陽光の反射する水面
      蝉の声、波の音
      零号機の自爆によってできた、第3新東京市跡の湖
      湖面に浮かぶ、折れた電柱、倒壊したビル、右の翼と首をもがれた石像
      ひとり湖畔に立つシンジ
      前髪の影に隠れた目
      顎からしたたりそうな汗
     「産婦人科 性病科」の看板のかかった電柱からトランスが落ちる
      水しぶきと、広がる波紋


     “東棟の第二第三区画は、本日18時より閉鎖されます。引き継ぎ作業はすべて、
      16時30分までに終了してください”
      ドアの並ぶ通路の窓が外光を集める第一脳神経外科病棟
      303病室の入り口に「惣流・アスカ・ラングレー」の手書きの札
      病室の中 心電図の音
      ベッドの傍らに立ってアスカを見おろすシンジの後ろ姿
シンジ  「ミサトさんも、綾波も怖いんだ。
      たすけて、助けてよアスカ」
      電極をつながれ、背を向けて昏々と眠るアスカ
      アスカの寝息 心電図の音
      アスカの右肩に手をかけるシンジ
シンジ  「ねえ、起きてよ、」
      アスカの肩を揺さぶるシンジ
シンジ  「ねえ、
      ……目を覚ましてよ、」
      心電図計のモニター
シンジ  「ね。ねえ、アスカぁ、アスカぁ、アスカぁっ!」
      ベッドがきしむ
シンジ  「く……」
      揺れる点滴容器
シンジ  「……たすけてよ、たすけてよ、……たすけてよ、たすけてよ、
      ……たすけてよ、またいつものように、ぼくをバカにしてよ、」
      アスカの首筋にシンジの涙が落ちる
シンジ  「ねえっ!」
      アスカの肩をぐいと引っぱるシンジ
      乳房に貼りついていた電極がはがれ飛ぶ
シンジ  「はっ!」
      肌掛けがベッドの下に落ちる
      乱れた衣服の間から露わになる、アスカの胸
      心電図の音
      室内灯
      心電図計のモニター
      点滴容器
シンジ  「……ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、」
      ドアノブに「LOCK」の赤い表示
シンジ  「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、うっ」
      開いたシンジの手に、べっとりと塗りつけられた白い液体
      心電図の音
シンジ  「最低だ、俺って」



25

Air


      ネルフ本部内第二発令所
マヤ   「本部施設の出入りが、全面禁止?」
マコト  「第一種警戒体制のままか」
マヤ   「なぜ…… 最後の使徒だったんでしょ? あの少年が」
      コーヒーカップを片手に煎餅をかじる、マヤ、シゲル、マコト
シゲル  「ああ。すべての使徒は、消えたはずだ」
マコト  「今や平和になったってことじゃないのか」
マヤ   「じゃあここは? エヴァはどうなるの? 先輩も今はいないのに」
シゲル  「ネルフは、組織解体されると思う。俺たちがどうなるのかは、見当もつかないな」
      正面ディスプレイが「DELETED」のタイマーを数えている
マコト  「補完計画の発動まで、自分たちで粘るしかないか」

      ハザードランプを点滅させて湖岸道路わきに停車する、ミサトのルノー
      ハンドルを抱きかかえて座るミサト
      ひっきりなしに通り過ぎる乗用車の音 上空にヘリ音
ミサト  「できそこないの群体としてすでに行きづまった人類を、完全な単体としての生物へと
      人工進化させる補完計画、」
      フロントガラスの向こうで、湖畔沿いの道路一面を車の光が流れている
ミサト  「まさに理想の世界ね。そのために、まだ委員会は使うつもりなんだわ、
      アダムやネルフではなく、あのエヴァを」
      ルームミラーに入るミサトの目
ミサト  「カジ君の予想どおりにね」

      闇に浮かぶゼーレの紋章
キール  「約束の時が来た。
      ロンギヌスの槍を失った今、リリスによる補完はできん。
      唯一リリスの分身たる、エヴァ初号機による遂行を願うぞ」
      浮かぶ12体のモノリス
ゲンドウ 「ゼーレのシナリオとはちがいますが」
冬月   「人はエヴァを生み出すためにその存在があったのです」
ゲンドウ 「人は新たな世界へと進むべきなのです。そのためのエヴァシリーズです」
     「我らは人のかたちを捨ててまで、エヴァという名の方舟に乗ることはない」
     「これは通過儀式なのだ、閉塞した人類が再生するための」
     「滅びの宿命は新生の喜びでもある」
     「神も人も、すべての生命が死をもって、やがてひとつになるために」
ゲンドウ 「死はなにも生みませんよ」
キール  「死は君たちにあたえよう」
      消えるモノリス
冬月   「人は、生きていこうとするところにその存在がある。
      それが、自らエヴァに残った、彼女の願いだからな」

      虫の声
      瞼を開く綾波レイ
      ベッドから身体を起こす
      見上げた窓の外に、薄雲のかかった満月
      扉が開き、また閉じる音 部屋をあとにしたレイ
      踏み壊された眼鏡が残される

      ベッドに横たわって薄目を開けている、制服姿のシンジ
      電池の切れたSDATプレーヤーのリモコンをつかみ、耳にイヤフォンをかけている
      救急車のサイレンが通りすぎる

      朝もやのかかる湖
      ネルフ本部内コンピュータルーム
      ディスクを一枚口にくわえてしゃがみこんだミサトが、端末のキーを叩いている
ミサト  「……そう、これがセカンドインパクトの真意だったのね」
      息が白い
      端末の時計が6:00AMを打つと同時に、赤い「DELETED」の文字が端末ディスプレイを覆う
ミサト  「気づかれた!」
      傍らの拳銃を取るミサト
      UCCの空缶が転がる
ミサト  「いえ、ちがうか。
      ……始まるわね」
      周囲のサーバが一斉にダウンする


