おかしなふたり 連載151〜160 |
第151回(2003.1.30.) 実際には開いた空間は僅かなものである。 そこに足の先を突っ込む。 ドレスに前方を塞がれながら何とか右足を出して、そこに踏ん張る。 ドアがこちらにのしかかってくる。 よっこいしょ!と身体で押し返し、その隙に身体全体を家の中に押し込んだ。 当然、スカートもトレーンも右手から流れ落ちたものに関しては一気に収容しきれない。 このままではドアに挟まってしまう! 花嫁姿の歩(あゆみ)は、反射的に目の前のドアに頭をごん、と押し付けた。 そこに装着されていたティアラが髪の中に押し付けられる様にぐしゃりとする。 いたたたたた・・・。 思わず表情が歪むが、その間にも一生懸命スカートを手繰り寄せ続ける。 何とか全部玄関の中に収容してやっとドアから頭を離した。 ・・・ふう、これで不特定多数から目撃される可能性はほぼゼロになった訳だ・・・。 少し安堵する歩(あゆみ)。だが、「特定少数」に目撃される可能性はこれで倍化した訳だ。 分かってはいたものの、何と言う量のスカートだろうか。床が全く見えない。 そして、転がっていた有象無象の靴の上に直接スカートがかかってしまっている。 だが、ある意味これからは床を引きずることを考えなくてもいい訳だ。とにかく一気に二階に駆け上がるべし! ヴェール越しにすぐそこにある階段を見上げた。 |
第152回(2003.1.31.) ハイヒールというのは床に接している面積が極端に小さい。申し訳程度のつま先と割り箸みたいな踵の棒だけである。 それによってもたらされる姿勢の矯正を期待された履き物なのだから、快適性や安定性は二の次である。 当然歩きにくいのだが、スカートの下で見えないので、靴を次々踏んでしまいながらも、土足部分をクリアしつつあった。 ・・・靴って脱ぐべきなのかな? これまで割とすぽすぽ踵が外れたりはしていたんだけど、もしもこんなものを玄関に残していった日にはすぐに気付かれてしまう。聡(さとり)にすぐに戻して貰えばこの靴も元に戻るのか? でも二階にいなかったりした場合は、この格好で篭城する必要がある。そうなれば、この白いハイヒールは玄関に転がしっ放しってことになる。芋づる式にそこから足がついて母親に部屋に踏み込まれたりすることは避けなければならない。 かといって土足で家に踏み込むのも抵抗がある。 ええーい!ままよ! 歩(あゆみ)は、後ろ方向のスカートを抱えるのを諦めた。 前方方向のみを抱き上げて靴を脱ぐ。 そして土足部分から玄関に上がった。 ストッキングに包まれ、これまでの行程でうっすらと汗をかいた足の裏にひんやりとした床の冷たさが伝わる。 スカートを掻き分けながらハイヒールをつまみあげ、かかとに右手の人差し指と中指を引っ掛ける。 そのまま親指でまたスカートを鷲掴みにすると、豪快に背後にスカートとトレーンをずるずる引きずりながら一気に階段を駆け上った! |
第153回(2003.2.1.) 衣擦れの音にはもう慣れた。 とにかく、足を次の一歩が出しやすい様にするためだけに出しているので、後ろのスカートの引きずりっぷりは全くみていない。 あの長さでは階段の全部を覆い尽くしてそりゃもう凄いことになっているんじゃないかと思うんだが、いいやもう。 こんな・・・こんな目に遭わせやがって・・・聡(さとり)め!今度と言う今度は許さないぞ! 二階にたどり着いた! 自分の部屋よりも聡(さとり)の部屋の方がいい。 もう走る必要が無いので両手をスカートから離す。 ふぁさ・・・と重力にしたがって落下するスカート。 右手にハイヒール。左手にヴーケ。 てゆーか何故ヴーケを後生大事に持っているか。放り出してしまえば良かったのに。 時間にすれば恐らく1時間も無いだろう。 