Episode5: 存在 〜自分探索〜
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ばっく    ねくすと







気がつけば俺は、どこともわからない草原にいた。
地平線が広がっていた。
誰も・・いない。
俺は大声で叫んでいた。
自分の存在を確かめたかったのだろう。
「うおぉぉぉぉぉぉぁぁぁ!!!」
誰にも届くはずのない、心の叫び。
静寂の大地で俺は独り。
独りぼっちだ。
孤独を愛していたはずなのに・・
孤独に怯えている。


夜になる。
無になる。
俺が消える。
恐怖という怪物が俺を喰らいに来る。
寒い・・怖い・・
感覚が麻痺して居場所がわからなくなると、
もう、怪物の食卓に置かれているんだ。
怪物はヨダレを滴らせ俺の存在を消そうとしてくる。
俺は抵抗できずに食べられた。


朝になる。
太陽は優しく照らしてくれる。
そして俺は蘇生する。
場面は変わっていた。
草原とは打って変わって、
コンクリートの部屋に俺はいた。
向かって左側の壁であっただろうという所は崩れていて、
そこから柔らかい光が部屋中を淡く包んでくれる。
俺は部屋の真ん中のアンティーク調の木製椅子に腰をかけていた。
うつむくと、足元の床だけ所々、何か滴でも滴り落ちたのか、
円状に湿っていた。
ふと、頬に手をやると濡れた。

【・・・俺は泣いていたのか・・
この椅子にかけて何を悲しむことがある・・】

俺は何もかもが理解できない。
ふと、正面の壁に目をやった。

【?・・何だ。】

違和感を感じ、近寄ってみると、
壁には人の顔ほどある血痕があった。
それを見ていると、とても悲しくなる。
そしてまた、自分が壊れそうになる。
手が振るえ、ガタガタ動きだした。

【何を恐れているんだ・・。】

それは、怪物よりももっと恐ろしい何かに思えた。
俺の心に住みつく魔物がドアを強打する。
次第に速く・・速く・・・。
俺は
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
また、叫んだ。
息遣いが荒くなり、冷や汗もでている。
治まるまでうつむき静止した。


崩れた壁から外を見てみた。
古い家々が立ち並んだ大きな街で、
それらはこの部屋も含め全て廃墟の様だ。
俺は街の中を探索することにした。
何か見つかるかもしれない。
それがなんだっていい。
見つけたい。


無人の街をどれだけ歩いただろう。
廃墟には何かしら味があり、居心地はよかった。
薄暗くて・・冷えていて・・崩れそうな・・・
まるで、自分を映しだしているかのように。
建物たちが自分のような・・・
そんな気持ちになってしまう。
風が吹き抜ける。
空虚だ。

【誰か・・誰かいないのか・・・】

俺はこんなに寂しがり屋だったのか。
他人は自分を映しだす鏡だったのだろうか。
自分が見たい。
街の真ん中には噴水がある。
真ん中から吹き出て周りを囲んだ典型的な形状のもので、
何故かこいつだけは生息しているようだ。
俺は覗きこみ、水面に自分を映した。

【・・俺だ・・】

少し不安が消えた。だが、それは新たな脅威に形を変えた。
水面の自分だけが冷笑した。
そして姿を変えた。
その風貌は魔王にみえた。
水は赤く染まり、恐怖が襲う。
俺は逃げたかった。
でも、できなかった。
動けなかった。
自分の意志は無に等しかった。
魔王の手が俺の頭を掴み、
水の中に引きずり込む。
深く・・・深く・・・・

【苦しい・・誰か・・・】

なお深く・・・
太陽の光はもう届かない。
俺は無になるのか。

【嫌だ・・俺は生きたい・・】

その思いとは裏腹にドンドン突き進んでいく。
薄れゆく意識の中


【放してくれ・・】


【放すんだ・・・】


【その手を・・・】


「放せぇぇぇっ!!」


魔王は手を放し、闇へと消えた。

俺は無の海で、

薄れゆく意識の中で、

一寸の光を見たような気がした。





by nanty