      けたたましく警報の鳴りひびく第二発令所
     「EMERGENCY」の赤いランプが右ディスプレイに広がっていく
     “第6ネット、音信不通”
     “強羅路直接回線、つながりません”
冬月   「左は青の非常通信に切りかえろ。衛星を開いてもかまわん。そうだ。右の状況は?」
     “外部との全ネット、情報回線が一方的に遮断されています”
      マコトの隣で受話器を置く冬月
冬月   「目的はMAGIか?」
シゲル  「すべての外部端末からデータ侵入、MAGIへのハッキングを目指しています」
冬月   「やはりな。侵入者は松代のMAGI2号か?」
シゲル  「いえ。少なくとも、MAGIタイプ5。ドイツと中国、アメリカからの侵入が確認できます」
冬月   「ゼーレは総力をあげているな。彼我兵力差は1対5。分が悪いぞ」
      正面ディスプレイを赤いドットが覆っていく
     “第四防壁、突破されました”
マコト  「主データベース、閉鎖。だめです、侵攻をカットできません!」
マヤ   「さらに外郭部侵入、予備回路も阻止不能です!」
冬月   「……まずいな。MAGIの占拠は本部のそれと同義だからな」
      目を左に寄せ、後ろのゲンドウを気にする冬月

      監禁室のベッドに腰かけ、顔をふせているリツコ
     “総員第一種警戒体制、くり返す、総員第一種警戒体制、可及的速やかに、所定の配置に
      ついてください”
      自動扉が開く
リツコ  「わかってるわ、MAGIの自律防御でしょ」
     「はい。くわしくは第二発令所の伊吹二尉からどうぞ」
リツコ  「……必要となったら捨てた女でも利用する。エゴイストな、ひとね」
      ゆっくりと立ち上がるリツコ

     “現在、第一種警戒態勢が発令されています。Bフロアの非戦闘員はただちに退避してください”
      ヘアバンドから髪を抜きながら、通路を大股で歩くミサト
ミサト  「状況は?」
マコト  “おはようございます。先ほど第二東京からA801が出ました”
ミサト  「801?」
マコト  “特務機関ネルフの、特例による法的保護の破棄、および指揮権の日本国政府への委譲”
      ミサトの胸のクロスをリフトのシャッターが遮り、赤く「LOCK」が点灯する
      第二発令所のマコトとマヤ
マコト  「最期通告ですよ。ええ、そうです。現在MAGIがハッキングを受けています。
      かなり押されています」
      受話器をマヤに向ける
マヤ   「伊吹です。今、赤木博士がプロテクトの作業に入りました」
      ブザーとともに、後ろにリフトが上ってくる
マコト  「あっ」
マヤ   「あっ」
      携帯電話を耳にあてたミサトが、リフトに乗っている
ミサト  「リツコが?」

      第二発令所MAGIシステム、CASPER内部
      メモ紙の貼りめぐらされた通路の奥へ伸びる端末ケーブル
      その先にしゃがみこんで、端末に指を走らせているリツコ
リツコ  「……私、バカなことしてる。ロジックじゃないものね、男と女は」
      ふと指を止め、眼鏡をはずして見上げるリツコ
リツコ  「そうでしょ」
      カスパーのCPUカバーを右手で撫でるリツコ
リツコ  「母さん」

     “強羅地上回線、復旧率0.2%に上昇”
ミサト  「あとどれくらい?」
      マグカップのコーヒーをすするミサト
マコト  「間にあいそうです。さすが赤木博士です。120ページ後半まであと1分、一次防壁の展開まで、
      2分半ほどで終了しそうです」
ミサト  「……MAGIへの侵入だけ? そんな生やさしい連中じゃないわ、たぶん」
      司令官席の冬月とゲンドウ
冬月   「MAGIは前哨戦にすぎん。奴らの目的は、本部施設、および残るエヴァ2体の直接占拠だな」
ゲンドウ 「ああ。リリス、そしてアダムさえ我らにある」
冬月   「老人たちが焦るわけだ」
      CASPERの最後の1片を残して赤く染まった、MAGIのディスプレイ
      しかし一瞬にしてオールグリーンに戻る
      表示が「侵入検知」から「防壁展開」に変わる
マヤ   「MAGIへのハッキングが停止しました。Bダナン型防壁を展開、以後62時間は、
      外部侵攻不能です」
MAGI 『フリーズ、フリーズ、フリーズ、……』
      CASPER奥から這い出してくるリツコ
リツコ  「母さん、またあとでね」


      円形に並ぶ12体のモノリス
     「碇はMAGIに対し第666プロテクトをかけた。この突破は容易ではない」
     「MAGIの接収は中止せざるをえないな」
キール  「できうるだけ穏便に進めたかったのだが、致しかたあるまい。
      本部施設の直接占拠を行う」

      第3新東京市跡の湖畔、道路脇の林の中
      蝉の声 林の草むらを裂く足音
      通信機のレシーバーを置く、戦略自衛隊指揮官
     「始めよう。予定どおりだ」
      草むらから続々と姿をあらわす戦自歩兵部隊
      上空に飛来するVTOL爆撃機群
      車道を走る戦車隊
      警笛に誘導される輸送車両
      戦車隊とミサイルの一斉砲撃が始まり、ネルフのレーダーが破壊される

      第二発令所に鳴りびひく警報
      レーダーからの映像が次々にとだえる
     “第8から17までのレーダーサイト、沈黙!”
シゲル  “特科大隊、強羅防衛線より侵攻してきます”
マコト  “御殿場方面からも、二個大隊が接近中”
     “三島方面からも接近中の航空部隊3を確認”
冬月   「やはり最後の敵は、同じ人間だったな」
ゲンドウ 「総員、第一種戦闘配置」
マヤ   「戦闘配置?」
      マヤがふり向く
マヤ   「……相手は使徒じゃないのに、同じ人間なのに」
マコト  「むこうはそう思っちゃくれないさ」
      防衛ビルからミサイルが発射される
      それを破壊する戦自爆撃機

      通行止めの表示を掲げた、ネルフ本部ゲート
      遠くに響く爆発音
      衛兵がひとり、不安げに周囲を窺いながら警備に立っている
      戦自隊員に後ろから口をふさがれ、背中にナイフを刺しこまれる
     「ウッ!」
      足の下に垂れる鮮血
      警報が鳴りひびき、すべてのゲートが開いていく
      ゲートの裏には戦自の歩兵部隊がびっしり構えていた