これまでのことだけでもトンでもない量の経験だった。最初に電車内で違和感を感じた時から謎の女性に助けられた時のことやら、頭の中に一気に駆け巡る。 左手の脇の下にハイヒールを抱え、思いっきりノブを回す。 ・・・抵抗無く開いた。 すぐに飛び込めるような位置取りに構え、思いっきり開ける! これまで散々、踏み込んだ瞬間に「さとりぃっ!」とか怒鳴ろうと思っていたのに声は出なかった。 ここで目立ってはいけない、と思ってしまったのだ。 ずざざざざ〜っ!という音と共に踏み込む純白のウェディングドレス姿の歩(あゆみ)。 歩(あゆみ)の目には反射的にそれは入ってきた。 床にうつ伏せに寝っころんでリラックスしている聡(さとり)だった。 その気配に振り返る。 「・・・!?きゃああああ〜っ!」 二人の美少女の悲鳴が響き渡った。 |
第154回(2003.2.2.) 目の前にいるのは聡(さとり)だった。聡(さとり)に違いなかった。 その妹が目を大きく見開いてぽかーんと口を開けている。 「え・・・あの・・・・」 あんなに怒りのメッセージを練っていたのにこうなるとこちらも言葉が出てこない。 どれくらいの時間が経っただろうか。 「・・・・・・・・・ひょ・・・・ひょっとして・・・お兄ちゃん?」 ハトが豆鉄砲食らったどころの話では無い。完全に放心してしまっている聡(さとり)だった。 「そ、そうだよ!」 「きゃあああああ〜っ!」 また悲鳴が響き渡る。 冗談じゃない、そんな大声を上げて母さんが来たらどうするんだ!静かにしろ!と、注意し様としたその瞬間だった! 「綺麗ー!」 嬌声を上げて飛び掛ってくるキュロットスカート姿の妹。 「うわわっ!」 よける間もなく思いっきり抱き付かれてしまう。 ほんの少し露出したウェディングドレスの胸の谷間に思いっきり顔を埋めてくる。 「☆!△■★!?!?っ!」 複合的に襲ってくるこれまでにない感触の波状攻撃に言葉にならない歩(あゆみ)。 「きゃー!すごーい!ホントの花嫁さんだぁ〜!」 もう飛び上がらんばかりの喜び様である。なんだか怒りが突き崩されてしまったみたいだ。 「あ、おい・・・よせよ」 きゅうっ!と細く締め付けられ美しいウェストラインの浮き上がった腰回りに抱きつかれた窮屈な歩(あゆみ)は何とか引き剥がそうとする。 「きゃーきゃーきゃーきゃー!」 つるつるぺたぺたと全身を触るまくる妹。 しゅるるっ!しゅるしゅるしゅるっ!とサテンが音を立てる。 「すごーい・・・綺麗・・・」 ぽ〜っとしている聡(さとり)。 「と、とにかくだ・・・すぐに戻して」 ふっ!と顔を上げる聡(さとり)。 「な、なんだよ・・・」 目がキラキラしている。 「お兄ちゃん・・・お化粧してる・・・」 急に言われてドキッ!とする歩(あゆみ)。 た、確かにそうだ・・・。 「お兄ちゃん・・・とっても綺麗だよ・・・」 まっすぐに目を見て言われ、胸がきゅんとなった。 |
第155回(2003.2.3.) 「と、とにかく!すぐに戻してくれえっ!」 やけになって大声を上げた。 「??でも・・・お兄ちゃん・・・どうやってこんなの手に入れたの?」 手袋に包まれた両手を握りながら言う。 「知るか!こっちは何もしてねーよ!」 「え?じゃあ・・・」 「そうだよ!電車の中でぼさーっと立ってたらこうなったんだ!」 一瞬の間。 「うそー!」 天井が吹き飛びそうな声だった。 「た、頼むから静かにしてくれよ!母さんが来ちゃうよ!」 何故かブーケを大事に持った花嫁が紅い唇を広げて懇願する。 はっ!として背後を振り返る。 なんてこった!ドアが開けっ放しじゃないか! その瞬間、六畳間の床を覆い尽くしているスカートをひょい、と飛び越えて聡(さとり)がドアに向かって飛んでいく。 「あ・・・」 あうんの呼吸だった。 