おかしなふたり 連載21〜30

第21回(2002.9.22.)
 しかし、都合よく能力が補完されるというのがどうも・・・
 まあ現実なんだから受け入れるしかない。現に今、こうして少女に変えられ、メイドとして働かされているではないか。
 恐らく細かいディティールなどは知っている方がよりいいのだろう。それこそこの髪飾りも知識があれば違うデザインにするとか。
「よし!と」
 ぴっ!ぴっ!と手を振り回してしぶきを切る歩(あゆみ)。
 ごく自然にエプロンで手を拭う。
 今ならあの聡(さとり)もいないし・・・。
 ちょっと邪な好奇心を覗かせる幼い家政婦。
 パニエで膨らんだスカートを見下ろす。
 何だかドキドキする。
 いやその・・・どうなっているか興味があるだけで・・・
 パタパタと部屋に向かう。
 そして自分の部屋にある小さな鏡をひょい、と摘み上げる。
 顔とその回りしか映らない程度の大きさであるが、今の自分の顔を確認することは出来た。
 ・・・可愛い・・・よな。
 目をつぶる。
 そして、目を開けるとそこにはパジャマ姿の男子校生がいたのだった・・・。

「いただきまーす」
 一家四人が声を揃える。
 城嶋家勢ぞろいである。
 一家の大黒柱・・・城嶋智明(43)。
 ごく普通のサラリーマンである。事務職らしい。稼ぎも普通で、中流家庭というところ。痩せても太ってもおらず、顔も平均だと思う。“女の子は父親に似る”というが、聡(さとり)に確かに似ているところがある。
 専業主婦・・・城嶋綾(40)。
 共稼ぎが多い中、城嶋家の母親は家庭に収まっていた。しかし暇を持て余すことなく、裁縫教室やらママさんコーラスなどに積極的に参加している。
 でもってそこに長男・歩(あゆみ)と長女・聡(さとり)がいる訳だ。
 ご多分に漏れず、城嶋家でも食事時にテレビは付けっぱなしである。7時のニュースが終わり、画面はバラエティ番組にシフトしている。
 この位の年頃の娘は父親を避けそうなもんだが、聡(さとり)はそんなことは無かった。共通の話題はそれほど無いのだが、結構仲良くやっている。

 そして・・・この両親は自分の息子・娘がお互いを性転換&異性装してしまう能力を持っていることなど全く知る由もなかった。



第22回(2002.9.23.)
 両親に限らない。兄・歩(あゆみ)、妹・聡(さとり)のどちらの友達も、勿論学校関係者も誰もこの2人の秘密は知らない。
 まあ、説明したところで納得して貰えるとも思えないのだが。
 歩(あゆみ)は17歳の高校2年生。年子の聡(さとり)は16歳の高校1年生である。2人は同じ共学高校に通っている。
 それにしても・・・
 いつもと変わらぬ様子でおかずをパクつきながら妹を見る。
 視線に気付いた聡(さとり)が嬉しそうににっこりする。
 何やら気恥ずかしくなって視線をそらす歩(あゆみ)。
 相変わらず聡(さとり)はにこにこだ。
 ・・・どうも妹の方が完全に主導権を握っている感じだ。
 それはそうだろう。
 歩(あゆみ)は常に思っていたんだが、この能力って一応お互いに全く平等に見えるけど、女の側の方が圧倒的に優位じゃないか。
 こちらが女である聡(さとり)を男にする。
 あっちが男である歩(あゆみ)を女にする。
 ・・・女にされた方がより弱くなっちゃってるじゃん。
 しかもその・・・形式的には“女装”させられている訳で、それを相手の意思に関わらず強要出来る、というのはもう精神的に完全に支配しているも同様である。
 「あたしに逆らったら女の子にしちゃうぞ!」
 という訳だ。
 何と恐ろしいことだろう。
 勿論、そこまで露骨に言われたことは無いのだが、それにしても男にとってはある種“みっともない”姿である女装姿を何度と無く見られている上に、そのイニシアチブを完全に握っているとなれば精神的に優位に立てるのも当然だ。
 もしも妹の男への変身能力を、妹自ら持っていたとしたら・・・と考えるとぞっとする。一体どんなことをされるのか・・・
 でも実際にはそれに近い。
 聡(さとり)が男に「変身」したい時は、当然歩(あゆみ)に「依頼」することになるのだが、「逆らう」のは難しい。
 そして、実際にしてやると「お返し」とばかりにこちらが性転換されてしまう。今朝のメイド姿がいい例だ。
 それでいてこちらは「元に戻す」のが上手くないから・・・
 ええーい!考えていても仕方が無い。
 歩は食事を切り上げた。