     「W-5」ブロックのゲートにも、警報が鳴りひびいている
      装甲車の横で無線機に呼びかける衛兵
     「おいどうした? おい!」
     「なんだ?」
     「南のハブステーションです」
      装甲車のフロントガラスに貫通孔が開く
     「う!」
     「あっ!」
      二射めの貫通孔とともに爆発する装甲車

      血だまりの広がる死体のわきを、戦自歩兵部隊が駆けぬける

     “台ヶ岳トンネル、使用不能”
     “西5番搬入路にて火災発生”
     “侵入部隊は第一層に突入しました”
ミサト  「西館の部隊は陽動よ。本命がエヴァの占拠ならパイロットを狙うわ。至急シンジ君を
      初号機に待機させて」
マコト  「はい!」
ミサト  「アスカは?」
シゲル  「303号病室です」
      シーツをかけられてベッドに眠るアスカ
ミサト  「かまわないから弐号機に乗せて」
マヤ   「しかし、いまだエヴァとのシンクロは回復していませんが」
ミサト  「そこだと確実に消されるわ。かくまうにはエヴァの中が最適なのよ」
マヤ   「了解!」
      受話器を取るマヤ
マヤ   「パイロットの投薬を中断、発進準備」
ミサト  「アスカ収容後、エヴァ弐号機は地底湖に隠して。すぐに見つかるけどケイジよりマシだわ。
      レイは?」
シゲル  「所在不明です。位置を確認できません」
      モニターに「1st.C. LOST」の表示
ミサト  「殺されるわよ。捕捉急いで!」


      ネルフ本部地下、セントラルドグマ
      裸でLCLに浸かるレイ
      プールのわきに、たたまれた制服と靴


      ケイジから弐号機が射出される
マコト  「弐号機射出。8番ルートから、水深70に固定されます」
ミサト  「続いて初号機発進。ジオフロント内に配置して」
シゲル  「だめです! パイロットがまだ!」
ミサト  「え?」
      地下46階の階段下にうずくまっているシンジの姿の、濁った映像が映しだされる
ミサト  「なんてこと!」

     “セントラルドグマ、第二層までの全隔壁を閉鎖します。非戦闘員は第87経路にて
      退避してください”
      次々と閉じられる隔壁の一部が爆破される
      吹きぬけの通路に立ち昇る爆煙と銃声
シゲル  「地下第三隔壁破壊、第二層に侵入されました」
      司令官席のゲンドウと冬月
冬月   「戦自約一個師団を投入か。占拠は時間の問題だな」
      立ち上がるゲンドウ
ゲンドウ 「冬月先生、あとを頼みます」
冬月   「わかっている。ユイ君によろしくな」

      通路の奥から爆炎が迫る
      発砲しながら前進する歩兵部隊
      駐車場の出入り口をバズーカで破壊する戦自隊員
      メインシャフトを降下するホバークラフト
      側面の通路をサーチライトで覗き、機銃を打ちこむ その手前の階段を駆け降りる歩兵部隊
      爆破されるメインシャフト内部
      炎の中を駆ける戦自歩兵部隊

     “第二グループ、応答なし”
     “77電算室、連絡不能”
シゲル  「52番のリニアレール、爆破されました」
     “第3ハブステーションの爆発を確認。死者多数、損害不明”
マコト  「タチ悪いなあ! 使徒の方がよっぽどいいよ!」
ミサト  「……無理もないわ。みんな人を殺すことに慣れてないものね」
      泣きながら同僚職員の死体を引きずる女子職員
      先の通路を駆ける歩兵のひとりが立ち止まり、即座にそれを射殺する
      ゲートを爆破する歩兵部隊
      逃げるネルフ職員の背中に銃弾を浴びせる戦自隊員
      パネルを叩き壊し、中のケーブルに銃を撃ちこむ戦自隊員
     「赤のケーブルから優先して、切断」
      部屋の中に火炎放射器を放射する戦自隊員 中からネルフ職員の悲鳴が 再度放射、また悲鳴
      転がる死体の脇を駆けぬける歩兵部隊
     “第三層Bブロックに侵入者! 防御できません!”
シゲル  「Fブロックからもです! メインバイパスを狭撃されました!」
      ミサトの手元のディスプレイに「CAPTURED」の表示が広がる
ミサト  「第三層まで破棄します。戦闘員はさがって。803区間までの全通路とパイプに
      ベークライトを注入」
シゲル  「はい!」
      ブザーが鳴り、アナウンスの流れる通路に、ベークライトが注入される
     “第703管区、ベークライト注入開始。完了まであとサンマル”
      赤いベークライトが死体を飲みこんでいく
     “第737管区、ベークライト注入開始。完了まであとフタマル”
ミサト  「これですこしは持つでしょ」
マコト  「葛城三佐! ルート47が寸断され、グループ3が足止めを食っています。
      このままではシンジ君が!」

      階段の下にしゃがみこんだままのシンジ

ミサト  「非戦闘員の白兵戦闘は極力避けて」
      拳銃の装填を確認するミサト
     “第801管区、ベークライト、注入完了”
ミサト  「むこうはプロよ。ドグマまで後退不可能なら、投降した方がいいわ」
      マコトの耳元に頭を寄せるミサト
ミサト  「ごめん。あと、よろしく」
マコト  「はい」

      上空から攻撃を続けているVTOL爆撃機
     「双子山はもういい。長尾峠方面の封鎖を急げ」
     “了解”
      高台から双眼鏡で戦況を見ている戦自指揮官
     「意外と手間どるか」
     「我々にラクな仕事はありませんよ」