部屋の真中にいながらスカートの末端はまだ階段を引きずっていたのだが、それを地引網を引く様に身軽なキュロットスカート姿の少女がずるずると部屋の中に回収する。 バタン!と閉められるドア。 「あ、ありが・・・と・・・」 感謝するいわれは無いのだが、とりあえず言ってしまう。 迂闊に身体を動かすと、それにともなって動くスカートを操るのに大変な苦労をすることになっるので、身体を捻って顔だけ向けて言う歩(あゆみ)。 それが腰をきゅうっとひねった魅力的なポーズになってしまっていた・・・。 何しろたっぷり半径1メートルは床を覆い隠す圧倒的なスカートの量である。さしもの聡(さとり)も一旦離れてしまうと、特に後ろ側に回ると容易に近付く事が出来ない。 だが、ひるまずにスカートを持ち上げると、そのまま近寄ってくる。 「お、おい・・・」 そのスタイルは、結婚式場で花嫁の後ろでトレーンを持つ助手みたいだった。 「いいから、前に進んで」 可愛らしく言う聡(さとり)。 言われるままに部屋の更に奥に進もうと前を見たその時だった。 「っ!!」 そう、そこにはもう1人の、純白のウェディングドレスに身を包んだ美しい花嫁がいたのだ。 そこにはここ数日間にさんざん制服ファッションショーをさせられた全身鏡があったのだ。 |
第156回(2003.2.4.) またまた胸がきゅうん!となった。 大胆に露出した胸元。別人の様に変えられたメイク。大きく膨らんだ肩の丸み。きゅうっと引き締まった美しいウェストのライン。溜め息の出そうな可憐な刺繍の柄。そして大きく大きく広がった、艶やかな光沢を放つスカート・・・。 こ、これが・・・これが・・・俺・・・? な、なんて綺麗なんだろう・・・。 我ながら思った。 自分に思っていけない訳があるか。こちとら精神は健全な男子校生なのだ。 その映像の横に、ひょい、とこちらは見慣れた顔が出てくる。 「どお?」 勿論それは我が妹、聡(さとり)だった。 「綺麗でしょ?」 「あ・・・その・・・」 ここで認めてしまって図に乗らせる訳にはいかない。 「と、とにかく元に」 「あれ〜?照れてるのかな?お兄ちゃん?」 「そ、そんなことねーよ!」 ひゅっ!と伸びた聡(さとり)の指が一瞬ヴェールを掻き分けてイヤリングをちりり、と揺らす。 「あ・・・」 敏感な耳たぶを刺激された歩(あゆみ)が思わず言ってしまう。 思わず顔を下げてしまう。 だがそこには純白の光沢の海が広がっているのだった。 少し沈黙が訪れる。 何から言えばいいんだろう?こんなことが出来るのは世界広しと言えども聡(さとり)以外にいるはずが無いのである。 ふと視線を上げるとそこにはニコニコ顔の聡(さとり)。 「とにかくその・・・」 言おうとしたその時だった。 「ちょっといいかな?」 笑顔を全く崩さずに小首を傾げ小悪魔。 「な、何を・・・」 「確かめたい事があるの」 「だから・・・何を?」 傍から見たら奇妙な会話に違いない。まるっきり普通の女の子の部屋の中にスカートを所在なげに積み上げた花嫁が鎮座しているのだから。 「見せてくれたら戻してあげる」 遂に“戻す”という言葉が出た。 「じゃあ・・・まあ・・・」 って何でこっちがもじもじしてるんだよ!と思ったけども仕方が無い。承諾する。 「ありがとお兄ちゃん」 言うが早いがその場にしゃがみこむ聡(さとり)。 「え?」 |