第23回(2002.9.24.)
 この能力において、「性転換」と「異性装」は別段階の能力であると考えられる。
 と、言う事は「どちらか」を行う事は不可能では無いはずである。
 つまり、兄が男であるところに「服だけ」女に変えてしまう、とか妹が女の時に中身だけ男に変えてしまったりである。逆の場合は・・・女に変身させられているところに服だけ男に戻されたり、女であるところに服だけ男物に変えられたり・・・は、まあ問題が少ない。
 これは完全に「女装強要」である。
 が、実際にはこれは起こらない。
 理不尽なことの多いこの能力の中でも、この特質だけは有難い。
 サイズの問題なのだろうか、この能力においては
「身体女、服装男」
 状態は出来ても
「身体男、服装女」
 状態は現出しないのである。
 そして「戻る」時も同時に戻る。
 ・・・まあ、ひょっとしたらやろうと思えば出来るのかも知れない。しかしこれはお互いにやったことは無いのだ。少なくとも歩(あゆみ)は相手の姿を意に添わずに変えてしまうのは好きじゃない。

 それにしても・・・世界で最も奇妙な兄妹であることは間違い無いだろう。どうしてこんな能力が備わってしまったのか。
 これは生まれつきの能力では無い。
 もしそうなら、それぞれが男になったり女になったりするのがもう「当たり前」のことで、周囲の人がそれが出来ないことの方が「ヘン」だと感じるに違いない。
 ものの本によると超能力者の人は、周囲が「超能力が使えない」ことに気が付いてやっと能力を自覚するなんて言うけども、それと似たような物だ。
 そう、これは成長し、ある程度の人生を生きたところである日突然備わった・・・いや、「気が付いた」能力なのである。
 今、考えてみるとその兆候は明らかにあったのである。
 それは・・・ある日の教室でのことだった・・・。


第24回(2002.9.25.)
「うーん、むにゃむにゃ」
 ベタな台詞を言いながら目を覚ます歩(あゆみ)。
 ここは教室、うららかな・・・夏の日である。
 もうそろそろ夏休みという高校2年生の日、気候は不思議と暑すぎず寒すぎず最高の日よりだった。
 ・・・健康な男子校生・・・というか成長期の高校生にこれで寝るなというのは水を流したら自然に上に向かって流れろと言うに等しい。
 ふう・・・
 もう5時間目か・・・
 教科書を出し、惰性で授業の用意をする歩(あゆみ)。
 周囲も似たようなものだった。
 そして退屈な授業が始まる。この日は4時間目が体育であったところに持って来て5時間目は数学だった。
 これはもう授業というより嫌がらせというか不眠症の治療ではないのか。
 だが、その平穏はたった1人破られることになる。
「・・・?」
 歩(あゆみ)は身体に違和感を感じた。
 ・・・何だろう?胸がちくちくする・・・
 だが、それは次の瞬間にはそれどころではなくなっていた。
「・・・あ・・?・・・ん?」
 胸がぎゅうぎゅうと何かに押し付けられている様な感触がする。具体的には胸の前にそれぞれ風船を取り付けてそのまま膨らませているみたいな感じである。
 ブレザーの胸が、まるで発育のいい女子生徒のように膨らんできているではないか!
「・・・・・・!!!???!!?!?!?」
イラスト:東条さかな さま


 叫びださなかったのは偶然でしかない。あまりの突飛な光景に全てが吹っ飛んでしまったのだ。
 1拍間を置いて、その後突然ガタン!と立ち上がった。
 その音にクラス全員が振り返る。
 寝入りばなを直撃されて「ぎゃっ!」などと声を上げているのもいる。
 そして、その音の主は風の様に机の合間をすり抜けて教室を脱出していた。