      引出から拳銃を取り出し、装填を見るマコト
マコト  「分が悪いよ。本格的な対人要撃システムは用意されてないからなあ、ここ」
      コンソールの下で自動小銃を準備するシゲル
シゲル  「ま、せいぜいテロどまりだ」
マコト  「戦自が本気を出したら、ここの施設なんてひとたまりもないさ」
シゲル  「いま考えれば、侵入者要撃の予算縮小って、これを見越してのことだったのかな」
マコト  「……ありうる話だ」
      激震と爆発音
マコト  「だっ!」
      発令所の下部左側が破壊される 吹き飛ぶネルフ職員
      戦自隊が侵入し、銃を乱射する
      頭を伏せるマコト
マコト  「うふぅ!」
MAGI 『第二、発令所、左翼、下部フロアに、侵入者』
      コンソールの下に座りこみ、耳を塞いで震えているマヤに、拳銃を手わたすシゲル
シゲル  「ロックはずして!」
マヤ   「私、私、鉄砲なんて撃てません」
シゲル  「訓練で、なん度もやってるだろ!」
マヤ   「でも! その時は人なんていなかったんですよ!」
      その頭の上をかすめて銃弾が命中する
マヤ   「ひっ!」
シゲル  「バカっ! 撃たなきゃ死ぬぞ!」


NEON GENESIS
EVANGELION
EPISODE:25’
          Love is destructive.


      セントラルドグマ、クローンのプラント
      タンク内のバラバラになった手足を見つめる、素裸のレイ
ゲンドウ 「レイ」
      ゆっくりとふり返るレイ
ゲンドウ 「やはりここにいたか」
      靴音をたてて歩みよるゲンドウ
ゲンドウ 「約束の時だ。さあ、行こう」


      銃弾に穿たれた通路の壁面
      ネルフ職員の死体の群れ
     「第二層は完全に制圧。送れ」
     “第二発令所、MAGIオリジナルはいまだ確保できず。左翼下層フロアにて交戦中”
     “フィフスマルボルジェはただちに熱滅却処置に入れ”
      ひざまずいて両手を挙げるネルフ職員を射殺、壁に血が飛びちる
      倒れた死体を踏みつけ、さらに数発を打ちこむ戦自隊員 死体が跳ねる

     “エヴァパイロットは発見しだい射殺。非戦闘員への無条件発砲も許可する”
     “ヤナギハラ隊、シンジョウ隊、すみやかに下層へ突入”
      階段の下にうずくまっているシンジ
      銃声 すぐそばの階段で跳弾が弾ける
      びくんと頭を伏せるシンジ
      三人の戦自隊員がシンジを取りかこむ
     「サード発見。これより排除する」
      シンジの頭に銃口をあてる
      頭を伏せたままのシンジ
     「悪く思うな、ぼうず」
      その瞬間、銃声とともに戦自隊員が頭を打ち抜かれる
     「うおっ!」
      銃を乱射しながら通路を駆けるミサト
      銃弾に倒れるべつの戦自隊員
      残るひとりに蹴りを食らわせ壁に押しつけるミサト
      銃口が隊員の顎に据えられる
ミサト  「悪く思わないでね」
      銃声 頭を抱えるシンジ
      壁に血痕を塗りつけてくずれ折れる、三人めの戦自隊員
      肩で息をするミサト
ミサト  「さあ、行くわよ、初号機へ」

      地下駐車場
      戦自隊員から接収した無線機で、戦自の交信を傍受するミサト
     “紫の方は確保しました。ベークライトの注入も問題ありません”
     “赤いヤツは射出されたもよう。現在ルートを調査中”
ミサト  「まずいわねえ。奴ら、初号機とシンジ君の物理的接触を断とうとしてるわ。
      こいつはうかうかできないわね」
     “ファーストはいまだ発見できず。捜索を続行します”
      シンジに向きなおるミサト
ミサト  「急ぐわよ。シンジ君?」
      うずくまったままのシンジ
ミサト  「ここから逃げるのか、エヴァの所に行くのかどっちかにしなさい」
      反応しないシンジ
ミサト  「このままだとなにもせずただ死ぬだけよ!」
シンジ  「たすけてアスカ、たすけてよ」
ミサト  「こんな時だけ女の子にすがって、逃げて、ごまかして! 中途半端がいちばん悪いわよ!」
      シンジに歩みよって手を取り、強引に引っぱるミサト
ミサト  「さあ、立って!」
      ミサトのクロスが揺れる
ミサト  「立ちなさい!」
シンジ  「いやだ。死にたい。なにもしたくない」
ミサト  「なに甘ったれたこと言ってんのよ! あんたまだ生きてるんでしょう!
      だったらしっかり生きて、それから死になさい!」

      銃撃戦が続く第二発令所
      受話器に向かって叫ぶ冬月
冬月   「かまわん! ここよりもターミナルドグマの分断を優先させろ!」
      ブリッジ上の管制パネルから片腕を突き出して応戦するマコトとシゲル
      コンソールの下に潜りこんでクッションを抱いているマヤ
マコト  「あちこち爆破されているのに、やっぱりここには手を出さないか」
シゲル  「一気にカタをつけたいところだろうが、下にはMAGIのオリジナルがあるからな」
マコト  「できるだけ無傷で手に入れておきたいんだろ」
シゲル  「ただ、対BC兵器装備は少ない。使用されたらヤバいよ」
マコト  「N2兵器もな」
      そのとき上空には、N2爆弾が輝きながら飛来していた
      大爆発
      ジオフロント直上の地盤が吹き飛ばされる
      熱線と爆風を受けて震えるネルフ本部のピラミッド
      大きく振動する第二発令所
シゲル  「チッ! 言わんこっちゃない!」
マコト  「奴ら加減ってものを知らないのか!」
冬月   「ふ、無茶をしよる」
      天井部が円形に消滅、むき出しになるジオフロント
      そこへ打ちこまれる大量のミサイル群
      頭を抱えるマヤ
マヤ   「ねえっ! どうしてそんなにエヴァがほしいの!」

