんな資格はない」
      ゲンドウの頭の上に立つ、運動靴と制服姿のカヲル
カヲル  :ただ逃げてるだけなんだ 自分が傷つく前に、世界を拒絶している
      ユイの後ろに立つ、素裸のレイ
ユイ   :人の間にある、かたちもなく、目にも見えないものが、
レイ   :怖くて、心を閉じるしかなかったのね
ゲンドウ 「その報いがこのありさまか」
      半裸の初号機にわしづかみにされたゲンドウ
ゲンドウ 「すまなかったな、シンジ」
      初号機がゲンドウに頭から喰らいつく
      床に転がった眼鏡の向こうに立つ、白い脊椎をさらしたゲンドウの下半身
      その眼鏡を拾い上げる、制服に包帯を巻いたレイ
      その隣には、幼いレイ
      その隣には、裸のレイ


      うっ、うっ、うっ、ふっ、はっ、はっ、はっ、ううっ!
      自らの手で自分のコアに槍を突き立てて身悶える、レイの顔をつけた量産機たち
      はあっ
      はあ、はあ、はあ
      はあっ、ううっ!
      はあっ
      水滴の音

      無数の悲鳴
      地球の表面から、無数の十字架形の光と、無数の赤い液粒が沸きあがる
      街灯りを切り裂く十字架と液粒
      はりつけの姿で浮かぶ量産機
      月を、太陽を背にして浮かぶ量産機
      十字架形の光の間から立ち昇る、赤い液粒の群れ
      リリスの卵の周囲を巡ってから、リリスの手のひらの穴に吸いこまれてゆく、赤い液粒
      液粒は地表全土から、円錐の柱をなしてリリスの卵へと集まっている
      翼を広げて背をそらし、両手で卵を守りながら宙を仰ぐリリス
      周囲をただよう、はりつけの量産機
      その額に女性器が現われ、その中央の眼球にセフィロトの樹が飲みこまれる
シンジ  「……はっ!」
      無数に泳いでいるレイ
      フフフッ、フフフッ、フフフッ、フフフッ
シンジ  「綾波、レイ?」
      一斉にふり向くレイのクローンたち

      頬を叩く音
     「嫌い」
     「だぁれがあなたなんかと」
     「バッカみたい」
     「カンちがいしないで」
     「あんたのことなんか、好きになるはずないじゃないの」
     「あんたさえいなけりゃいいの」
      踏切の音
     「私の人生になんの関係もないわ」
     「もうあっち行ってて!」
     「お願いですからもう電話してこないでください」
     「人のこと考えなさいよ」
     「しつこいわねえ」
     「これ以上つきまとわないでください」
     「正直、苦手というより、いちばん嫌いなタイプなのよあなたって」
      あえぎ声
     「カンちがいしないで、だれがあなたなんかと」
     「あんたのことなんか、好きになるわけないじゃん」
      自動車のクラクション
      高笑い
     「あっち行ってて!」
     「ひょっとしてその気になってた?」
      救急車のサイレン
     「あんたさえいなけりゃいいのよ」
      高笑い
     「しつっこいわね」
     「よりを戻すつもりはさらさらないの」
     「大っ嫌い!」
     「ばっか」
     「そばに寄らないで」
      高笑い
     「身のほど考えなさいよ」
      自動車のクラクション
     「やっぱり、友だち以上に思えないの」
      鐘の音
     「あんたなんか、生まれてこなきゃよかったのよ」
     「もう、あっち行ってて!」
      ボーリング工事の音
     「しつっこいわね」
     「あんたさえいなけりゃいいのよ」
     「大っ嫌い」
      高笑い
      踏切の音
     「だいっきらい」
      自動車のクラクション
      あえぎ声
      高笑い
      鐘の音
      救急車のサイレン
     「これ以上、つきまとわないでください」
     「はっきり言って迷惑なの」
      高笑い
     「いくじなし」

      揺れるブランコ
      横たわるシンジ
      あえぎ声
      優しくささやくミサト
ミサト  :そんなにつらかったら、もうやめてもいいのよ
      あえぎ声
      優しくささやくレイ
レイ   :そんなにイヤだったら、もう逃げだしてもいいのよ
      あえぎ声
      女の躰
ミサト  :ラクになりたいんでしょ、安らぎを得たいんでしょ
      あえぎ声
ミサト  :あたしとひとつになりたいんでしょ、心もからだもひとつに重ねたいんでしょ
      あえぎ声
アスカ  「でも、あなたとだけは、ゼッタイに死んでもイヤ!」
      目を剥く人


      青い空席の並ぶ映画館


      光の反射する水面
      送電線と鉄塔と太陽
      徐行する電車
      食堂の看板屋根の上の猫
      山裾の街
      テレビ塔
      分岐駅
      電柱
      風速計と鉄塔
      女の躰
      揺れるブランコと太陽
      電車の窓から臨むビル群
      通勤の雑踏