第157回(2003.2.5.) 次の瞬間には壮大なスカートが持ち上げられた。 「さ、さとりぃっ!?」 構わず中にごそごそ入り込もうとするでは無いか! 「な、何やってんだよ!」 裏声・・・ってもう声も女になっちゃってるんだけど・・・が出てしまう。 「いーからいーから」 “いーから”ってそれはお前がだろうが!と喉まで出かかるんだけどその前にストッキングごしに脚を触られる感触が伝わってきた。 「っ!?!」 背筋に色んな物が走り抜ける。 ま、まさか聡(さとり)の奴、女の大事な所にイタズラをする気なんじゃ・・・。 下手に動くと転んでしまう、巨大な拘束具を着せられているみたいなものなのだが、いざとなれば何が何でも抵抗するしかない。 ふぁさ・・・とスカートがさげられた。 聡(さとり)はスカートの中にすっぽり入ってしまったのだ! 「お、おいぃっ!!」 素っ頓狂な声を上げてしまう。 そ、そんな・・・は、恥ずかしい・・・。 これっておかしいのかな?いや、でも男であっても相手が妹だろうと下着を直接至近距離で見られるのは恥ずかしいに決まってる・・・ってもう何が何だか分からない。 ざらざらのストッキングの脚の間に無理矢理入ってくる身体。 「うわあああっ!な、何やってんあぢょ!」 もう呂律が回っていない。 と、秘密の洞窟から抜け出すように顔を出す聡(さとり)。 「いやー!ゴメンゴメン。あたしって一回ウェディングドレスの中にすっぽり入ってみたかったのよ」 「な、なんじゃそりゃ!」 そう言うしかない。どんな願望だそりゃ。 「あー、でもあったわやっぱり」 「な、何が?」 「サムシングブルー」 「へ?」 「知らない?サムシングブルー」 「知らんよ」 「花嫁が身につけていると幸せになる四つのアイテムの内の1つよ。ブルーは“目立たない所”に身につけるのがポイントなの」 「何を言ってんの?」 「だからさあ、ガーターが青かったの」 そ、そんなしょーもない・・・。 と、背後にかがみこむ聡(さとり)。それはさっき歩(あゆみ)が踏み込んできた時に寝転がっていたあたりだ。 「これよこれ」 「あっ!」 花嫁は声を上げた。 そのブライダル雑誌のページには、今まさに鏡に映っている・・・ということは歩(あゆみ)が身に纏っているドレスが掲載されていたのだ。 |
第158回(2003.2.6.) こ、これか・・・。 歩(あゆみ)の頭の中で全てがリンクした。 「あのさあ聡(さとり)・・・」 その女声を気にしながらも言う歩(あゆみ)。 「みたいね」 えへ!と舌を出す聡(さとり)。 そうなのである。お互いが言葉にしなくても分かっていた。 この兄妹に与えられた“お互いを性転換&異性装できる”能力は、相手との距離が殆ど・・・いや、全く関係無いらしいことがこれで分かったのだ! そして、それほど強烈に相手を性転換させよう!と思わなくてもなってしまう場合があるということも・・・。 「ね、教えて教えて!」 「・・・何を」 「電車の中でこうなっちゃったんでしょ?」 しゅるっ!とスカートを撫でる。 「・・・」 「どうやって帰ってきたの?」 お前・・・その為にどれだけ苦労したことか・・・。 「・・・それもいいんだけどとにかく戻してくれよ。話はそれからだ」 「いやっ!!」 「い、いやぁ・・・!?」 「だって勿体無いじゃない!折角こんなに綺麗な花嫁さんになったのに・・・」 「てゆーことはお前、まさか・・・」 「うん」 にっこにこで頷く妹。可愛い。 「いつかやってもらおうとは思ってたの」 だろうな、雑誌まで買いこんで研究してたんだから。 「それでそんなことばかり考えてたのか」 「えへへー」 「まあその・・・言うまでも無いけど、もう今後一切こんなのはゴメンだからな!お前男が突然電車の中でこんなになってみろよ!駅中パニックだったんだぞ!」 「きゃー!すごーい!」 いや、そういう喜び方をされても困るんだが・・・。 「だから・・教室とかでこんなことになったら困るからさあ」 考えたくも無い悪夢である。他人ばかりが寄せ集まった電車の中だからあの程度(?)のパニックで済んだが、もしもこれが友人知人が群れをなしている教室で起こったりしたら・・・。 「じゃあちょっとお願い聞いてよ」 おねだりモード発動である。 こちとら17年間これに付き合ってきたので・・・弱い事は弱いんだよなあ・・・。 「あたしを花婿さんにして!」 |