ミサト  「サードインパクトを起こすつもりなのよ。使徒ではなくエヴァシリーズを使ってね」
      拘束具をつけた頭部から白い脊髄を垂らした、エヴァ試作機の残骸の群れ
      鉄橋通路をミサトのルノーが走る
ミサト  「15年前のセカンドインパクトは、人間に仕組まれたものだったわ。けどそれは、
      ほかの使徒が覚醒する前に、アダムを卵にまで還元することによって、被害を最小限に
      食いとめるためだったのよ。
      シンジ君、あたしたち人間もね、アダムと同じ、リリスと呼ばれる生命体の源から生まれた、
      18番めの使徒なのよ。ほかの使徒たちはべつの可能性だったの、人のかたちを捨てた人類の。
      ただお互いを拒絶するしかなかった、悲しい存在だったけどね。同じ人間どうしも……
      いいシンジ君? エヴァシリーズをすべて消滅させるのよ。生き残る手段は、それしかないわ」

      受話器からのツーという音
      松代第二新東京市、首相官邸内第三執務室
      ゆっくりと振れる、柱時計の巨大な振り子
     「電話が通じなくなったな」
     「はい。3分前に弾道弾の爆発を確認しております」
     「ネルフが裏で進行させていた人類補完計画、人間すべてを消し去るサードインパクトの誘発が
      目的だったとは、とんでもない話だ」
     「自らを憎むことのできる生物は、人間くらいのものでしょう」
     「さて、残りは、ネルフ本部施設のあと始末だが」
     「ドイツか中国に再開発を委託されますか?」
     「買いたたかれるのがオチだ。20年は封地だな、旧東京と同じくね」

      放射熱で大気が揺れているジオフロント
     “上層部の熱は引きました。高圧蒸気も問題ありません”
     “全部隊の初期配置完了”
      高台の戦自仮発令所
     「現在、ドグマ第三層と紫のヤツは制圧下にあります」
     「赤いヤツは?」
     「地底湖、水深ナナマルにて発見。専属パイロットの生死は不明です」


      遠い爆発音で目を覚ます、エントリープラグのアスカ
アスカ  「……は、
      ……生きてる」
      湖岸から爆雷が射出される
      地底湖の底に膝を丸めて横たわるエヴァ弐号機
      そこへ沈降する爆雷 弐号機の周囲で爆発する
アスカ  「あぐっ! うぅ!」
      爆雷のひとつが弐号機の頭部で爆発する
アスカ  「ああーっ! うぅ!」
      頭を抱えてうめくアスカ
      周囲の爆発が続く
アスカ  「……
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、
      死ぬのはイヤ、」
      ウジのわく死骸と化したアスカ
      目を見開くアスカ
      泣き叫ぶ幼いアスカ
      頭を抱えて苦しむアスカ
      腹から血を噴く猿のヌイグルミ
アスカ  「死ぬのは、イヤーっ!」
:まだ、生きていなさい

:まだ、死んではだめよ

:まだ、生きていなさい
:まだ、死なせないわ
:まだ、死んではだめよ
:まだ、殺さないわ
:まだ、生きていなさい
:まだ、殺さないわ
:まだ、死なせないわ
:まだ、死んではだめよ
:まだ、殺さないわ
:いっしょに、死んでちょうだい
:まだ、死んではだめよ
:まだ、死なせないわ
:イッショニ、シンデチョウダイ!
:まだ、殺さないわ
:いっしょに、死んでちょうだい
:まだ、
生きていなさい







      波打ちぎわ
      両手を広げてアスカを迎える母
      ヌイグルミを抱いて森の中に立つ、涙目の幼いアスカ
幼いアスカ「ママ、ここにいたのね」
      両手を広げてアスカを迎える母
      手を伸ばす幼いアスカ
      母の手をとった幼いアスカの手が、14歳のアスカのプラグスーツの腕に変わる
      アスカの笑顔
アスカ  「ママあ!」
      四つの眼が光る


      地下湖の水面に浮かぶフリゲート艦を突き抜けて、赤い光が立ち昇る
      上空でグランドクロスが刻まれる
      湖畔の戦自隊の上に、雨のように降りそそぐ湖水
     「こ、これは?」
     「やったか?」
      フリゲート艦を担ぎあげ、唸り声を上げながら、赤いエヴァンゲリオン弐号機が姿を現わす
      艦の重みで艦首と艦尾に亀裂が走る
      湖岸の戦自車両群からミサイルが発射される
      フリゲート艦を傾けてミサイルを受け止める弐号機
アスカ  「どあーりゃーっ!」
      咆哮を上げて、艦を湖岸に投げつける弐号機
      湖岸の戦自車両を押しつぶし、折り畳みになって爆発するフリゲート艦
アスカ  「ママ! ママ! わかったわ!」
      エントリープラグに警報 上空からの集中攻撃が弐号機を襲う
      水面からジャンプする弐号機
アスカ  「ATフィールドの、意味!」
      アンビリカルケーブルをひるがえし、直立で舞いながらミサイルをかわす弐号機
アスカ  「ワタシを守ってくれてる!」
      上空の重爆撃機より大型ミサイルが発射
アスカ  「ワタシを見てくれてる!」
      高架橋を踏みつぶして地上に降り立った弐号機 周囲でアンビリカルケーブルが跳ねる
      一直線にジオフロントの弐号機に迫るミサイル
      弐号機の顔面を巨大なミサイルが直撃
      バランスを崩しながら2発めのミサイルを右拳で受け止める弐号機
      大爆発 爆煙を切り裂いて現れる弐号機の頭部
アスカ  「ずっと、ずっと、いっしょだったのね! ママ!」
      炎の中で、四つの眼を光らせ低く唸るエヴァ弐号機

      戦自隊員の死体を踏みつぶして走る、ミサトのルノー
マヤ   “エヴァ弐号機起動! アスカは無事です! 生きてます!”
ミサト  「アスカが!」
      ぴくりと反応するシンジ

