おかしなふたり 連載171〜180

第171回(2003.2.19.)

 気が付くと恭子は隣の椅子に座っていた。
 これがまあ、出来すぎた事に隣の椅子が空いていたのである。
「あゆみちゃん!あゆみちゃん!」
 もう遠慮なくつんつんつついてくる恭子。
「あ、ああ・・・ひさし・・・ぶり・・・」
 何だかドギマギしてしまう歩(あゆみ)。
 もう全然違っていて丸っきり気が付かなかったのだ。
 何しろ恭子が引っ越していったのは小学校に入る前である。おぼろげな印象と名前くらいしか覚えていない。
 それがこんなに・・・。
 女ってのは変わるもんだ。17歳の台詞じゃないか。でも何だか見るのが恥ずかしい。
 昨日の私服の印象で20台半ばにも感じてしまった。
 それが、上手く調達したもので、もう聡(さとり)たちと同じ制服に身を包んでいるのである。
 成熟した女の魅力にも見えるそのCOOLさと可愛らしい制服のミスマッチもまた凶悪だった。
「さっちんに聞いてなかった?昨日電話したんだよ?」
「え!?」
 今度ばかりは振り返る。
「ホントに?」
「うん。昨日延々話たもん」
 確かに昨日の夜は長電話してたみたいだけど・・・。
「何であいつは・・・」
 替わってくれなかったのか・・・という言葉が喉まで出かかっていた。
「なんか精神的に落ち込んで寝込んじゃってるとかなんとか」
 あのアホがあ・・・。怒りが湧き上がってきた。


第172回(2003.2.20.)

「あー、城嶋。その辺にしとけ」
 どっと笑い声が起こる。
 昨日の車内で出会ってる・・・とは言い出せない。
 何と言うかその・・・その時にすっかりその魅力に参ってしまったのである。はっきり言って一目ぼれだった。
 あの時はこっち側は、不特定多数の電車の中で純白のウェディングドレスに身を包んだ花嫁である。
 どうこうしようなんてそもそも思いようが無い状況下だった。
 しかし・・・、同級生として転校してきたのである。しかも・・・随分小さい頃の事とは言え、幼馴染である。
 向こうもこっちを認識して、気軽に話し掛けてくれている。
 何とかなる・・・何とかなるぞ・・・。
 歩(あゆみ)は別の意味で心臓が高鳴っていた。
 顔を赤くして俯いてしまう。
 担任がクソ面白くも無い伝達事項を喋り始めた。
 そんなものが歩(あゆみ)の耳に入らないのは言うまでも無い。
 すぐ隣に座っているヴィーナスが気になってしょうがない。
 直接ちらちら見たんでは目立つことこの上ない。
 そうしよう・・・。
 休み時間が待ち遠しくてたまらない・・・っていうかさっさとホームルーム終わらせやがれ馬鹿教師が!
 と、ちょんちょん、と恭子がひじをつついてくる。
 ふっ!と見ると面白そうな表情で紙切れをこちらに渡そうとしている。
 う、うんうんと頷いてその紙を手に取る。
 紙を広げてみた。
「今日みんなでカラオケに行こう。さとりちゃんと約束したの」
 とあった。


第173回(2003.2.21.)
 休み時間に突入すると恭子は女子のクラスメートに囲まれていた。

 どうしていきなり制服着ているのか、以前はどこに住んでいたのか、などなどである。
 先ほどの親密なやりとりから当然、歩(あゆみ)にも質問が波及する。
「あゆタンの彼女なの?」
 歩(あゆみ)はそのベビーフェイスからクラスの女子の一部からは「あゆ」「あゆちゃん」「あゆタン」などと呼ばれて可愛がられていた。
 ・・・てゆーか可愛がられていたのは妹だけでは無かったのだ。
 当代のカリスマ的人気歌手「沢崎(さわさき)あゆみ」と名前の発音がまったく同じであることも手伝っていた。
「ち、違うよ!」
 赤くなって否定する歩(あゆみ)。
 歩(あゆみ)は妙な所で真面目なので、休み時間にあまり席を移動しない。だから隣で盛り上がっている団欒から距離を置けないのである。
 何しろわざわざ離れるのもなんだか避けてるみたいだし・・・。
 これだけ整った美人だとさぞ女子の間では浮くかと思われたのだが、社交的な性格らしく結構仲良くやっているみたいだ。
 そうか・・・引っ越してきてたから昨日に電車であんなところにいたのか・・・。
「あ、そうそう昨日面白いものみたよ」
 これは恭子。
「えー何々?」
「電車の中でウェディングドレスの人がいたの」
 その場で机ごとひっくり返しそうになった。


