明日へ…第二部13

街には野生化した犬や猫があふれている。生きるためには仕方のないことだ。僕はスーパーマーケットの廃墟の前で死体をむさぼっていた一匹の犬に狙いをつけて近付いた。
その犬は僕の気配に感付き、牙を剥いて低くうなる。僕はナイフを構え、腰を落とし、ゆっくりと足をにじらせて近付いていった。
ある程度まで近付いた瞬間、犬は大きく吠え、僕に飛び掛かってきた。そのわき腹を目掛け、ナイフを突き刺す。悲鳴にも似た声をあげ、地面に転がり落ちたその犬に、僕は何度も何度もナイフを突き刺した。肉が裂け、血が吹き出す。僕は返り血をあびながら、執拗にナイフを突き刺していた。吹き出してくる血の勢いが弱まり、犬は微動だにしない。それでも僕は刺し続けた。声にならない叫びをあげて。

僕の中に誰かがいる…。
犬が牙を剥いて飛び掛かってきた時の恐怖と、ナイフを突き立てた時の興奮とが僕の中の狂気を目覚めさせたかのようだった。
さんざんナイフを突き刺され、原形をとどめぬただの肉塊になってしまった犬を前に、僕は呆然と立ち尽くしていた。
ついさっきまで犬の形をしていたものが今、僕の手によってこんな姿になってしまった…
僕は自分の内に潜む黒い影の存在を初めて知った。そして今、なぜ街が、なぜ人が、こんなにも荒れ果ててしまったのかも、少しは理解できるような気がした。
人は皆、心の中に僕と同じ黒い影を持っているのだ。その影が心を支配した時、人はそれを悪魔と呼ぶのだろう。その悪魔にとっては、命など取るに足らない下らないものなのだ。
今、世界の終わりを間近に控え、人々は恐怖の余り、その悪魔の言いなりになってしまっている。きっと興奮状態にある時、無意識のうちに我々は人間性を失ってしまうのだろう。僕はそんなことを考えながら、持っていたライターで火を起こし、肉を焼いた。

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