      爆撃を加える爆撃機
      砲撃を加える戦車隊
      戦自の機動部隊に向かって前進する弐号機
      高台からジオフロントの弐号機を追う戦自指揮官
     「ケーブルだ! ヤツの電源ケーブル! そこに集中すればいい!」
      戦自の砲撃で切断されるアンビリカルケーブル
      弐号機エントリープラグ内のタイマーがカウントダウンに入る
アスカ  「ちっ!」
      ケーブルのコンセントをオートイジェクトする弐号機
アスカ  「アンビリカルケーブルがなくったって!」
      爆撃を加える爆撃機
アスカ  「こちとらには1万2千枚の特殊装甲と!」
      砲撃を身体で受けながら前進する弐号機
アスカ  「ATフィールドがあるんだからあ!」
      唸りを上げ、ATフィールドで爆撃機をなぎ払う弐号機
アスカ  「負けてらんないのよーっ!」
      一機の鼻面を平手で叩き落とす
アスカ  「あんたたちにーっ!」
      後ろを向いた爆撃機の尾翼をつかみ、左手の一機に叩きつける
      背中に機銃を浴びせる爆撃機の方を睨めつけると、それをかかとで蹴り下ろし、握っていた尾翼の
      残骸を後方の一機に投げつけ、さらに背後から迫る機に後ろまわし蹴りを食らわせる
      炎の中で唸る弐号機


キール  「忌むべき存在のエヴァ、」
      浮かぶ12体のモノリス
キール  「またも我らの妨げとなるか。
      やはり毒は、同じ毒をもって制すべきだな」

      ジオフロント上空
      1から9のナンバーをふられた、黒い輸送機の編隊
      白い量産型エヴァンゲリオンが、その不気味な頭部を露わにする
     「KAWORU.01」と書かれた赤いダミープラグが挿入され、輸送機から切り離される
      太陽を背にして翼を広げる九つの影
      ジオフロントを目ざして滑空する、白い翼の量産機群

アスカ  「エヴァシリーズ、完成していたの?」
      弐号機の上空を、輪を描いて下降する量産機の一群
冬月   「S2機関搭載型を9体全機投入とは、大げさすぎるな。
      ……まさか、ここで起こすつもりか?」
      戦自車両を踏みつぶしてジオフロントに着地、背中の翼を折りたたむエヴァシリーズ
      口を歪めて息を吐く量産機

      弾痕を刻まれたまま壁に激突、大破しているミサトのルノー
      車外で通信機を操作するミサト
ミサト  「いいアスカ? エヴァシリーズはかならず殱滅するのよ。
      シンジ君もすぐに上げるわ。がんばって」
      交信先を第二発令所に切り替える
ミサト  「で、初号機には非常用のルート20で行けるのね」
マコト  “はい。電源は三重に確保してあります。3分以内に乗りこめば、第7ケイジへ直行できます”
      車の陰で膝を抱えているシンジの許に歩みよるミサト
      シンジを見おろし、眉をひそめる
      無言でシンジの腕をつかむと、そのまま引きずっていく

      弐号機をとり囲む、9体のエヴァシリーズ
アスカ  「かならず殱滅、ね」
      エントリープラグから周囲を見まわすアスカ
アスカ  「ミサトも病みあがりにカルく言ってくれちゃって」
      カウントダウンのタイマーが3分34秒を経過する
アスカ  「残り3分半で九つ。1匹につき、20秒しかないじゃない」
      不敵に笑うアスカ
      レバーを前に倒し、突進する
アスカ  「うおーりゃーっ!」
      1体めに飛びかかり、両手でその上顎を握りつぶす弐号機
      量産機を飛び越えて着地した弐号機に、頭から血を噴きながら倒れかかる量産機
      それを背中で担いで立ち上がり、両腕で頭上に抱え上げてその胴体をへし折る弐号機
      赤い体液を頭から浴びる弐号機 エントリープラグのディスプレイを赤い液体が流れ落ちる
アスカ  「エーステ!(Erste)」


      鉄橋通路の先、「非常用直通昇降機第6番入口」の前に歩みよるミサトとシンジ
ミサト  「ここね」
      突如、跳弾が手すりを叩く
      シンジを銃弾の陰に引き入れ、シャッターの先へ逃げこむミサト
ミサト  「ううっ!」
      ふたりが飛びこむと同時にシャッターが閉まる
      間一髪でロケット弾がドアの手前で爆発
      拳銃とバズーカを構えている、三名の戦自隊員
     「逃がしたか」
     「目標は射殺できず。追跡の是非を問う」
     “追跡不要。そこは爆破予定地だ。至急戻れ”
     「了解」

