右へ左へ駆けずり回る。
でも、一向につかめない行方に途方にくれる。

そして、それは自分たちだけではない。


Secret Clover
〜依頼1、消えた猫を追え⑤〜



*ダイアゴン横丁商店街*

あさみ達が裏路地でロキと遭遇している頃。
もう一方の香奈たちは猫の目撃者探しに人の多い商店街の方に来ていたのだが…

「うお〜!猫〜!猫はどこじゃ〜!!!出てこないと猫鍋にするぞ〜!!!」
「いや〜!猫鍋なんて食べたくない〜!!!」
「∑突っ込む所はそこかYo!モンキーべーべーも宝生も騒ぐNa!!!」

目の前で周りの迷惑を考えずドタバタと騒ぐ集団。
その中の女は見たことがない人物だが、残りの男二人は綺羅たちがよ〜く知っている人物。
十二支高等学校の猿野天国と虎鉄大河だった。

「…あれ、なんやの?」
「虎鉄に猿野に………宝生って誰だ…」
「…依頼人だよ。」

その光景に思わず呆然としてしまう。
依頼主の名前をすっかり忘れている後輩に対する香奈の突っ込みもはっきり言ってさえない。
目の前の光景は、それはもう…めちゃくちゃだった。

「今は、猫を探すのが先決だRo?」
「「そんな事わかってる(んだよ)のよ!このキザトラ!」」
「そのあだ名はやめろYo!つうか、なんで宝生まで呼ぶんDa!?(汗)」
「「キザトラがひげペイントだからだ!!」」
「関係ないSi!!!」

記録上は、設定がないはずなのにやけに息の合っている二人。
なぜかゴミ箱に頭を突っ込む猿野に(捜しているらしい)店の隙間を覗き込むようにしている朱音(やっぱり、捜してるらしい)。
虎鉄だけが何とか頑張って止めているようだが…はっきり言って役に立ってない。

「…猫、探しとるみたいやね。」
「まぁ、私たちに依頼して後は連絡待ちって…普通はしないでしょ?」
「でもさ…ちょっとあれは不味いだろ?」

探し猫は、依然彼女の父の形見を飲み込んだままである。
SCに依頼したからといってそのまま黙って待っているということは彼女のは出来ないのだろう。
だが、これは流石に行き過ぎというか…周りが何事かと引いている。

「なんか、虎鉄がかなり哀れに見えるぜ。」
「…とりあえず声をかけてみようか?」

いい加減振り回されている虎鉄が哀れになってきた。
それに捜していたなら何かしら情報を掴んでいる可能性もあるので声をかけてみる事にした。
商店街の者が遠巻きに見る中、3人に近づく。

「虎鉄…お前、なにしてるんだ?」
「He?……き、綺羅〜!!!(ガバッ)」
「わっ!なにすんだよ!!!」

よっぽど感極まっていたのかなんなのか…
恐る恐る声をかけた綺羅に虎鉄は一瞬驚いた顔をした後…なぜか抱きついた。

「聞いてくれYo〜!モンキーべーべーと宝生がひでぇんだYo!!!」
「聞くから、離せ!つうか、今すぐ離せ!!!」
「宝生の髪飾り飲んだ猫捜してるんだけどYo!二人とも行動がめちゃくちゃDa!!!」
「今のお前の行動も充分めちゃくちゃだろ!!!」
「俺が何言ってもやめないSi!俺のことキザトラって呼ぶしYo!!!」

涙ながらに二人の非道を訴える虎鉄だが、抱きつかれている綺羅はそれどころではない。
必死に振りほどこうとするが、悲しきかな男女の力の差でもがいても振りほどく事もままならない。
このままでは延々と泣きつき続けそうな虎鉄に…みていた香奈が切れた。

「お前こそセクハラをやめなさい!このバカ虎!!」(どがっ)
「ぐぁ!!!」


見事な踵落しが虎鉄の脳天に炸裂。
虎鉄は帰るが潰れたような声を上げながら、無様にアスファルトに沈んだ。
その背中を、香奈は清々しい気分で足蹴にする。

「ふぅ〜…これが私と同じ誕生日の故アンディフグ選手が得意とした踵落しよ。」

香奈は故アンディフグが同じ誕生日なことを密かに自慢に思っている。
しかし、周りは一度はその話を聞いたことがあるので今更誰も突っ込む事はなかったりする。

「お〜、凄いで香奈先輩。見事に気絶してるわ。」
「……自業自得だな。」
「売られたケンカは高額買取よ!おほほほほ!!!」

足の下で軽く痙攣しながら泡を吹いて白目をむいている虎鉄。
翔茶は感心したように拍手し、綺羅も流石にフォローの一欠けらも入れてはくれない。
高らかな香奈の笑い声が響いた上に…

「あ〜!キザトラ先輩の奴!さぼってやがる!!!」
「キザトラ〜!!!なにさぼってるのよ〜!猪里と塁ちゃんに言いつけてやるんだから!」

虎鉄錯乱の原因までこれである。
きっと告げ口をされた虎鉄は同級生コンビに明日あたりしっかり絞られるのだろう。
…虎鉄大河、どこまでも哀れな男である。

「…って、綺羅じゃん!お前こんなとこでなにしてんだ?」
「それは、こっちの台詞!…お猿のあんちゃんこそこんな所でなにしてるのさ。」

そんな中、綺羅の姿に気付いた猿野に言い返す綺羅
よく考えれば虎鉄はともかく猿野は、依頼主とは接点はなくなぜここにいるのかがわからない。
綺羅が思っていた疑問を口にすると猿野は隣にいた虎鉄をさす。

