おかしなふたり 連載201〜210

第201回(2003.3.21.)
 そんな無茶な・・・。
 あいつ、一体何を考えてるんだ?
 歩(あゆみ)は途方に暮れていた。


第202回(2003.3.22.)

 その場でもじもじする歩(あゆみ)。
 と、とにかく何とかするしかない。
 えーと、ここで待っていればいいのかな?
 つまりはあいつに替わってその男の子に“お断り”すればいいわけだ。
 当然ながらそんなのは初めての経験だった。
 女の子に告白されたことなんかないし、ましてや男に告白されるなんて初めての経験に決まっている。
 それにしても・・・全くヒドイ話である。
 よりによってそんな話を実の兄貴に押し付けるなんて・・・。
 スカートの中の脚をすりすりさせながらその相手が登場するのを待つしかない歩(あゆみ)。
 ・・・同級生の女の子がみんな着てるし、何より妹の姿を毎日見ているけど・・・自分が着るにはこのスカートは短すぎるよお・・・。
 周囲に誰もいない体育館裏というのが幸いした。
 校内とかだったら周囲の視線が恥ずかしくていたたまれなかったに違いない。


第203回(2003.3.23.)

 ・・・鏡が見たいな・・・。
 別にその・・・女の子になっちゃった自分の姿を確かめたいとか言うんじゃなくて・・・ってやっぱそうか。
 何しろこれまでさんざん女の子にされてきたけど、聡(さとり)にされたってのは初めてだ。
 聡(さとり)だって自分をこしらえるのは初めてだろうし・・・。
 それにしても、・・・聡(さとり)って普段はどんな挙動をしてるんだろう・・・。
 まあ、嫌というほど見ているんだけど・・・あんなきゃいきゃぴしたキャラクターなんか演じられる訳が無い。
 ま、全くもお・・・。
 確かに断り辛いだろうけど・・・。これはもうよっぽど埋め合わせして貰わないと吊り合わないぞ・・・。
 ゆっくり下を見てみた。
 ・・・綺麗な脚だよな・・・。
 とか思った。


第204回(2003.3.24.)

 剥き出しになった脚というのはなんとも独特の感情を喚起する。
 思わずきゅうっと腰を捻ってお尻の側から自分の身体を見下ろす。
 ・・・。聡(さとり)っていい身体してるな・・・って別に入れ替わってるという訳でも無いんだけど、きっと自分をイメージして変身させたはずだ。
「城嶋さん?」
「きゃわわわわああっ!」
 ヘンテコな声が出てしまう。
「あ、どうも・・・」
 そこには純朴そうな青年がいた。


第205回(2003.3.25.)

 一応年下ということになるんだが・・・、何とも形容しがたいものがある。
 いや、別に格好悪いとかそんなんじゃない。何と言うか決まりが悪いのである。
 そうねえ、ちょっとは整った顔っぽいかも・・・。
 って何を男の品定めをしているのか!
 まあ、特に何ということも無い普通の男の子だ。多分去年は自分もこんな感じだっただろう。
 名札の色で学年が識別できる。現在は3年生は黄色、2年生・・・つまり歩(あゆみ)の学年だ・・・は白、そして聡(さとり)の1年生は青である。
 その男の子は青い名札をつけている。
「あ・・・あの・・・」
 その男の子はいきなりうつむいてもじもじし始めてしまった。
 な、何だこいつ・・・?
 と、そこまで考えて一瞬身体が動いた瞬間、殆ど剥き出しになったパンティ一丁と変わらない感触が意識される。
 ・・・っ!そ、そうだ。今、スカート・・・ていうか女子の制服を着せられて・・・いや、それどころじゃなくて聡(さとり)の身代わりにさせられているんだった・・・。
 つ、つまりその・・・今、事情を知らないこの子と“男と女”という関係でふたりっきりということに・・・。
 胸の奥がきゅうん!となった。


第206回(2003.3.26.)

