またしても同じ昨日だった。
いや、決定的に違うこともある。俺と智也の関係の事だ。
結論から言うと俺が一方的に智也を避けている。
そして智也は何事もなかったかのように一方的に俺に話しかけてくる。
それ以外はまったく変わらない。ただそれだけが決定的に違っていた。
智也のことは冷静になって考えてみると赤面する。
理由はない。
同じ授業を三回も受けるのはただ眠りを誘発するだけだった。
放課後−
俺はやはり屋上にいた。
昨日と同じ。ただ智也の挑戦するような微笑だけが違っていた。
「今日僕を避けてたでしょう」
「さあな」
「まあそれはかまわないのだけど」
思わず突っ込みたくなったが抑える。
「今日もここに黒い靄がある」
そう智也が言うといつの間にか俺と智也の間が霧みたいな靄ができる。
「僕の役割はこの靄の除去だ。そしてその反動は優一も知っているとおり」
「ああ」
妙に間の抜けた無気力な会話だった。
「そして君は明日に進みたいわけだね」
「そうだ。今日は力ずくでも智也を止めるぞ」
少し強い口調で言ってみた。
なんでこんなに無気力なのだろうか。
なんでこんなに−儚げなのか
何故儚げなのかはわからない。人間には基本的に第六感は備わっていない。
ただ皮膚みたいに雰囲気が悪いなどの区別はつく。
そんな感じだった。
そして唐突に智也がつぶやくように、そして聞かせるように言葉を発した。
「優一は真実を知りたいかい」
この言葉を智也が言ったとき俺は気味の悪さにとらわれた。
真実とはなにか。
いったい智也はどこまで隠しているのか。
いや、智也はどこまで本当のことを話しているのか。
「ふふ、知りたそうだね。それはそうだよね。僕の親友智也を巻き込んでの異常だからね」
「当たり前だ」
俺のこの当たり前は俺を巻き込んだ異常のことか、僕の親友ということの当たり前か。
「とにかく俺は明日に進みたいそれだけだ」
「そのためにほかの普通を破壊してもかまわないかい?」
俺はそのとき数学に関係する何かかと思った。
真実を知っていたら俺は本当に明日に無理やり進んだだろうか。
それは結果論であるが。
とにかくそのとき俺は深く考えなかった。
「ああ、進みたい」
「そうか、・・・とっても残念だ」
智也は本当に寂しげにそう言った。
俺はとっさに身構える。
「別にそう硬くならなくてもいいよ。大丈夫。世界は矛盾なんかしてないよ」
それが俺の聞いた智也の最後の言葉だった。
黒い霧が晴れ、その向こう側は、空だった。
そして地面には一通の手紙。
優一へと書かれているその手紙を拾い、俺は読まなかった。
読む必要がなかったからだ。








































優一へ
僕が消えてびっくりしたでしょ。びっくりしてほしいな。
もしこの手紙を優一が読んでいるのだったら僕はこの世界にはいないでしょう。
そういうゆうに書けばいいかな。
優一に一つだけ知っていてほしいことがあるんだ。
あの黒い靄は世界の矛盾じゃない。
あれは世界の時間をつかさどるものなんだ。嘘ついてごめんね。
なんで僕がそれを壊しているのか、まあ正確にはいじるだけなんだけどね。
僕はいわば世界のコンピューターウイルスなんだよね。
このことを知ったのはつい最近、というより昨日なんだけどね。
それであの日から見た明日が来ると自動的に僕は消されるんだ。
まあ僕もわが身がカワユイからね。
そういうことなんで。



さようなら親愛なる友優一。
君の親友智也より・・・真実を伝えるために。


追伸 君がいた永遠の今日は心地よかったよ。

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