俺達は互いに相手を見合っていた。

少なくとも、相手も魔道士隊を倒したのは変なファッションだけじゃなく、実力も伴っていることは分かった。

加えて、この状況では黒魔術は使いにくい。

あれを使えば事態はあっという間に解決するのだが……あれはちょっと………。

「さて………そろそろ決着をつけようか?」

ギルディアと呼ばれた男は腰に下げているショートソードを抜いた。

「白兵戦でも負ける気はないぞ」

俺は手に持っている銀の杖を構えた。

無論、いつでも白兵戦でも魔術でもどっちでも対応できるように。

「はあっ!!」

速い!!

奴はあのローブ姿からは想像できないほど速い動きで一気に詰めてきた。

どうやらあの姿で相当戦いなれているらしい………なんか…変に見えるが、凄いことには違いない。

キィン!!!

俺の杖と奴の剣がぶつかりあい甲高い音を立てた。

「ただの銀の杖と言うわけではなさそうだな」

「まあな」

「だが、そんなリーチの長い杖でいつまで戦えるかな!」

奴はショートソードで猛攻を繰り広げた。俺も何とか弾いてはいるが、いかんせんこの杖、長さは一m半以上二m未満の長さなので、接近戦には不向きであることは確かだった。

けど、俺だって何の考えなくこの杖を持っているわけじゃない。きちんとした理由が存在するのだ。

キィン!!!

今だ!!!

「雷撃(ボルト)!!」

「ぐうっ!!!!!!!」

さすがにこればっかりは防ぎようがないだろう。奴は俺の杖から流れた電流が自分の剣に伝わって感電した。俺は、感電しなかったけど。

一応、この杖見た目は銀なのだが全てが銀と言うわけではない。そう見えるようにメッキをしてもらっているのだ。

この杖、本物の銀は先から二十cmぐらいまでで、あとはオリハルコンと言う希少金属をふんだんに使った代物なのだ。

オリハルコンは、金より価値があり、何より、魔力を封じると言う能力も持ち、更に僅かしか採れないと言うことで価値を高めている。

俺は雷の魔術を杖の先端に起こし、奴を感電させたのだ。

それなりの実力者なら直接手からではなく、ほんの数十cmの範囲なら思った所に魔術を出せる。

しかし、これはかわされると全く意味が無く、確実性も低いので、ほとんどの魔道士はこれをやらないが、こういう使い方もある。

「さて…………」

俺はしびれて動けなくなっている奴の肩に杖の先端を乗せて話し掛けた。

「わかってるな。妙な真似をしたらどうなるか…………?」

月並みだが、この状況下ではこの台詞が一番役に立つ。

無論、俺はただの脅しでこんな台詞を吐いたわけではない。奴が変な行動を起こしたら、俺は迷わず奴を殺す。マルクス支部長からは退治してくれと言われたのであって、生かしたままなどと言う条件をつけられてはいない。

ここまで出来る実力者なら当たり前のことだが、奴は俺が本気なのを悟ってあっさり降伏した。

さて…後はティアだけだな。

 

「あんた…センスは悪いけどなかなかやるじゃない」

「あんたも魔道士隊の連中よりはよっぽど強いよ。こんな隠し玉がいたなんて驚いたわ」

互いに軽口を利いているが、互いに距離を取り合っている。彼女はレイピアを構え、ティアは俺より短い同じ杖を構えている。

白兵戦ではあちらの方が若干上のような気がした。ティアはどちらかと言うと、俺ほど杖を使っての戦い方は上手くない。

比べて、彼女の方はさっきのティアの魔術を威力はないとは言え、受けたのに全く動じなかった。彼女の方が明らかに場数を多く踏んでいた。

ティアも場数は多いと言えば多いが、所詮は野盗程度の相手、恐らく野盗以上の相手と戦うのはあの女が初めてだろう。

それに比べて、彼女はそれなりの腕の魔道士と戦ったことがあるのだろう。魔道士隊を全て倒したことから、そう考えて間違いはないだろう。おまけに彼女も多少なりとも魔術を使う。

前にも述べたことだが、本来なら彼女など『黒の支配者(エンペラー・ブラック)』の称号を持つティアにとって全く問題にならないのだが、街中だとその実力の半分も出せない。本気を出せば街が消えてなくなること請け合いである。

「さて……少し本気を出さないと勝てない相手のようね」

ティアの奴………。

ティアにそう言われて彼女の眉がピクッと動いたが、そんなことは問題ではなかった。

「ティア!!」

男から決して意識を離さずに、ティアの方を見て名前を思いっきり呼んで、念を押した。

「わかってる。少しだけよ………」

どうやら、あの声の調子なら充分に落ち着いているみたいだな。あれなら無茶はしないだろう。

「逃げなかったのか?」

俺は自分でも意地悪な質問をしたと思う。

ギルディアは吐き捨てるように

「そんな素振り見せたら有無を言わさず殺す気だっただろ?」

と言った。

男はきちんと自分の状況を理解しているみたいでありがたかった。

男と殺すことにはほとんど抵抗感はないが、さすがに多少は抵抗感がある。おまけに街中で死体を作りたくはなかった。

とにかく、ティアは今までより少し精神を高めて、彼女に向かい合っていた。

「今までは手を抜いていたってことかい?」

彼女の声に怒りが混じっていた。

「体術は本気だったけど、魔術は……ね」

「ほう………じゃあ、どんな魔術を見せてくれるのかしら?」

もうティアは女の言葉など聞いていなかった。彼女は気づいていないが、俺から見たらティアの雰囲気は明らかに変わっていた。

「気をつけろ!!ニーナ!!」

ギルディアの声にニーナと呼ばれた女は、ようやく……ティアの雰囲気が変わったことに気がついた。

俺は敢えて男が喋るのを止めなかった。

気づかないままティアと戦ったら、いくら力を制御しているティアでも彼女を殺してしまうから。

「不死鳥の吐息(フェニックス・ブレス)!!」

なっ………!!

ティアの手から、ギルディアが俺に放った『火竜の吐息(サラマンダー・ブレス)』などよりも遥かに強い炎がニーナに向かって飛んでいった。

呪文詠唱も無しにあの大技を放つなんて…。

以前から、ティアの黒魔術の並々ならぬ才能は理解しているつもりだったが、まだまだ全然理解できていないことを思い知らされた。

ティアのあの術は火炎系の術の中ではかなり高位のもので、普通の魔道士ならきちんとした呪文詠唱無しで使える代物ではない。

それを呪文詠唱無しで使ったティアに俺は驚いた。

そして、俺が驚いたと言うことは……無論、彼女も驚いたはずだ。

「なっ!!」

呪文詠唱があったなら、防ぐ術や避ける術もあっただろう。

しかし、呪文詠唱が無く、何の術を使うか知る術が無かった今の彼女にあの術を防いだり、避けられるはずが無かった。彼女はあの術の直撃を受けるしかなかった。

いっそのこと始末する気なのか……ティア。

「頼む!!あいつはまだ幼い!!助けてやってくれ!!!!」

ギルディアの嘆願を聞きたいのはやまやまだったが、炎を操っているのはティアで、その炎は容赦なく、彼女へ向かって行った。
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