しかし………………

「ねえ、この子供達は何なの?」

「……聞かないでくれ」

一応、場所を聞いて魔道士連盟を出てきたのだが、あの子供達も一緒に着いてきてしまったのだ。

「あ…あのなあ………俺達、これからお仕事だから魔術の講義ならまた今度な」

「僕たちもお手伝いする!!」

「いや……でも…危ないからね」

「邪魔なの?」

邪魔だ!、とはっきり言いたい所なのだが、子供相手にそんな辛辣の言葉を掛けるのはあまりに酷だ。

俺も…大人になったものだな………。

「ねえ、あれのことじゃないの?」

「えっ?」

確かに、ここからでははっきりと見えないが、前方で煙が上がっている。

「悪いが、子供はここまでだ。ここからはプロの仕事だ」

「………………………」

ん……急に静かになったな?

子供の方を見ると、てっきり怒りの視線をぶつけてくるかと思ったが、それとは全く正反対の視線をぶつけていた。

「どうやら、ヒュートのことを尊敬したみたいよ」

「そ……そうか…。だったら、大人しくしててくれ。いいな?」

『はい!!』

子供達は元気よく返事をした。

うむうむ。やっぱり子供はこれくらい正直じゃなくちゃ!!

これで一抹の不安も拭い去って、意気揚々と俺達は煙の上がっている方向へ行った。

 

『なっ…………………!』

俺達は思わず言葉を失った。恐らく、周りで見ている観衆達も同じ気持ちなのだろう。俺達と同じく震えていた。

「こ………これは……!」

「何てこと……」

相手は二人。

だが……俺達はその二人を見て、思わず震えてしまった。それだけの存在感をその二人は持っていた。

「何だ?あの二人?」

「大方、連盟が雇った魔道士達じゃないの?」

向こうも俺達のことに気づいて、こっちに歩いてきた。

俺達は、奴等が一歩一歩近づくと同時に、一歩一歩後ずさっていた。

「どうやら俺達の実力に気づいて恐れを成したようだな」

「そうそう。その方が利口よ。魔道士隊を倒した私達を相手にして命を落とす必要はないわ」

こ……こいつらが魔道士隊を……!?

だが、俺達はその実力よりもっと恐ろしいものをこの二人が持っていることに初めから気づかされていた。

それは俺達だけじゃなく、周りの観衆全員が気づいていた。

「お……お前達が魔道士隊を…!?」

俺は押し潰されそうな気迫の中、何とか声を出した。その気迫を跳ね返すために声が大きくなっていた。

「そうだ。悪いことは言わない。とっとと渡すものを渡してくれれば危害は加えない」

「渡すもの?」

一体…何を要求したんだ?

「一体……何のことだ!?」

「ほう………」

俺の一言で男の方はうっすらと笑みを浮かべた。

「知らない所を見ると、ここの支部長は俺達の要求を無視したようだな。魔道士隊を全滅させてもまだ懲りないと見えるな……」

この男の会話から分かることは、とにかくマルクス支部長に何かを要求したことと、他にも仲間がいること。この二つだけは確かだった。

「と…とにかく、一体支部長に何を要求したんだ!?」

「生け贄さ」

生け贄…これまた今時流行らないことを…。

「生け贄?」

「そうだ。生娘を三人、生け贄として要求したんだ」

「な…何のために?」

「それはお前に話す必要はない」

案外、口が堅い男らしい。

「へえ………」

仲間の女の方がまるで品定めをするようにティアに近づいていった。

「この娘も生娘そうね…。一人はこの娘でいいわね」

女がティアに手を伸ばした瞬間、ティアは引き攣った表情のまま思いっきり叫んだ。

「いやーーー!!!!!!!!!!!!」

「大人しくしな!」

「触らないで!!変態!!!!!」

あっ………………。

ティアが叫んだ瞬間、辺りの空気が一気に凍り付いた。今度は、女の方が震えを起こしていた。

「へ……変態…………?」

そう………俺達が恐怖していたのはそういうことだった。

つまり、あの魔道士が言ってたように、この二人は……格好そのものが変なのだ。

男の方は、金のローブなどと言う悪趣味極まりない代物を着て、更に腰に剣などを差しているから、不格好極まりない。

女の方は、手足をもろに露出していて、レオタードに何やらごちゃごちゃした装飾をつけていて、目元には仮面舞踏会で着けていそうな仮面をつけていた。

「お……俺達が…変態だと……?」

男の方は俺を見た。俺はただ頷くしかなかった。

俺が頷いたのを見て、二人組は更に落ち込んだ。

ただ服装が変で、それが相手の闘争心を薄れさせるためだけならばともかく、この二人はこの服に違和感など持っておらず、真面目なので尚更怖くて言い出せなかったのだ。

「ちょっと!私達の何処が変態なのよ!?」

「全てよ!!!」

うわ……言い切ったよ…。

あーあ、男の方は向こうですねちゃってるし、女の方は面と向かって言いきられ、放心しちゃってるよ………。

「見た所、あんた私と同い年ぐらいだと思うけど、女として恥ずかしいわ!!大体、そのレオタードにごちゃごちゃした飾りをつけてかわいいなんて思ってるんじゃないでしょうね!!?」

「うっ…………」

「ず……図星なの……?」

さすがのティアもこういう反応をされるとどうしていいかわからなくなるらしい。

「と……とにかく!!」

おお、復活したか。

「私達のセンスなんてどうでもいいのよ!今は生け贄を出すか出さないかってことが問題なのよ!!!」

「でも、センス悪いもん」

女の方は明らかに青筋を浮かべて怒りに震えていた。

「それに、私と同じ位の歳ならあんたも生娘なんでしょ?だったら、あんたが生け贄になりなさいよ!」

「そうか!」

男の方はティアの言葉に反応して女の方を見た。

「こら!ギルディア!仲間を生け贄にする気!?」

「じょ………冗談に決まってるだろ?」

妙に間が長かったな…さては、少し本気だったな、あの男。

「さて……とにかく、生け贄を出してもらおうか!!」

二人組の表情からさっきまでの余裕の色が消え、完全本気モードになっている。これで、こっちも多少はやりやすくなる。あの妙なファッションは確かに、こっちの戦闘意欲まで失せさせそうだから。

「悪いけど、こっちも仕事でな。あんた達を倒さないと礼金が出ないんだ」

「そんなファッションすること自体が犯罪だわ!!この場で成敗してあげる!!」

「やかましい!!!」

二人は同時にティアに向かって叫んだ。

連中が本気になったのを悟って、さっきまでの観衆はみんなこの場から離れていった。

「言っておくけど、私達も一応連盟から依頼を受けてここに来たってことは、魔道士隊の連中よりも強いってことだからね」

「ふん、あの張り合いの無い連中より強いことが我らより強いと言うことにはならないことを教えてあげるわ」

う〜む……確かに、構えはそこそこで実力があることは間違い無いんだが……やっぱりあの衣装で放心しているうちにやられてしまったように思えて仕方が無い。

「どうする?援護いるか?」

「いいわ。私、この趣味の悪い女を倒すからヒュートはその変なおっさんをお願い」

「変なおっさんとは何だ!!!」

……何か、喚いたようだが敢えて無視。

「さて………それじゃあ、始めようか」
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