第174回(2003.2.22.)
「えー?何それ!?」
 女子の輪が一気に湧く。
「うん、何だか知らないけど昨日あたしが電車に乗ってたらさあ、やたら騒がしいし、人だかりがしてるからそっちに行ってみたらお嫁さんがいたのよ」
 歩(あゆみ)は心臓を握りつぶされた様な気分だった。
 ま、まさか・・・いや、気付くはずが無い。気付くもんか。
 確かに聡(さとり)に女に変えられた時の顔には少々男のときの面影があるけども、まさかごく普通の男子校生が女になって電車の中でウェディングドレス着てるなんて連想が働くはずが無い。
「えー」
「信じらんなーい」
 といった反応が渦巻く。それはそうだろう。
「マジで?本物の?」
 何故か柿崎まで話に加わっている。
「うん。あたし触ったけど本物のドレスみたいだったよ」
 “触った”どころじゃないけどね、と付け加えたり。
 ・・・待てよ。そうなるとあの1万円は恭子ちゃんに出費させちゃったのか?
「何なのそれ?仮装行列!?」
「分かんない。本人は罰ゲームみたいな事言ってたけど」
 そんなこと言ったか?・・・言ってはいないけどそう言われて曖昧に肯定した様な気はする・・・。
 そ、そこに聞きなれた声がした。
「きょーこちゃん!」
 “諸悪の根源”がやってきた。
「さっちん!」
 そう、わが妹の“さっちん”こと聡(さとり)である。
 しょっちゅうやって来るので、クラスの女子にももうお馴染みになっていた聡(さとり)は飛びつくように恭子と抱き合って大いに盛り上がった。
 ・・・そんな大騒ぎが休み時間が終わるまで続いた。


第175回(2003.2.23.)

 携帯電話で呼び出した聡(さとり)がもうすぐ来ることになっている。
「あ、どーもー!」
 振り返るとそこには小悪魔がいた。
「どーしたのよこんなに早く」
「お、お前なあ・・・」
 結局学校ではそこそこの話しか出来なかった。恭子の方も後でカラオケで話せると思っていたのか、話もそこそこにしておいた。いくら幼馴染だと言ってもあんまりいちゃいちゃするのは上手くないと思ったのだろう。
「恭子ちゃんが転校してくるってなんで教えてくれなかったんだよ」
「だって・・・聞かれなかったし」
「・・・」
「嘘よ嘘!ちょっとビックリさせようと思ってさ!」
 本当にビックリしたよ!
「まあいいや・・・待ち合わせはどれ位なんだ?」
「えーとね」
 ぱちん!と携帯電話を開く聡(さとり)。
 こいつも“今時の女子高生”なので携帯電話の扱いは手馴れたものである。
「あと1時間かな」
「じゃあ・・・それまでに」
「そうね」
 アイコンタクトを交わす二人。何があるのだろうか?


第176回(2003.2.24.)

 そんなこんなでカラオケボックスの中にいる兄妹二人。


第177回(2003.2.25.)

「・・・じゃあ・・・頼むよ」
 ニコニコしている聡(さとり)。
「んふふ・・・ひょっとしてハマって来た?」
「いいから早くしろって!」
「あ、いいのかな〜?女の子がそんな乱暴な言葉使って」
 立場が強い聡(さとり)は意地悪な内容を喋りながらも心の底から楽しそうである。
「まあそうよね。うん。いいわ。・・・どんな格好にする?」
「てゆーか服はこのままでいいんじゃないか?」
「駄目!」
 大きな声だった。
「駄目よ!折角女の子になるんだから!」
 変な会話なのだが、この兄妹にとってはいつものことである。
「お兄ちゃんのおっぱい大きいんだからちゃんとブラしないと垂れちゃうし痛いよ!」
「・・・人聞きの悪い事言うなよ・・・」
「いいじゃん。密室だし」
 実は、今日の機会はあれだけ妹である聡(さとり)の不思議な能力による性転換を嫌がっていたはずの歩(あゆみ)の側からの依頼によるものだったのだ。


第178回(2003.2.26.)

