おかしなふたり 連載211〜220

第211回(2003.3.31.)
 身体は完全に女子高生だっ!しかもちょっと可愛いぞ!
 ・・・何だか別の意味で吹っ切れている歩(あゆみ)だった。今は外見は聡(さとり)だが。
 別に校内をうちの制服を着た女子がうろついていてもおかしくはあるまい。聡(さとり)の友達とかに見つかるとそりゃ厄介だけど、悪い方向にばかり考えていても仕方が無い!
 思い切って、体育館を回りこみ、玄関にやってくる。
 昼休みともなれば大勢の生徒が行き交っている。
 うう、恥ずかしいよお・・・。
 心臓がバクバク言っている。
 でも・・・ある意味予想通りだった。
 今の歩(あゆみ)は全く無理なくこの共学校に溶け込んでいた。特に気に留められる風でも無い。これで別の学校の制服でも着ていればともかく、「うちの生徒がいる」と思われるだけのことである。
 女子高生として馴染みたくなんて無いんだけど・・・。
 一歳違いの妹だが、高校生にもなると結構身長に差があるものだ。正確に測ったことがあるわけでもないが、一回りは違う。
 これまでも体感身長がかなり違ったのだが、こうして建物の中に入ると覿面である。
 ちっちゃくなっちゃった自分に心細くなる歩(あゆみ)。可愛い。


第212回(2003.4.1.)

 何だか本当に女子高生になっちゃった気分だ。
 きょろきょろする歩(あゆみ)。
 あいつの行動原理から考えて・・・どこに行ってるだろうか?
 こっちをこんなことにしてるなんてすっかり忘れて自分の教室に帰ってる?それとも気を利かせて俺の教室で待ってるかな?
 少なくとも体育館近くにはいないだろう。
 何しろあんな所をうろついていたんでは、折角尊い犠牲(?)を払ってまで工作した意味が無い。
 ということは・・・と思った瞬間にビックリして廊下の隅っこに引っ込んだ。
 廊下の先で、我が能天気な妹が同じ制服の少女と楽しそうに会話しているではないか!
 ・・・多分、どこかに退避しようとして女友達に会ってしまったので話しこんだ、という所だろう。・・・全く、小動物みたいな行動原理である。
 ともあれ、幸いだ。
 しかもおあつらえ向きに人の少ない玄関近くから少しだけ離れた職員室近くである。
 妹の姿になってしまっている兄は、廊下の影に隠れて本物の妹の動向を観察した。


第213回(2003.4.2.)
 てゆーか寒くないか?
 いや、こんなにいい天気で寒いも何も無いんだけど、わが国独特のじんわりとした湿り気が床から湧きあがり、ミニスカートの中の剥き出しのパンティとその周辺をねぶる。
 うう・・・なんだか汗が滲んできたよ・・・。
 実は部屋で色んな制服に着替えさせられていた時も、聡(さとり)がとっかえひっかえ色んな制服を着せたりすることもあって、一着をそれほど長く着続けたことは無かったりする。
 この間のウェディングドレスが最長なんじゃないだろうか。
 だから実は女物の衣類に“生活感”みたいなものを感じた事が余り無い。
 それを着て汗をかいたり汚れたりといったものをだ。
 なんというか思わず押し付けられて“かゆく”なったブラジャーのひもをくいくいしたりして・・・。
 ああ!もお!さとりい!!
 ぷんぷん怒っている歩(あゆみ)。
 そんなけなげな(?)兄をよそに、立ち話をしている妹は一向に話を止める気配が無い。
 ・・・ちょっと待てよ・・・。
 歩(あゆみ)は偉い事を思い出した。
 もしもこのまま駆け寄ったら「同じ人間が二人」状態になっちゃうんじゃないのか?


第214回(2003.4.3.)

 と、仲良し二人組はその場で別れた。
 ばいばーい、また後でねってなもんだろう。
 ここだっ!チャンス!
 その時だった。
 かなりいいアイデアと思われるものが浮かんだ。
 よし、やるしかない。
 妹の姿にされてしまっているミニスカートブレザーの歩(あゆみ)は、廊下の先にいる本物の妹に向かって念を込め始めた。


第215回(2003.4.4.)