第25回(2002.9.26.)
 全ての認識は後からついてきた。
 今目の前にあるのはくたびれたトイレの壁と、自らの荒い息遣いだけである。
 心臓は早鐘の様に鳴り、全身が心臓と同期して脈動していた。
 ここに来るまでに走っている途中、揺れる胸のゆっさゆっさという感触も、自然と内股になってしまう仕草も、全ては夢だ。夢に違いない。あんまり過ごしやすい陽気なんで白昼夢を見たんだよ、きっと。
 重くって仕方が無いし・・・その・・・たまらず両手で胸を抱える様にして走った・・・ことなんて作り話だよ。あはははは・・・。
 必死に呼吸を整えようとする。
 あんまり激しい息遣いが続いたので気分が悪くなってきた。
「・・・」
 ごくり、と唾を飲む。
 自分の顔のすぐ下。そこで起こっている天変地異を確かめるべく、歩(あゆみ)は思い切って見下ろした!
 ・・・。
「・・・・・・」
 そこには何の変哲もないぺったんこな胸があるだけだった。
 ぺた・・・ぺたぺた。パンパン!と触ってみるが、特に何と言うことも無い。
 ・・・なんだ?何なんだ今のは?
 本当に白昼夢?
 でも・・・そうだよ。確かに実感があった。
 その・・お、おっぱい・・・の。
 その言葉を頭の中で思い浮かべたとたんにかぁっと顔が赤くなった。ゆっさゆっさと揺れる手の中の乳房の感覚が蘇ってくる。
 どきどき。
 でも・・・確かにそこはぺったんこだった。
 そして次には授業の真っ最中に突然飛び出したことに対してどうやって言い訳し様か考えていた・・・


第26回(2002.9.27.)
 そしてまたある日のこと・・・。
「ん・・・」
 ぱちっ!と目を開ける歩(あゆみ)。
 真っ暗な中、天井が見えている。
 成長期の男の子・・・に限らないのかも知れないが・・・は、こうして真夜中に突然目が覚めることがある。しかも何のきっかけなのかさっぱり分からなかったりする。
 特に外的刺激を与えられたという訳でもない。金縛りに遭っている訳でも・・・勿論無い。
 が、その時ははっきりと異常を感じた。
 ・・・?何だか首回りがちくちくする?
 耳とか、顔の一部もだ。何だコリャ?
 歩(あゆみ)は思い切ってがばり、と上半身を起こした。
「・・・・・・?・・・えええっ!?」
 教室内と違って同じ部屋に誰もいなかったせいなのか、憚ることなく大声を上げる歩(あゆみ)。
 もしもこの光景を暗闇の中で目撃した人間がいたらその恐怖におののいたことだろう。その姿はさなかがら妖怪変化の類だった。
 歩(あゆみ)の男子校生としては常識的な髪型の面影は微塵も無く、美しいセミロングの髪が流れ落ちていたのだ。
「わわわわわっ!な、な・・・!?!?」
 頭をぐしゃぐしゃにしたり引っ張ったり色々やる歩(あゆみ)。
「か、髪が・・・」
 前髪に視界をふさがれる。そのさらさらした肌触りがなんともうっとうしい。
 どんなに引っ張ってもそのカツラはとれることが無かった。
「!?!?」
 もう言葉にならなかった。
 気が付くと暗闇の中を疾走し、二階にも取り付けられている洗面所に突入していた。
 勢い余って電気を付けまくった反動で、そのビジュアルは余韻も何も無くいきなり目に飛び込んできた。
 その鏡には、青いチェックのパジャマに身を包んだ自分・・・が、まるで女の子みたいな長い長い、綺麗な髪をたらしていたのだ!
 そこで記憶が途切れた。


第27回(2002.9.28.)

 気が付くと歩(あゆみ)はベッドに寝ていた。
 寝ていた自分に気が付いた瞬間、雷に打たれた様に跳ね起きる歩(あゆみ)。だが、覚悟していた物体はそこには無かった。
「・・・」
 頭を触る歩(あゆみ)。
 もうこの時点で昨日の晩のことが夢だったことは分かっていた。頭にのしかかる髪の重さを感じないのだから。
 証拠が無い以上、何を言ってもそれは夢でしかあり得ない。
 あれは・・・あれは一体なんだったんだろう?
 数日前の教室での体験が蘇る。
 まさか・・・自分は女の子になっちゃうんじゃ・・・?
 訳の分からない現象に底知れぬ恐怖が沸き起こってくる。だが、どれもほんの一瞬しか確認出来ない白昼夢の域を出ていない。
 歩(あゆみ)はそれを忘れようと必死になった。
 こんなこと、誰にも相談できるわけが無い。両親や口うるさい妹はもとより、友人知人にも絶対の秘密だった。もしも言い出したとしてもそのまま妙な人間扱いされるのがオチだっただろう。
 そして、それが悪夢の序章だったのだ。それらの現象の根本が、解明されたのである。
 それは、ある日のことだった・・・。