第159回(2003.2.7.) 歩(あゆみ)は耳を疑った。 「・・・?何だって?」 「だからぁ!あたしを花婿さんにしてよ!」 混乱した。 「ど、どうして・・・?」 「だって・・・お嫁さんの相手が女の子じゃ変じゃない」 いや、だからその前提がそもそも違うんだけど・・・。 「・・・ひょっとして結婚式ごっこする気だろ?」 「当たり!」 「やだ!」 歩(あゆみ)は拒否した。 「何でよぉ〜!折角なんだし・・・」 何が“折角”だ!冗談じゃない! 「花嫁役なんてやだよ!お前だって男役なんてやだろーが!」 「全然」 けろりとして言う聡(さとり)。 「いいから戻してくれよ〜!頼むよ〜!」 そういってスカートを掴む。もう泣きが入っている。 「ふ〜ん、いいのかな〜教室でお嫁さんになっちゃっても・・・」 「て、てめえ・・・」 「てゆーか今日も戻れないよ〜」 「うう・・・じゃ、じゃあこっちもお前を男にしてやる!」 こんな兄妹喧嘩は世界中探してもこの二人だけだろう。 「あたしは別にいいも〜ん」 確かにこいつなら気にしないだろう。 「ねえねえ!いいじゃないよ〜!へるもんじゃなし〜!」 ・・・この部屋に入ってくる頃にはどうやって厳しく叱ろうかと考えていた気がするんだけど・・・なんだか結局いつものペースになってしまっている・・・。 その時、ボディスーツで締め付けれられていた乳房がむぎゅ!と更に締め付けられた。同時にドレスの胸の開きがちょっぴり広がる。 「・・・っやん!」 思わず声が出てしまっていた。 かあっ!と赤くなる初々しい花嫁。 「どうする〜?」 「わ、分かったよ!もう!」 「きゃー!うれしー!ありがとお兄ちゃん!」 また抱き付いて来る妹。 |
第160回(2003.2.8.) 何だか妙なことになってしまった。 「じゃあ・・・何か資料あるか?」 「えーとね、ちょっと待って」 ぺらぺらと先ほどの結婚情報誌をめくっている聡(さとり)。 「じゃあ!これで!」 そこには二枚目の男が黒い衣装に身を包んでいる写真が・・・ページのかなり隅っこの方に載っている。結婚情報誌での男の扱いなんてこんなもんなんだろう。 その男の「婚礼衣装」がオシャレなものなのかどうかは歩(あゆみ)には分からない。言われるままに着せてやるだけである。 「じゃあ・・・」 ドキドキしてる聡(さとり)が目をつぶる。 と、キュロットスカートがグングングンっ!とその生地の面積を拡大し、健康的な脚線美を覆い隠して行く。 腰回りにはベルトが出現し、無骨にそしてダブダブになる。 「おおお〜」 面白がっている聡(さとり)の茶化した声がする。 特徴のない無地のシャツは白いシャツと黒いスーツに変貌して行く。 聡(さとり)の能力はまず歩(あゆみ)の身体を女に変えてから服を変えるが、歩(あゆみ)のそれはまず聡(さとり)の服を変えてから身体を変えることになる。 どうしてそういうことになっているのか良く分からないが、とにかくそうなっているのだから仕方が無い。神の気まぐれという奴なのだろう。 スーツの背中側が膝の裏側にまで達する。 そして前側はお腹までの長さになる。燕尾服という奴である。 黒くて大きな襟が決まっている。そしてその首元に黒い蝶ネクタイが出現した。 全く問題無い花婿ぶりである。 その身体が発育のいい女子高生のものであることを除けば。 「おお〜。これは凄いや、格好いいね」 手の先が袖から出るぎりぎりである。そのスタイルにあってはならない胸の膨らみや、てんでサイズの合っていないダブダブの見かけが逆に凶悪な可愛らしさである。 「じゃあ・・・行くぞ」 花嫁は言った。 |