「手前、何してんだ!!」

仲間が目の前で倒されるのを見て見張りの連中が俺の所へ駆け出してきた。

「ぎゃあっ!!」

「ぐあっ!!」

向かってくる連中の左胸に俺の投げたナイフが刺さって、その場に卒倒した。

「小物に用はない」

すると、店の中から次々と仲間が出てきた。

「何だ、あいつは?」

「確か賞金稼ぎのレイトって奴だぜ」

「一人で俺達に喧嘩売っているわけ?」

キラードールの面子が口々に俺を見て色々なことを言っていたが奥から一人の男が出てくると会話がぴたりと止まった。

「何だ、お前は?」

「お前がバルシェイドか……?」

俺が質問すると一瞬眉をひそめたが、また異常な笑みを浮かべて答えた。

「そうだ。俺がキラードールの頭領、バルシェイドだ。で、お前は誰だ?」

「俺はレイト。殺された相棒の敵討ちに来た」

「相棒?殺した奴なんてたくさんいすぎて、いちいち覚えてねえな」

バルシェイドの一言一言が俺の耳には非常に耳障りに聞こえた。

「まあいいさ。俺達に喧嘩売ってるってことだけは確かみたいだから」

「喧嘩?何を言っているんだ?」

俺はバルシェイドを真似て笑みを浮かべて言った。

「喧嘩じゃねえ……戦争を挑んでいるんだ」

すると、辺りが静まり返った。

「戦争……だと?」

「そうだ」

また沈黙が流れた。

そして………キラードールの面子の笑い声がその沈黙を破った。

「お前一人で戦争だ!?」

「いい冗談だぜ!!」

「ははははは!お前一人で何が出来る!?」

キラードールの面子は思い思いの言葉で俺を罵っているが、連中は笑っていて俺が何をしようとしているかに全く気づいていなかった。

「レイトとか言ったな!?お前一人が俺達に勝てるなどと思っているのか!?」

「…………」

俺はバルシェイドの言葉には答えずに、ひたすらあるものを小声で発し続けていた。

「覚えておけ!!この時代花はな!力を持つ奴だけがのし上がれるんだ!俺には自分自身の力と数と言う力がある!何もないお前が俺達に勝てるわけがないんだ!!」

「……力ならある」

俺は小声で一言そう言った。

「ほう……何があると言うんだ?」

「こう言う……力だ!!!」

俺は手を連中に向けて大声で言った。

「炎よ!!!」

「何っ!!?」

俺の言葉と同時に、連中の足元から灼熱の炎が上がった。

「くっ!?」

バルシェイドは何とかそれから抜け出したが、他のほとんどの仲間はそのまま焼け死んだ。

「貴様ぁ!!!」

バルシェイドはさっきまでの余裕ある表情とは裏腹に怒りの表情を露にして、さっきまでの余裕など微塵も感じさせなくなった。

「言ったはずだ!俺は貴様たちに戦争を挑んでいるとな!!」

「殺せ!!!」

バルシェイドの言葉に生き残った連中は俺目掛けて襲いかかってきたが、さっきの魔法の印象が強く、腰が引けていた。

一度、戦争を仕掛けると口にした以上、俺はこいつら全員を殺すつもりで挑んだ。

「ぐあっ!」

生き残った連中の悲鳴が町にこだまする。側に住んでいる人間は窓を少しだけ開けてこっそりとこの戦いの様子を見ていた。

「貴様ぁ!!俺を誰だと思っている!!」

バルシェイドは俺に向けてナイフを投げつけた。

キィン!キィン!

俺は冷静にそのナイフを俺の持っているナイフで弾き飛ばした。

「もらったぁ!!」

ナイフを弾いた直後、バルシェイドは俺の眼前まで詰め寄っていた。

「死ねぇ!!」

ヒュン!

バルシェイドのナイフは俺の喉元目指して……文字通り空を切った。

「お前が誰だろうとどうでもいい」

「!?」

俺は手で口を塞ぎ喉も度にナイフを突きつけた。

「お前が俺の相棒を殺した奴だということ以外はな」

そして、俺は喉元に突きつけていたナイフを横に滑らせ、バルシェイドの喉元を掻っ切った。

「ぐっ………!!」

バルシェイドはくぐもった声で短い悲鳴を上げて息絶えた。気がつくと、まだ生き残っているはずの残党はその場から姿を消していたが、わざわざそれを追いかけるつもりもなかった。

すると、死んだようになっていた町に再び活気が戻ってきた。バルシェイドの死を聞いた人々が一斉に外へ出てきたのだ。町はまた以前のように喧騒の耐えない賑やかな町になった。

しかし……帰ってこないものはどう望んでも帰ってくることはないのだ。

『世界はよ、思ったより広いぞ。それにこの町にあるものが他の町にないこともあるけど、ここにないことが他の町じゃ当たり前のようにあったりして面白いぜ』

『そんなに……面白いのか?』

『俺が保障する……って言ったら、信じてくれるか?』

『……ああ』

戦場となった場所に佇んでいる俺は、ジェスファと交わしたあの会話を思い出していた。

「世界か……それもいいかもしれない…」

この時、俺はこの町を出ることを決心した。ジェスファが俺に見せたかった世界というものを俺も見たくなった。二人一緒というのは叶わないことだが、相棒の遺志を尊重するのも悪くはない。

そして、バルシェイドの死に歓喜して犯罪者も賞金稼ぎも関係なく馬鹿騒ぎをしている町を俺は夜中のうちに出て行った。

相棒が俺に見せたかった世界を見るために……。
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