「ん・・・あ・・・」
 苦痛・・・という訳でも無いのだろうが、悩ましく歪む歩(あゆみ)の
表情。
 同時にむくむくとその胸が乳房の様に盛り上がってくる。
 それをにこにこと眺めている妹の聡(さとり)。
「えーと、でもって次は下半身を・・・」
「は・・・あっ・・・ああっ・・・」
 見る見る腰の部分が張り詰めていく・・・。
 これはこの兄妹に授けられた特有の能力で、お互いを性転換させることが出来るのである。
 間髪入れずに、つややかな髪がサラリと流れ落ち、その雰囲気を変えてしまう。
「身体はこんなもんね」
「・・・ふう」
 すっかり“女の子”になってしまった、“兄”の歩(あゆみ)。
 男子校生の制服に身を包んだ美少女は、見るものに色々なことを連想させる。
「・・・やっぱり着替えないと駄目かな?」
「きゃー!可愛い声!」
「・・・」
 そう言われてほんのり頬を染める美少女。
 そう、肉体的な特徴は何から何まですっかり女のそれになってしまっているのである。このまま妹の機嫌で元に戻れなかったら生理にもなるだろうし、子供だって生めるのではないか。


第179回(2003.2.27.)

「お兄ちゃん今の自分の格好見たことある?」
「“今の”って?」
「女の子が男子の制服着てる状態よ」
「いや・・・」
 そういえば無いかも知れない。
「絶対おかしいって。ちぐはぐだよ」
「・・・」
 ふと自分の身体を見下ろしてみる。
 寸詰まりになった上半身を形のいい乳房が突き上げている。
 そのメリハリのある体形と男子の制服は確かに違和感はあるかも知れない。まあ、男子校生の女子の制服よりはマシなのだろうが。
「えへへー、実はね」
 またまた嬉しそうに言う聡(さとり)。
「昨日言われてから考えてたんだよ」
 とか何とか言っている内に歩(あゆみ)の生まれたばかりの乳房がぐゆっ!と押さえつけられる。
「・・・ん」
「今日のブラは3/4ね」
「何だって?」
「いつもフルカップだったから」
 そう言われればちょっぴり胸元がゆるい気が・・・気のせいかも知れないけど。
 瞬く間にその男子校生の制服の下には柔らかくてすべすべの女性物の下着が完備されてしまっていた。
「い、急いでな」
「まかせて!・・・でもって今日は何だと思う?」
 考える間も無くその衣服は変形を始めていた。


第180回(2003.2.28.)

 直接学校からやってきたので制服姿である。
 その制服が赤く染まっていく。
「さとり」
「ん?」
 にこにこの聡(さとり)。
「何だいこれ?」
 服が変形している途中に喋る余裕が出来てきたのは成長なのかなんなのか。
「えへへー、もうすぐ分かるから」
 良く見るとその服は赤というよりも若干ピンク色に寄っていた。
「・・・」
 黙ってみているしか無い歩(あゆみ)。
 見る見る内にその柔らかなピンク色からあちこちに白いふりふりが生えて来る。
「あ・・・」
 それが全身に及び、下半身が大きく膨れ上がる。同時にするりと両足が接触する。
 ぞぞぞっ!と背筋に怖気が走る。
 やっぱりつい最近まで女装なんて考えた事も無い健全な男子校生にとって衣服がスカートに変えられていく感触は応える。
 ふしゅる・・・と女性物の下着だけが取り残され、いつものスカートの感覚に落ち着く。
 だが、毎晩着せられている制服の多くと違って、今回のスカートはなかなか大判だった。
 何とも少女趣味のその上着の具合がスカートまで続き、身体の前面に続く前の部分からぱっくりと割れて純白の下着とも付かない生地が顔を出している。
「はい!出来上がり!立ってみて」
 元々立ちあがる積りだったのですっくと立ち上がる。スカートの中に吹き込んできた風が剥き出しになった素脚をなでまわす。
 立った状態になるとそのスカートは見事なほどふわりと膨らみ、可愛らしいすねから先が顔を出す。
 やっと歩(あゆみ)にも思い立つところがあった。
 これは「ピンクハウス」と呼ばれるブランドだ。