シンジ  :ねえ
ミサト  :なに?
シンジ  :……夢って、なにかな
アスカ  :夢?
レイ   :そう、夢

      映画館の青いシートに座る、満員の観客

「気持ち、いいの?」

      雑踏の間からこちらを見る三人の女
シンジ  :わからない 現実が、よくわからないんだ
レイ   :他人の現実と、自分の真実との溝が、正確に把握できないのね
シンジ  :幸せがどこにあるのか、わからないんだ
レイ   :夢の中にしか、幸せを見いだせないのね
      裏路地の雑踏
      ミサト、レイ、アスカの衣装をつけた女たちが、その雑踏の奥に背を向けて立っている
シンジ  :だからこれは現実じゃない だれもいない世界だ
レイ   :そう、夢
シンジ  :だから、ここにはぼくがいない
レイ   :都合のいい作りごとで、現実の復讐をしていたのね
シンジ  :いけないのか?
レイ   :虚構に逃げて、真実をごまかしていたのね
シンジ  :ぼくひとりの夢を見ちゃ、いけないのか?
レイ   :それは夢じゃない、ただの現実の埋めあわせよ
      満員の映画館の、ざわめく客席


      だれもいなくなった映画館
シンジ  :じゃあ、ぼくの夢はどこ?
レイ   :それは、現実のつづき
シンジ  :ぼくの現実はどこ?
レイ   :それは、夢の終わりよ
      ファンレター、パソコン通信の画面、落書き、メール、「庵野、殺す!!!」


      リリスの左首筋が裂ける
      そこから赤い体液を吹き出し、笑んだまま身体を右に傾けるリリス
      血しぶきが月を遮る
      そのまま背中から倒れていくリリス


      水の中
      水面の向こうに月が見えている
      レイが、真上からこちらを覗きこんでいる
シンジ  :……ああ、
      ……綾波、ここは?
レイ   :ここは、LCLの海 生命の源の海の中
      裸のレイが裸のシンジの上にまたがっている
      重ねた腰部は溶けあい、レイの両手首もシンジの胸の中に沈みこんでいる
レイ   :ATフィールドを失った、自分のかたちを失った世界
      どこまでが自分で、どこからが他人なのかわからない、曖昧な世界
      どこまでも自分で、どこにも自分がいなくなっている、脆弱な世界
シンジ  :ぼくは死んだの?
レイ   :いいえ、すべてがひとつになっているだけ
      これがあなたの望んだ世界、そのものよ
      握られていたミサトのクロスが、シンジの手を離れていく
シンジ  :でも、これはちがう
      ちがうと思う
レイ   :他人の存在をいま一度望めば、ふたたび心の壁がすべての人々を引き離すわ
      また、他人の恐怖が始まるのよ
      シンジの目の前をただようミサトのクロス
シンジ  :いいんだ
      レイの右手首をつかんで自分の胸から引きだし、その手と手のひらを合わせるシンジ
シンジ  :ありがとう
      握りかえすレイの手

      レイのひざに頭を乗せて横たわるシンジ
      指にかけたミサトのクロスが、宙をただよっている
シンジ  :あそこでは、イヤなことしかなかった気がする だからきっと、逃げだしてもよかったんだ
      でも、逃げた所にもいいことはなかった だって、ぼくがいないもの
      だれもいないのと、同じだもの
      シンジを見下ろすレイ
      制服姿のカヲルが、ふたりの前に立つ
カヲル  :ふたたびATフィールドが、君や他人を傷つけてもいいのかい?
      制服姿のシンジ
シンジ  :かまわない でも、ぼくの心の中にいる君たちはなに?
      田園に浮かぶ、制服姿の三人
      並んで立っているレイとカヲル
レイ   :希望なのよ 人は互いに解かりあえるかも知れない、ということの
カヲル  :好きだという、ことばとともにね
      ふたりに向かいあって立つシンジ
シンジ  :だけどそれは見せかけなんだ、自分勝手な思いこみなんだ、
      裸で浮かぶ人々
シンジ  :祈りみたいなものなんだ、
      荒れ地
シンジ  :ずっと続くはずないんだ、
      森
シンジ  :いつかは裏切られるんだ、
      無人の街路
シンジ  :ぼくを、見捨てるんだ
      街路に人々が現われ、雑踏となる
シンジ  :でも、ぼくはもう一度会いたいと思った そのときの気持ちは、ほんとうだと思うから
      ポーズをとる仲間たち
      シンジを中心に、トウジ、ヒカリ、ペンペン、アスカ、ケンスケ、ミサト、カジ、リツコ、
      マヤ、マコト、シゲル だれかの頭の後ろに青い髪が見える