      座って壁にもたれかかるミサトを不思議そうに見つめるシンジ
ミサト  「これで、時間、かせげるわね」
      ミサトの息があがっている
ミサト  「ふ、だいじょうぶ。たいしたこと、ないわ」
      壁で背中を支えながら立ち上がるミサト
      スイッチを押すと「R-20」のシャッターが開き、エレベーターの金網扉が現われる
      MAIN、SUBのランプが点灯、RESERVEのランプが点滅
ミサト  「電源は生きてる。いけるわね」
      ミサトの手が金網をつかむ
ミサト  「は……」
      シンジを金網に押しつけるミサト
      ミサトの手の甲が血に濡れている その血を気にして頭を伏せるシンジ
ミサト  「いい? シンジ君。
      ここから先はもうあなたひとりよ。すべてひとりで決めなさい。だれの助けもなく」
シンジ  「……ぼくは、だめだ。だめなんですよ。人を傷つけてまで、殺してまでエヴァに乗るなんて、
      そんな資格ないんだ。
      ぼくは、エヴァに乗るしかないと思ってた、でもそんなのごまかしだ。
      なんにもわかってないぼくには、エヴァに乗る価値もない。ぼくには
      人のためにできることなんて、なんにもないんだ!
      ……アスカにひどいことしたんだ、カヲルくんも殺してしまったんだ、
      優しさなんかカケラもない、ずるくて臆病なだけだ。ぼくには人を傷つけることしか
      できないんだ! だったらなにもしない方がいい!」
ミサト  「同情なんかしないわよ。自分が傷つくのがイヤだったら、なにもせずに死になさい」
シンジ  「く……」
ミサト  「いま泣いたってどうにもならないわ!」
      泣きじゃくるシンジ
ミサト  「……自分が嫌いなのね。だから人も傷つける。自分が傷つくより、人を傷つけた方が
      心が痛いこと知っているから。でも、どんな思いが待っていても、それはあなたが自分ひとりで
      決めたことだわ。価値のあることなのよシンジ君。あなた自身のことなのよ。ごまかさずに、
      自分にできることを考え、つぐないは自分でやりなさい」
シンジ  「ミサトさんだって、他人のくせに! なんにもわかってないくせに!」
      金網をつかむ手に力が入るシンジ 目を剥くミサト
      シンジを金網に押しつけ、胸ぐらをつかむ
ミサト  「他人だからどうだってエのよ!」
      ミサトのクロス
ミサト  「あんたこのままやめるつもり? 今、ここでなにもしなかったら、」
      シンジの頬を両手のひらで抱くミサト
ミサト  「あたし、許さないからね、一生あんたを許さないからね!
      今の自分が絶対じゃないわ。あとでまちがいに気づき、後悔する、あたしはそのくり返しだった。
      ぬか喜びと自己嫌悪を重ねるだけ、でも、そのたびに前に進めた気がする。
      いいシンジ君? もう一度エヴァに乗ってケリをつけなさい、エヴァに乗っていた自分に。
      なんのためにここに来たのか、なんのためにここにいるのか、今の自分の答えを見つけなさい。
      そして、ケリをつけたら、かならず戻ってくるのよ」
      首に両手をまわしてクロスをはずし、シンジに手わたすミサト
ミサト  「約束よ」
シンジ  「……ん」
      小さくうなずくシンジ
ミサト  「いってらっしゃい」
      シンジに深く口づけるミサト
ミサト  「……大人のキスよ。帰ってきたらつづきをしましょう」
      スイッチを押して金網を開け、中へシンジを突き飛ばすミサト
シンジ  「はっ!」
      ミサトの微笑みをさえぎってシャッターが閉まる
      降下を始めるエレベーター
      残ったミサトは、シャッターに血痕を残して倒れ、床にうつぶせていた
ミサト  「……こんなことなら、アスカの言うとおり、カーペット、かえときゃよかった、ね、ペンペン」
      髪のまわりに広がる血だまり
ミサト  「……カジくん、あたし、これでよかったわよね」
      爆破が床を吹きとばす
      制服姿の綾波レイが、傍らからミサトを見下ろしていた

      階を数える機械式カウンター
      しきりに顔をぬぐいながら泣きつづけるシンジ
シンジ  「……は」
      その指に残った鮮血に気がつき、膝を折って嗚咽するシンジ


アスカ  「だあーっ!」
      量産機の首をつかんで湖面に叩きつける弐号機
アスカ  「うあーっ!」
      湖底に押しつけられる量産機
      弐号機の肩にプログレッシブナイフがラウンチされる
      量産機の頭部にナイフを突き立てる弐号機
      ナイフの刃が折れ、量産機の腕が動きを止める
      湖水をかき分けて岸に上がる弐号機
      ナイフの刃を新たに装填する
アスカ  「はあーっ!」
      次の量産機の、大ナタを構えた左腕を切り落とす
      ナタが跳ね飛び、腕が転がる
      ビルの残骸に量産機を叩きつける弐号機
      構えたナイフの刃が粉々になる
アスカ  「ちっ! ひゃあ!」
      弐号機の顔を量産機がわしづかみにする
      足で表土をえぐらせながら押し返す弐号機
      量産機の背後にまわり込み、両腕でその首をへし折る弐号機
アスカ  「ぐっ! は?」
      上空から次の量産機が大ナタをかざして踊りかかる
      横に転がってそれを避け、量産機の残した大ナタを取る弐号機
アスカ  「ううーっ! はあっ!」
      髪を振り乱してレバーを引くアスカ
      大ナタを振りあげて量産機に立ち向かう弐号機
      ナタどうしが炸裂 両機の踏んばった足が土にめり込む
      再度ナタを構える弐号機
アスカ  「でえーっ!」
      赤いベークライトに覆われた第7ケイジ
      鉄橋通路に立ったシンジの眺める先に、ベークライトで固められたままのエヴァ初号機が
      無線機から聴こえる炸裂音とアスカの声
アスカ  “もう、しつこいわねえ! バカシンジなんかあてにできないのにいーっ!”
      互いに大ナタを叩きつける量産機と弐号機
アスカ  「うーっ! うおーっ!」
      再びナタが炸裂
      量産機のナタが地面に突きささる間に、その肩口へナタを振り下ろす弐号機
      肩が大きく裂け、血を噴いて倒れる量産機


      ゲンドウとレイの前にそびえ立つ、はりつけのリリス
      LCLの水面に波紋が広がる
      そのたもとに座っている、白衣姿の赤木リツコ
リツコ  「お待ちしておりましたわ」
      立ち上がるリツコ 両手を白衣のポケットに入れる
      ふり向いたその右手が拳銃を抜き、銃口をゲンドウに向ける

      量産機の上半身が体液を噴き、きりもみしながら飛んでいく
      その下半身も、立ったままで体液を噴きあげている
アスカ  「うあーっ!」
      返すナタが木々の葉を裂き、べつの量産機の足を切断する
      右から飛びかかった次の量産機が、弐号機を押さえこむ
アスカ  「ううーっ! うっ!」
      前方を睨めるアスカ
      つかみかかる量産機の頭部を右肩上部に引きよせ、肩からニードルを斉射する弐号機
      量産機の顎に突きささるニードル
      薬莢を捨てる弐号機
アスカ  「ふっ!」
      目を剥いて身を乗りだすアスカ
      頭部のニードルが弾け、背中から倒れる量産機

