■ Episode5: 存在 〜自分探索〜 ■
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ばっく
ねくすと
*
気がつけば俺は、どこともわからない草原にいた。
地平線が広がっていた。
誰も・・いない。
俺は大声で叫んでいた。
自分の存在を確かめたかったのだろう。
「うおぉぉぉぉぉぉぁぁぁ!!!」
誰にも届くはずのない、心の叫び。
静寂の大地で俺は独り。
独りぼっちだ。
孤独を愛していたはずなのに・・
孤独に怯えている。
夜になる。
無になる。
俺が消える。
恐怖という怪物が俺を喰らいに来る。
寒い・・怖い・・
感覚が麻痺して居場所がわからなくなると、
もう、怪物の食卓に置かれているんだ。
怪物はヨダレを滴らせ俺の存在を消そうとしてくる。
俺は抵抗できずに食べられた。
朝になる。
太陽は優しく照らしてくれる。
そして俺は蘇生する。
場面は変わっていた。
草原とは打って変わって、
コンクリートの部屋に俺はいた。
向かって左側の壁であっただろうという所は崩れていて、
そこから柔らかい光が部屋中を淡く包んでくれる。
俺は部屋の真ん中のアンティーク調の木製椅子に腰をかけていた。
うつむくと、足元の床だけ所々、何か滴でも滴り落ちたのか、
円状に湿っていた。
ふと、頬に手をやると濡れた。
【・・・俺は泣いていたのか・・
この椅子にかけて何を悲しむことがある・・】
俺は何もかもが理解できない。
ふと、正面の壁に目をやった。
【?・・何だ。】
違和感を感じ、近寄ってみると、
壁には人の顔ほどある血痕があった。
それを見ていると、とても悲しくなる。
そしてまた、自分が壊れそうになる。
手が振るえ、ガタガタ動きだした。
【何を恐れているんだ・・。】
それは、怪物よりももっと恐ろしい何かに思えた。
俺の心に住みつく魔物がドアを強打する。
次第に速く・・速く・・・。
俺は
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
また、叫んだ。
息遣いが荒くなり、冷や汗もでている。
治まるまでうつむき静止した。
崩れた壁から外を見てみた。
古い家々が立ち並んだ大きな街で、
それらはこの部屋も含め全て廃墟の様だ。
俺は街の中を探索することにした。
何か見つかるかもしれない。
それがなんだっていい。
見つけたい。
無人の街をどれだけ歩いただろう。
廃墟には何かしら味があり、居心地はよかった。
薄暗くて・・冷えていて・・崩れそうな・・・
まるで、自分を映しだしているかのように。
建物たちが自分のような・・・
そんな気持ちになってしまう。
風が吹き抜ける。
空虚だ。
【誰か・・誰かいないのか・・・】
俺はこんなに寂しがり屋だったのか。
他人は自分を映しだす鏡だったのだろうか。
自分が見たい。
街の真ん中には噴水がある。
真ん中から吹き出て周りを囲んだ典型的な形状のもので、
何故かこいつだけは生息しているようだ。
俺は覗きこみ、水面に自分を映した。
【・・俺だ・・】
少し不安が消えた。だが、それは新たな脅威に形を変えた。
水面の自分だけが冷笑した。
そして姿を変えた。
その風貌は魔王にみえた。
水は赤く染まり、恐怖が襲う。
俺は逃げたかった。
でも、できなかった。
動けなかった。
自分の意志は無に等しかった。
魔王の手が俺の頭を掴み、
水の中に引きずり込む。
深く・・・深く・・・・
【苦しい・・誰か・・・】
なお深く・・・
太陽の光はもう届かない。
俺は無になるのか。
【嫌だ・・俺は生きたい・・】
その思いとは裏腹にドンドン突き進んでいく。
薄れゆく意識の中
【放してくれ・・】
【放すんだ・・・】
【その手を・・・】
「放せぇぇぇっ!!」
魔王は手を放し、闇へと消えた。
俺は無の海で、
薄れゆく意識の中で、
一寸の光を見たような気がした。
by nanty