      背中から倒れてゆくリリス
      広げた翼がちぎれてゆく
      初号機が、リリスの眼球を突き破って這いだしてくる
      リリスの手のひらの穴が消える
      背中から12枚の光の翼を広げ、咆哮を上げるエヴァンゲリオン初号機
      青い光が地表を覆っていく
      量産機の十字架に見守られながら、黒い月に赤い亀裂が刻まれていく
      その亀裂から流れ出た赤い液体が、リリスの腹部に流れ落ちる
      黒い月が弾け、赤い液粒がふたたび地表に広がっていった
カヲル  :現実は知らないところに 夢は現実の中に
レイ   :そして、真実は心の中にある
      リリスの首と腕が、もげ落ちてゆく
カヲル  :人の心が、自分自身のかたちを作りだしているからね
レイ   :そして、新たなイメージが、その人の心もかたちも変えていくわ イメージが、想像する力が、
      自分たちの未来を、時の流れを、作りだしているもの
      地表に落下するリリスの頭と腕
      赤い海に沈んでゆく、白いリリス
カヲル  :ただ人は、自分自身の意志で動かなければ、なにも変わらない
レイ   :だから、見失った自分は、自分の力で取りもどすのよ たとえ、自分のことばを失っても、
      他人のことばに取りこまれても
      初号機の口から、ロンギヌスの槍が吐きだされる
      二股の槍を両手でつかみ、横に広げる初号機
      槍の両端がまた二股に分かれ、その中央が光を放つ
      量産機に刺さっていた槍がその光を浴び、膨張して破裂する
      初号機から遠ざかっていく、9体のエヴァシリーズ
レイ   :自らの心で自分自身をイメージできれば、だれもが人のかたちに戻れるわ
      コアの灯を消し、身体は石化して、地上へ落下していく、十字架形の量産機
      地表からは、無数の白い十字架が上昇してくる
ユイ   「心配ないわよ。すべての生命には、復元しようとする力がある。生きていこうとする心がある。
      生きていこうとさえ思えば、どこだって天国になるわ。だって、生きているんですもの。
      幸せになるチャンスは、どこにでもあるわ」
      折りたたまれ消えていく初号機の翼
      眼の光も消えていく
      ひび割れて、活動を停止した初号機を見送る、制服姿の綾波レイ
      はりつけの姿でただよう初号機 自転しながらあとに続くロンギヌスの槍
ユイ   :太陽と月と、地球があるかぎり、だいじょうぶ


      下から上へ落ちる水滴


      シンジの頬を撫でる手
      LCLの海の中で向きあう、シンジとユイ
ユイ   :もういいのね?
      離れていく、シンジとユイ
      宇宙を背に、遠ざかるユイ
      地球を背に、遠ざかるシンジ
シンジ  :幸せがどこにあるのか、まだわからない だけど、ここにいて、生まれてきてどうだったのかは、
      これからも考えつづける だけど、それもあたりまえのことになん度も気づくだけなんだ、
      自分が自分でいるために
      水面から顔を出すシンジ
シンジ  :でも、母さんは、……母さんは、どうするの?
      地上に落ちたリリスの頭が中心からふたつに割れ、顔の左半分がずり落ちていく


      陽光を集める水面
      湖畔に立つ冬月と、幼いシンジを抱いたユイ
冬月   「人が、神に似せてエヴァを作る、これが真の目的かね?」
ユイ   「はい。人はこの星でしか生きられません。でも、エヴァは無限に生きていられます。
      その中に宿る、人の心とともに」
      ユイの頬に手のひらを伸ばす幼いシンジ
ユイ   「たとえ50億年たって、この地球も、月も、太陽すらなくしても残りますわ。
      たったひとりでも生きていけたら、とてもさみしいけど、生きていけるなら」
      赤い地球、白い月、輝く太陽、そして、十字架形のエヴァ初号機とロンギヌスの槍
冬月   「人の生きた証は、永遠に残るか……」


シンジ  :さよなら 母さん


NEON GENESIS
EVANGELION
ONE MORE FINAL:
               I need you.


      赤い大地 赤い海
      遠方にそびえる、リリスの顔の右半分
      杭に打ちつけられたミサトのクロス
      はりつけの姿で海に刺さる量産機
      赤い波
      赤い川のかかる月
      白い砂浜に、並んであおむけに横たわるシンジとアスカ
      制服姿のシンジ
      プラグスーツ姿のアスカ
      包帯の巻かれたアスカの右腕
      赤い川のかかる月
      小さな水音
      シンジが頭を左に傾け、音のした方を見る
      赤い海の水面に、制服姿の少女が浮かんで立っている
      シンジの目
      だれもいない水面
      身体を起こし、海を眺めるシンジ
      アスカに目を向ける
      赤い波
      折れた電柱の彼方にそびえる、リリスの手
      赤い川のかかる月
      アスカに馬乗りになり、その首を絞めているシンジ
      左目に眼帯を当て、包帯を巻いているアスカ
      歪むアスカの唇
      アスカの包帯の手が動く
      その手がゆっくりと持ち上がり、シンジの左の頬に触れる
      目を見開いているシンジ
      絞めていた手がゆるみ、小刻みに震える
      アスカの右の頬にシンジの涙が落ちる
      下ろされるアスカの手
      嗚咽するシンジ
      宙を眺めるアスカ
      嗚咽するシンジ
      目だけを下に動かして、ギロリとシンジを見るアスカ
アスカ  「気持ち悪い」


終劇