      穏やかな表情で拳銃を構えるリツコ
リツコ  「ごめんなさい。あなたにだまって先ほど、MAGIのプログラムを変えさせてもらいました」
      ゲンドウと、その背中に隠れるようにして立つ綾波レイ
      宙に向かってつぶやくリツコ
リツコ  「娘からの最後の頼みよ。母さん、いっしょに死んでちょうだい」
      ポケットの中のスイッチを押し、瞼を閉じるリツコ
リツコ  「……は、作動しない? なぜ!」
      ポケットからリモコンを取り出す
      CASPERが「否定」を表示している
リツコ  「はっ、カスパーが裏切った! 母さんは、娘よりも自分の男を選ぶのね……」
      ゲンドウが拳銃を取り出し、リツコに向けて構える
ゲンドウ 「赤木リツコ君、ほんとうに、」
      ゲンドウの口が動く ことばは聞こえない
      唇を歪めて微笑むリツコ
リツコ  「……うそつき」
      銃声
      のけぞって飛ぶリツコ
      その頭の上で、制服姿の綾波レイが見送っている
      驚愕の表情を見せたまま、LCLの海に落ちるリツコ


      第二発令所 砕けたマグカップ
      端末で弐号機をモニターするマヤ
マコト  「外はどうなってる!」
マヤ   「活動限界まで1分を切ってます! このままじゃアスカは!」

      0分46秒を数える、エントリープラグ内のタイマー
アスカ  「うわーっ!」
      量産機を叩きつけてビルを砕く弐号機 ビルの奥から血が噴き出る
アスカ  「負けてらんないのよお!」
      第7ケイジの鉄橋通路に膝を抱えて座りこんでいるシンジ
      無線機から聴こえるアスカの声
アスカ  “ママが見てるのにい!”
シンジ  「……ママ? 母さん?」
      ベークライトに覆われたエヴァ初号機

      ビルから引っぱり出した量産機を、べつの1体に投げつける
      突進する弐号機
アスカ  「これでラストーっ!」
      左手で量産機の顔をつかみ、右拳でその腹部をぶち抜く弐号機
      貫通させた拳で後ろの2体めのコアをわし掴みにする
      血を噴くコア
アスカ  「ぬうううううううう!」
      タイマーのカウントダウンが15秒を切る
      舌を突き出してうめく量産機
      カウントダウンが10秒を切る
アスカ  「うああああああああ! ふっ?」
      ふり向くアスカ
      量産機の大ナタが一本、背後から弐号機めがけてまっすぐに飛来する
      手を引き抜いてふり返り、ATフィールドで封じる弐号機
      大ナタは空中で静止
      が、次の瞬間、そのナタが二股の槍へと変わった
アスカ  「ロンギヌスの槍?」
      ATフィールドがゆがみ、突き破られる
アスカ  「ひいっ!」
      槍は弐号機の左頭部をつらぬいた
アスカ  「ああああああああああ〜っ!」
      タイマーが0に
      背中から倒れ、地面に槍の先を突き立てて両腕を垂らす弐号機
      ついに動きの止まったエヴァンゲリオン弐号機
      半狂乱でレバーを引きつづけるアスカ
アスカ  「ひ〜っ! ひい〜っ! ひい〜っ! ひ〜っ! ひ〜っ! ひい〜っ!」

マヤ   「……内蔵電源、終了。活動限界です。エヴァ弐号機、沈黙」
      高まる電子音
マヤ   「……なにこれ?
      倒したはずのエヴァシリーズが」

      首をもたげるエヴァシリーズ
      傷口をさらしたまま立ち上がり、口を歪めて鳴く量産機たち
マヤ   「……エヴァシリーズ、活動再開」
      次々に翼を広げる量産機
シゲル  「とどめをさすつもりか!」
      ひと声鳴いて舞い上がるエヴァシリーズ
      一斉に弐号機へ飛びかかり、その胴体をついばみ喰いちぎる9体の量産機
マヤ   「うっ!」
マコト  「どうした!」
マヤ   「もう見れません! 見たくありません!」
      マヤの端末を覗きこむ日向
マコト  「こ、これが、弐号機?」
      端末画面の弐号機のモニター表示が次々に遮断されていく

      弐号機の臓器をくわえて舞いあがるエヴァシリーズ
      伸びる臓器がちぎれ、槍に突き立てられた頭部を残して胴体を落とす弐号機
      胸を押さえてふるえているアスカ
アスカ  「……うっ、ぐっ、う〜っ!」
      左目を強く押さえている
アスカ  「……コロシテヤル、コロシテヤル、コロシテヤル、殺してやる!」
      眼の部分が盛り上がる弐号機
アスカ  「殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!」
      歯を食いしばって右手を伸ばすアスカ
      弐号機の右腕が動き出す
アスカ  「殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!」
      太陽を背にして上空を舞う量産機の群れ
アスカ  「殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!」
      それに向かって右手を伸ばす弐号機
マコト  「暴走か!」
マヤ   「やめて! アスカ! もうやめて!」
アスカ  「殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!
      殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる……」
      アスカの右腕が縦に裂けた
      エヴァシリーズの投げた2本めの槍が、弐号機の右腕を縦につらぬく
      直後、一斉に弐号機に突き立つ7本の槍
マヤ   「ひっ!」

      無線機から響くマヤの悲鳴
マヤ   “シンジ君! 弐号機が! アスカが! アスカが!”
      しゃがみこんだままのシンジ
シンジ  「だって、エヴァに乗れないんだ。どうしようもないんだ」
      ベークライトが突如砕ける
      初号機の腕が伸び、指の間に挟まれるシンジ
シンジ  「……母さん?」


      轟音が伝わってくるターミナルドグマ
ゲンドウ 「初号機が動きだしたか」
      初号機の眼が光る

      ネルフ本部のピラミッド上部が吹き飛ぶ
      上空にグランドクロスが伸び、その光がふたつに分かれる
      突風の中で唖然とする戦自隊員たち
     「エヴァンゲリオン初号機!」
     「まさに悪魔か」
      菱形の翼をまとった初号機が姿を現す
      周囲で渦を巻く暴風
      光る眼と口

      うつろな目で上空を見上げるシンジ
シンジ  「アスカ!」
      そこには、凌辱された弐号機の姿が
      眼球が飛び出し、歯がむき出しになった頭部
      引きちぎられた腕、足 垂れ下がった内蔵
シンジ  「うわあああーっ! ああーっ! うわあああーっ!」


つづく



EPISODE:25 | FINALE: | :DEATH | EPISODE:25' | ONE MORE FINAL:

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