「お兄ちゃん!」
 ドアを少し開けて聡(さとり)が顔を一部覗かせている。
 メンド臭そうに振り返る兄・歩(あゆみ)。勉強中であったらしい。
「ん?」
「ねえ。ちょっと来てよ」
「何だよ・・・」
 こーゆー時のこの妹の誘いはロクなものであった試しが無い。
 天然ボケだか何なんだか、しょーもないエロネタみたいなのをカマしてくるのだ。
「いいからいいから!イイ思い出来るよ!」
 怪しい客引きかってーの。
「・・・しょーがねーなー・・・」
「あ!ちょっと待って」
 誘っておきながら制止する聡(さとり)。
「あたしが先に部屋に入るからぁ。それから入ってきて!」
「・・・ああ」
 擬似恋人ごっこなんだろうか。高校1年生にもなってこんな風に仲良くしてくれる妹なんて貴重なので友人には大層羨ましがられている。だが、妹は妹だ。性的興味の対象にはならない。
 まあ、ご多分に漏れず幼稚園の頃なんかは「大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになるの!」なんて言っていたもんだ。・・・しかし未だにそれを引きずっているというのもどうか。
 仕方ないので少し待って廊下に出る。
 城嶋家では兄・妹ともに個室が与えられていた。
「さとりー。入るぞー」
「いいよ。でもねえ・・・」
 ドアの向こうで声をひそめる妹。
「何だよ」
「目ぇつぶって入ってきてくれる?」
 何だそりゃ。アホくさ。
 ・・・まあ、毒くわば皿までだ。
 目をつぶって部屋に入る歩。
「これでいいのか?」
「うん・・・。じゃあ目を開けていいよ」
 歩はパチっ!と目を開けた。


第28回(2002.9.29.)
「じゃっじゃーん!・・・どお?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 そこには紺色のセーラー服に身を包んだ聡(さとり)がいた。
「可愛いでしょ?」
 この兄妹は同じ高校に通っているのだが、そこの制服はブレザーだった。つまり、この衣装は物好きの妹が純粋に調達してきた“コスプレ衣装”なのである。
「・・・何だよ・・・それ」
 すっかり引いている歩(あゆみ)。
「いや・・・だからセーラー服」
「見れば分かる」
「えーと・・・水兵さん」
「誰が言い直せと言ったか」
「いや、今度の文化祭の劇で使うから買ってきたの」
「へー」
「ブルセラショップで」
「ハァ?」
「うそ。制服屋さんで」
「驚かすな」
「いやー、何だかドキドキしちゃった」
「何でだよ。女なんだからいいじゃん」
「えー、でも通ってない学校の制服だし」
 何が嬉しいのか常にニコニコしながら話す聡。
「これって中学の制服なんだ」
「ふーん」
「ねえ、お兄ちゃんが制服屋の店員さんでさぁ」
「ふん」
「女子高生が中学の制服買いに来たらどう思う?」
「どう思うって・・・文化祭で使うんだろ?」
「うん」
「いいんじゃねえの。別に」
「でもさあ・・・」
「何だよ」
「普通季節はずれに制服買いに来るのって男の人じゃない?」
「お前の『普通』は一体どこに基準を置いとるんだ」
「なーんだ。つまんないの」
「何が“なーんだ”だ」
「じゃあ、とりあえずあたしで我慢して」
「・・・何を?」
「いや・・・お兄ちゃんも男の子だからセーラー服好きかなと思って」
「だからお前はその訳の分からん男性観止めろよ!」
「ふん・・・じゃあ次お兄ちゃんね」
 といってセーラー服を脱ぎ始める。
「おい!ちょっと待て!」
「は?」
 脱ぐのをやめる聡(さとり)。


第29回(2002.9.30.)

