「あきらめてはならない。我々は来るべき非常事態に備え、常に冷静さを保たねばならない。どんな災害が起きるのか予想はつかないが、何が起こったとしてもその被害は最小限にとどめ、その後に来る明るい未来を信じようではないか」 翌日、街へ出てみると、至る所に風変わりな格好をした者たちが立ち、説法をしている。周囲には熱心に耳を傾けている人達がいる。僕は何気なく立ち止まり、その説法を聞いていた。 「この一年の間に神の裁きが人類に下される。それは皆さんも既にご存知でありましょう。そして人類は滅亡しない。生き残る者も確かに存在する。それもまたご存知のはずです。生き残るのは選ばれし者であり、神の教えを実直に守り通してきた者なのです。四年前、テレビに映し出されたあの男、彼こそが選ばれし者なのであります。さて、皆さんは彼をご存知でしょうか。私は彼のことをよく知っております。なぜなら彼は私どもの教団に帰依した一員であり、私と共に日々精進を重ねてきた者であるからです。彼はなぜタイムマシンを破壊したのか。何を見せまいとしたのか。お分かりでしょうか。お分かりでなければお教えいたしましょう。それはあなた方に道を選ばせたかったからに他なりません。誰が生き残るのか。選ばれし者たちとは誰なのか。事前に全てが分かってしまっては皆が救われてしまう。神は裁きを下すことを欲しております。よろしいですか、皆さん…」 そんな説法をしている者の後ろに教団のものと思われる奇妙な服装をした男が一人立っている。よく見ると、知り合いのサトルのようだった。以前から宗教に興味を持っていた彼のことだから、きっとうまく誘われて入団したのだろう。 |
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