「私は何者なの?私は私自身であるはずよ。誰かの角膜を移植されてその人の記憶が焼きついてるとしても、クローンであったとしても」
「和美は和美さ。俺にはわかってる」隆次がゆっくりとした口調で和美に言った。
「なあ悟、ホントのところお前の入っている宗教団体ってどんな団体なんだ?」
「俺の入っている宗教団体はπっていうんだ。名前の由来は限りない円、つまり円のような限りなく丸い完成された精神をもった人を目指そうというところなんだ。仏教やキリスト、ヒンドゥーのような神様がいる偶像崇拝の宗教とは違うんだ。神様なんてそもそもいないからな。人には我というのがある。それをいかに出さず、ほかの人達と共存共栄していくか、他人をたて、なおかつ自分の言いたいことははっきり言う、もちろん他の要因も考えてからの発言としてね。わかり易くいうと基本的にはそんな教えをいかに実践していくかやってるところだ」
「いたって真面目な団体じゃないか。そのπが何らかの形で和美と関係がありそうなのはどういうことなんだ?」
「πを始めた人っていうのが元731部隊の生き残りの人なんだ」
「なんだって!」
「彼は決して細菌兵器や人造人間を創りたかったわけではないんだ。その卓越した頭脳ゆえに旧日本軍がその頭脳を利用していたんだ。終戦前に彼は軍を抜け出し、中国を抜け、チベット、インドと宗教に生きる道しるべをもとめた。修行をつみ、十何年後には日本に帰ってきた。そして始めは自分一人で教えを説いていった。今ではこれでも数十万の信者がいる教団だ。終戦前に行方不明になっているから戦争裁判にもかけられていない。当時は凄い事をやらされていたようだが」
「もっと話してくれ」
「彼がこんな形で宗教を始めたことは殆どの信者は知らない。そして噂だが、30年ほど前からなんらかの生物学的な実験を組織ぐるみでやっているそうだ。この教団の末端にいる俺や他の信者は何をやっているのか、やっていないのかも知らない。このことは個人的に興味があったから調べて知っているんだ」
「その実験ってのはクローン技術のことなのか?」
「実は全く情報が入って来ないんだ。推測だがそれか、それに近いものだろう。だがなぜそんな事を今ごろする必要があるのかがわからない。まあ少なくても人類の幸福の為にやってることだと思うんだが・・・解らない。まさか和美ちゃんと関わりがあるとは夢にも思わなかったよ」
「それじゃあそいつに聞けば全部わかるんじゃないか」
「それが彼は今はどこでどう暮らしているか最高幹部の数人しか知らないだ。かなりの高齢で一説には寝たきり状態らしい」
「どちらにしろ重要チェックポイントだな」
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