「何で次が俺なんだよ」
「だってこれって劇で使う女装用の衣装だもん」
「じゃあ何でお前が着てるんだよ!」
「いや・・・どうせなら女子高生の脱ぎたての方がいいかな、とか」
 軽くぺし!と頭をしばく歩。別に兄妹で暴力が横行している訳では無い。よくあるボケツッコミである。これはしょっちゅうでむしろ仲がいい証拠なのだ。実際、聡(さとり)は嬉しそうに叩かれている。
「で?いつ着るの」
「着ねーよ!」
 しばし沈黙。
「・・・そうなの?」
「何で俺がセーラー服着なくちゃならんのだ」
「いや、やっぱり女装は制服から」
 またしばく歩(あゆみ)。ハリセンが欲しい。
「じゃあ俺は行くぞ」
 ・・・じいっと歩を見詰めている聡(さとり)。
「何だよ」
「いや、何でもない」
「おかしな奴だな」
 歩(あゆみ)が振り返ろうとしたその時だった。
「・・・?」
 違和感を感じた。それは傍観者の聡(さとり)にもはっきりと分かる反応だった。
「どしたのお兄ちゃん?」
「いやその・・・」
 その額には脂汗が浮かんでいた。緊急事態に顔色が見る見る悪くなる。
「どうしたの?ねえどうしたのよ?」
 たまらず駆け寄ってくる聡(さとり)。
「う、うるさい!」
 跳ね除ける歩(あゆみ)。その時だった。
「・・・っ!あっ!」
 ビクン!と歩(あゆみ)の表情が悩ましく歪み、背中が反り返る。
「きゃ!」
 珍しくしおらしい聡(さとり)が驚きのあまり声を上げ、両手を口に当ててしまう。
 聡(さとり)の目にははっきりとそれが映っていた。兄、歩(あゆみ)のその胸がふっくらと膨らんでいるのが・・・
 その場に呆然と立ち尽くしている歩(あゆみ)。
 見下ろすその胸は明らかにツンと上を向いた形のいい乳房が内側から突き上げていた。
「あ・・・あああ・・・」
「お、お兄・・・ちゃん」
「そ、そんな・・・」
 無理矢理ひしゃげる様にその脚が内股に曲がっていく。
「あ・・・ああんっ!」
 頬を紅潮させ、不本意な声が出てしまう歩(あゆみ)。
 そのお尻がぐぐぐ・・・と大きくなり、比例してウェストが細くなっていく。身長が一回りも小さくなり、まるっこくて可愛らしい身体つきに変化していく。
「そんな・・・お兄ちゃんが・・・女の子に・・・」
 へなへなとその場に崩れ落ちてしまう。それは正座から膝を外側に曲げた“女の子座り”だった。

第30回(2002.10.1.)
 縮まった頭身にそのきょろっとした瞳・・・歩(あゆみ)は一瞬にして美少女へと変貌してしまった。
「な・・・何だ・・・!?」
 と言って、そこで声がつまる。天使の様なその声に自分でびっくりしたのだ。
「か・・・可愛い・・・」
 相変わらず驚くポイントがずれている聡(さとり)。
「そんな・・・一体・・・何が・・・起こった・・・んだ?」
 自分の変わり果てた姿を見て呟く歩(あゆみ)そりゃそう言いたくもなる。
 もしかしてこれって・・・最近のあの現象が・・・?
「お、お兄ちゃん・・・」
 何故かほんのり頬を蒸気させて目の前に迫る聡(さとり)。
「さ、さとり・・・」
 もう泣きそうになっている歩(あゆみ)。ぷっくりふくれたほっぺが犯罪的に可愛らしい。
「ひょっとして・・・」
 この超常現象に同じく呆然としながらも、聡(さとり)が口を開いた。
「あたしが・・・あたしが、“お兄ちゃんが女の子になればいいのに”って思ったから・・・」
「ハァ?」
 そんな馬鹿な話があるか!思っただけで相手の姿が変わってしまうなんて。
「じゃ、じゃあさあ」
 もうショックから立ち直っているみたいに見えるセーラー服コスプレ中の妹。
「ひょっとしてその・・・あたしが思った風になるってことだよねえ」
「いやその・・・」
 どうしてそんな無茶な前提に何の疑問も抱かないのかそっちの方が気になる。
 目の前に同じくスカートを広げて座り込み、目を見ている聡(さとり)。
「じゃあ・・・もしかしてその・・・着てる服が“セーラー服になれーっ!”とか思ったら実際なったりとか・・・」