「俺か?俺は頼まれたんだよ。」
「?…誰にだよ?」
「そうだ。えっとこの人は、元キザトラ先輩のクラスメートで…」
「宝生朱音。ダイアナ横丁パン屋の看板娘よv」

紹介する猿野横からひょっこりと顔を出すのは依頼人の宝生朱音。
報告書で大体の事は知ってはいるがまさか知っていますと言うわけには行かない。
あくまでも知らない振りをして香奈は挨拶をする。

「私は、宇佐美香奈で隣が後輩の水咲綺羅に真笠巳翔茶…えっと、宝生さんは猫を探しるんですか?」
「あ、私の事は朱音でいいよ。…まぁ、猫って言っても飼い猫とかじゃないんだけどね。耳に切れ目のある片目のチャトラ知らない?」
「…僕らはちょっと知らへんよ。」
「そっか…ちょっと大切なもの飲まれちゃってさ。捜してるんだよね。」

猫の行方を聞かれるが答えられるはずがない。
なんと言っても言えないが、こちらの方も創作中なのだから…知らないと答えると朱音はどこか残念そうな顔をする。
その表情に少々場が重くなるが、それを察した猿野が重い空気を吹き飛ばすように間に入る。

「で、それをスッパ先輩が知ってキザトラ先輩と大根先輩に…で、俺たちに話が来たわけ。」
「ふ〜ん、じゃ野球部は全員参加なの?」
「いや、開いてる奴だけ…でも、ほぼ手伝ってるぜ。」
「へぇ…なるほどね。」

どうやら、猿野がいるのは虎鉄たちの頼みだったらしい。
猿野の言葉に香奈は納得したように頷くが、綺羅は『1年生全員』という部分に反応した。
瞳をランランと輝かせ猿野に詰め寄る。

「比乃ちゃんも!?」
「へ?…あ、あぁ、スバガキは音符君と一緒に向こう側を捜しに行ってもらってるぜ。」
「あっち!じゃ、早く比乃ちゃんを捜しに行かないと!!!」

その勢いに思わず猿野はたじろぐが構った事じゃない。
そのまま愛しの兄を求めて猿野が指差した方向に走っていってしまいそうな綺羅を香奈が呆れたように止める。

「綺羅!今はそれどころじゃないでしょ?」
「でも、比乃ちゃんが〜!向こうにいるんだって〜!」
「綺羅先輩、今はだめやって!」
「……わかった。今は、諦める。」

それでも綺羅は兄の元へ行きたがったが、年下の翔茶にまで言われては仕方ない。
渋々と兄の元へ行くのを諦めた綺羅に溜息を付きつつ、香奈は猿野の方を見る。

「まったく…で、猿野さんたちはその猫を見つけたわけ?」

野球部が協力してるなら結構な人数になる筈である。
なら少しでも情報があるのならばと探りを入れたのだが、現実はそう甘くはないらしい。
香奈の言葉に猿野と朱音は渋い顔をした。

「いや、全然…影も形も見つけてない。」
「特徴的な猫だから見た人は覚えてるはずなんだけど…見た人は中々いなくって…」
「見た人は、いたんだ?」
「うん…昨日の夕方に向こうの空き地にいたけどすぐに走り去っちゃったんだって。」
「昨日か…じゃ、今の居場所はわかんないね。」
「…うん…でも、諦めちゃいないんだけどね!」

こちらの方も状況はあまり進んではいないらしい。
どこか落ち込んだような様子に香奈はちょっとマズイ事を聞いた気分になるが、次の瞬間彼女は顔を上げる。
そして、人差し指を立ててにっと笑った。

「諦めたらそこでおしまい!だから、私は絶対に諦めないの!Let's Positiveってね!」

ものすごい前向きな発言。
一瞬呆気に取られるが、その態度は好感の持てるもので香奈たちは思わず小さく笑いをこぼす。

「……前向きですね。」
「唯一の取り柄だからね。…と、言うわけで猿野君!キザトラ!もう行くよ!」

香奈の言葉に帰って来るのはやっぱり笑顔。
まだねっころがっている虎鉄を引きずるようにして朱音は、捜索に戻っていた。

「じゃ、なにかわかったら十二支野球部に連絡お願いしま〜す。」

まぁ、その際しっかり情報提供だけは釘をさして行く事は忘れなかった。
そのとてもパワフルな後姿を見送った後、香奈たちも自分たちの捜索に戻ることにした。

「絶対に見つけんとあかんね。」
「まぁ、依頼だし…頑張りますか。」
「…虎鉄への手向けにもなるし?(笑)」

手がかりは足取りともに不明。
それでも絶対に見つけてやると改めて気合を入れた。


刻々と進む時間…今、猫はどこにいるのでしょう?


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*アトガキ*
はい、猫探しの5話目です。
今回は、依頼人の宝生朱音ちゃんと十二支メンバーも登場いただきました。
きっと今頃そこいらいったいに十二支野球部の皆様が猫を探している事でしょう。
なんだか、猫神様や蛇神さんなら普通に見つけそうと思ってしまいました。(笑)
それじゃ事件にならないのでだめですけどね。

2004/06/30