 聡(さとり)も、なにやら異変に気付き始めたみたいだった。
 いい気味だ!
 物陰の女子高生歩(あゆみ)はそのまま続けた。


第216回(2003.4.5.)
 ショートカットのごく普通の女子高生のスカートは、見る見るうちにぐんぐんとその長さを増していく。
 脚全体にまとわりついて一本一本をぴっちりとカヴァーする。
「あ・・・」
 流石に異変の不意打ちを食った格好になった妹は少しだけ動揺している。


第217回(2003.4.6.)

 ええーい構うもんか!
 女子高生スタイルの歩(あゆみ)は能力の行使を止めない。
 瞬く間に女子高生の制服は、多少だぶつき気味の男子校生のそれになってしまう。
「・・・あ・・・あっ!」
 悩ましげな表情を浮かべる聡(さとり)。
 今日の場合は慎重を期して丁寧に変身させている場合では無かった。多少なりとも人に見られる危険性がある以上、なるべく一瞬のうちに変身を完了させなければならなかった。
 ものの数秒の後には、そこには兄の歩(あゆみ)そっくりの姿になった妹がいた。
 ここだ!
 短いスカートを翻しながら兄はその妹の元に駆け寄った。


第218回(2003.4.7.)

「おい!」
 この7月の暑い最中に、ひんやりと冷たい廊下にその甲高い声が響いた。
「あ!お兄ちゃん!」
 一回り背の高い男子校生が、可愛らしい女子高生に向かって「お兄ちゃん」と言っているのだから、少々異様な光景だった。
「“お兄ちゃん!”じゃねえよ!もお!」
 ぷりぷり怒っている聡(さとり)の外見をした歩(あゆみ)。
「・・・」
 何だかじいっ・・・とこちらを見ている。自分に見詰められるというのは何とも複雑な気分である。
「か、可愛いっ!」
 といって思いっきりこちらを抱きしめてくる。
「うわわわわっ!」
 不意を衝かれて思いっきり抱きしめられてしまう。
 その童顔に似合わないちょっぴり豊満なバストが“むぎゅ”と押し潰されて・・・。
「よ、よせええっ!」
 真っ赤になって叫ぶ歩(あゆみ)


第219回(2003.4.8.)

「なーによー、つまんないのー」
 いじいじする男子校生は普通に見れば気持ち悪いんだろうが、何とも言えない愛嬌でそれが緩和されていた。
 うーん、これは年上には受ける“可愛い男の子”って奴なのか・・・?とか自分の姿をした妹に向かって思ったりする歩(あゆみ)だった。
「まあ!とにかくだよ!すぐに戻してくれ」
 やっと本題を言うことが出来た。ここまで来るのにどれほど苦労があったことか・・・。
「ん?」
 首を傾げる美少年。
「もう昼休み終わっちゃうよ!早く!」
「城嶋!」
「ぴゃあっ!」
 突然後方から飛んできた声に飛び上がる歩(あゆみ)。


第220回(2003.4.9.)

「珍しいな。喧嘩か?」
 首だけ後ろを振り返る歩(あゆみ)。
「あ、あの・・・」
 そこには二十代半ばと思われる好青年がいた。
 見覚えだけはある。聡(さとり)の担任である。
「あ、どーもー!」
 スマイリーマークみたいなニコニコ顔で答える聡(さとり)。勿論、今の見かけは兄である。
「・・・?」
 直接的に面識の無いはずの人間に親しげに応えられてちょっとだけ戸惑う担任。
 くいくい!とプリーツスカートを引っ張る聡(さとり)。
 きっ!と怒りの表情で振り返る兄。
 何もそんな警告の仕方は無いだろう!と言いたげだった。でもスカートをめくったりお尻をぺろりと撫でられるのに比べればマシだったかも・・・。
「あ、あの・・・兄です」
 消え入りそうな声だった。
 歩(あゆみ)にしてみれば女として他人と話すなんてもうそれだけで一杯一杯なのである。自分に対して「お兄ちゃん」なんて恥ずかしくて言えるわけがない。


第221回(2003.4.10.)
 一瞬ぽっと頬が赤らむ担任。
 いつもお祭りみたいに賑やかなキャラクターである聡(さとり)が何やら初恋の少女みたいな初々しさで可愛らしく喋っているのである。それは最初から大人しい女の子がそうした挙動を執っているよりも効果的だった。
「そ、そう・・・か」