 そ、そうだそうだ。ここで断らないといけないんだった。
 それにしても・・・、目の前でもじもじしている少年・・・って一歳しか違わないんだけど・・・を観ていると、上手い事“女の子”を演じて逃げ切らなきゃいけないのか・・・と不安がのしかかってくる。
 でも・・・待てよ。
 歩(あゆみ)は思いついた。
 そうだ・・・これが告白をしてくれってんならともかく“嫌われてくれ”という依頼なのである。
 ということはどんな無茶苦茶なことをしてもいいのだ。というかむしろその方が望ましい。
 そう考えた時に、ほんの少しだけ気が楽になった。
 その時だった。
「城嶋さんって・・・そういう面もあるんだね」
「へ?」
「いやその・・・いつになく静かだから」
「え・・・いやあのその・・・」
「いつも賑やかな人だから」
 教室でけらけら笑ってる聡(さとり)の姿が目に浮かぶ様である。
 ま、まさか慣れない女体とスカートに戸惑っているこっちの姿を見て恋の予感にドキドキしている様に見えちゃったって事!?


第207回(2003.3.27.)

 と、とにかく断らなきゃ断らなきゃ!
 焦りまくる歩(あゆみ)。・・・ったって外見は完全に聡(さとり)である。
 うう、こんな能力が付与されるまでは女の子として男を振るなんてシチュエーションは考えもしなかったのに・・・。
 何だか悲しいような悲しいような・・・う、嬉しくなんか無いぞ!
「ご、ゴメンなさい・・・」
 何だか本当に悲しくなってきた。どうして自分がここで謝らなければならんのか・・・。
「・・・え、じゃあ・・・」
 もう正視なんて出来ない。
「それじゃあ!」
 もう耐えられない。
 そう思って振り返ると同時に走り出そうとした。その時だった。


第208回(2003.3.28.)

 体育館裏だったので、そこいら中がゴツゴツして石ころだらけである。
「あっ!」
 思いっきりつまづいてしまう。
「あぶない!」


第209回(2003.3.29.)

 がっし!と抱きとめられるその身体。
「あっ!」
 そこから先の記憶がイマイチはっきりしない。
 憶えているのは、そこからさんざんしどろもどろになりながら「好きにならないで下さい!」と言い残してその場を離れたことだけだった。

 ぜえぜえはあはあと息が切れている。
 うう、やっぱり駄目だよあんなの・・・。
 まあ、とにかく何とかなった。
 聡(さとり)のお願いを聞き入れるとかなんとかじゃなくて自分が機器を脱出する事の方が優先になってる気がするけど、そんなの当たり前だっての!
 だっていきなり実の兄を女に変えた上に女装させて女としての依頼をするなんてそんな無茶な話があるもんか!もしもいきなり兄に男にされた上に女の子相手に何かしてくれなんて頼まれたりしたら・・・・・・・。あいつならやりそうだが。
 とにかくだ!危機を脱出したからには元に戻して貰わなくちゃ。


第210回(2003.3.30.)
 そこでまたまた途方に暮れることになる歩(あゆみ)。
 何とか追っかけてこられない位に距離は引き離したけども、ぐずぐずしている訳にはいかない。
 でも・・・もしも校舎の方まで行けばこの格好を他の生徒に見られちゃうということに・・・。い、嫌だあああっ!
 だってその・・・、身体というか見かけは聡(さとり)、つまり妹になっちゃってるんだけど、ということはまんま女の子である。しかも、この短いスカート姿。丸っきり女装ではないか。
 今だってこのさらしまくった素足が顔から火が出るほど恥ずかしいのに、こんな格好で多くの生徒の間を縫って移動なんて出来るはずが無い。
 ・・・っていうかあいつはアホか!終わったらすぐに戻してくれる算段をしとかないと駄目じゃないか!
 しかも・・・よく考えたらいま「聡(さとり)が二人いる」という状態になっているんじゃないのか?
 身体を思わず触ってみる。
 おっきなおっぱいがむにゅ・・・と・・・ってちがーう!
 いや、別に違わないんだけど、こんなことやってる場合か!
 携帯で連絡をとるか、と思ってスカートのポケットに手を入れるんだけど入っていない。
 どうもこの変身の基準というのが良く分からない。
 周囲をきょろきょろする妹になっちゃってる兄。
 その辺を歩いている生徒がちらほら目に入ってくる。
 ひょ、ひょっとしてこちらに気がついているんでは・・・。
 疑心暗鬼が始まるともうキリが無い。
 ええーい!もおヤケクソだあ!
 腹が据わった。