明日へ…第二部12

街には腐臭が漂い始めていた。寝場所を巡る争いに敗れた者たちの亡骸は街角に点々と打ち捨てられ、それらが腐り始めていた。
まだ新しい死体には、飼い主をなくし野生化した犬や猫が群がっている。もはやそれらの死体を片付けるような気力のある者や、行政機関は失われてしまっている。

聞くところによると、大火災の発生する前日、戒厳令が発令されたらしい。秩序を失い無政府化してゆく国民の行状に見兼ねてのことだ。夜間の外出は禁止され、街の随所に警備の者が立ったらしいが、ほんのちょっとした隙にあの火災が発生したのだ。


力を持つ者が幅をきかすようになってきていた。より良い寝場所や食料を求め、人々は相変わらず争っていた。経済は完全に麻陣し、貨幣はもはやただのゴミ屑だ。街の中心地では、どこの店もガラスを割られ、中を荒らされていた。残飯を漁ろうにも、経営しているレストランなどあるわけがない。力で奪うしかないのだ。
僕が駅で寝泊まりするようになって二、三目の間はまだまともだった。僕はポケットに入っていた少しの金で飢えと渇きを癒していたのだが、あっという間に今のような状態になってしまった。

それでも僕はどうしても人の物を奪う気にはなれなかった。力に自信がなかったせいかもしれない。争いに敗れ、死んでいった人たちを何人も見ていると、とても人と争う気持ちにはなれない。が、何も食わずにいたのでは死んでしまう。僕は廃屋と化した雑貨屋で拾ったナイフを握りしめ、狩りに出ることにした。

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