明日へ…第一部3

人類は何とかして来るべき悲劇を避けなければいけない。世間では、多分、疫病の大流行だろう、生き残った者は特殊な免疫を持っていたのだろう、という意見が大勢を占めており、その方向で来るべき悲劇に対抗する手段を講じ始めた。

各国の宇宙開発局は協力し合い、宇宙への移住の可能性を探り始めた。医学者たちは現在知られているあらゆるウイルスの撲滅方法を以前にも増して熱心に研究するようになった。また、公安警察は最後に映った人影の人相をなんとか割り出そうとし、少しでも似た者がいると、即研究施設へと送り込み、徹底した身体検査を行うようになった。体液という体液、内臓の各器官の細胞など、あらゆる要素を研究材料とし、文字通り、骨の髄まで調べ尽くした。何か変わった特徴はないか、免疫となるような特殊な成分を含んでいないか、DNAの配列はどうなっているのか、と。それは全く人権を無視したものであり、被検査者は訴訟をはじめ、あらゆる手段を尽くして非難の声を上げたが、人類の未来のためといって黙殺されてしまった。

 

僕はもちろんのこと、世界中の人たちが戦々恐々としながら毎日を送っていた。
一体、いつ、何が人類を襲うというのだろうか。
疫病説が主流だが、それとて推測に過ぎない。
これから僕らの身に何が起きようとしているのだろうか・・・

だが、そんな心配をよそに、医学や宇宙開発技術は世界的な協力体制のもとで飛躍的な進歩を遂げた。今まで治療不可能とされてきた、あらゆる病気に打ち勝つ手段を獲得し、宇宙への移住も夢物語ではなくなりつつあった。

運命は変えられる—。そう信じる者たちの手により、科学はかつてないほどの成果を挙げた。世界中の随所で起こっていた武力紛争も激減していた。当事者たちも、民族だの、宗教だのといった理由で争っている場合ではないと気づいたのだろう。このままいけばおそらく未来は明るくなる。人類は未来を変えることができそうだ。楽観的と言われれば、確かにそうかもしれない。しかし、我々が一時期抱いていた、未来に対する得体の知れない恐怖心は、日を追うごとに薄れていった。

が、一方で、悲観論者もいた。明るい未来を信じる者たちの手により、そういった者たちは封じ込められてはいたが、それでも彼らはこの五年間を悲観的観測の中に垣間見える一縷の希望にすがって生きようとしていた。未来は変わらない。運命には逆らえない。我々は消えてゆくのだ—。終末論を語る宗教が林立する。選ばれた者のみが生き残るのだ、世界とはそうあるべきなのだと信じ、必要以上に清廉に生きていこうとする者たちだ。

質が悪いのは享楽的に生きようとする暴力的悲観論者たちだった。未来を覗いた直後は強盗・強姦などの凶悪犯罪件数が跳ね上がった。しかし、それらはすぐに抑えられたようだ。治安維持の徹底した強化が図られ、犯罪件数はすぐに激減した。

世の中のあらゆることが以前より良くなりつつあるようだ。人類最大の危機を事前に察知したことにより、世界が平和のうちにまとまろうとしていた。それに反し、新たなタイムマシンの製作は一向にはかどらない。何度となく失敗を繰り返していた。一台目は偶然の産物だったのか。それとも、もしかすると、あれはタイムマシンなどではなかったのかもしれない。ならば我々が目にしたあの映像は何だったのだろうか。

世間では様々な噂が飛び交っていた。世界が以前より良くなるのを見越して何物か(おそらく平和主義者だろう)がひとつのとてつもないフィクションを見せたのだとか、別次元のもうひとつの地球へと行ったのであり、未来を見たわけではないのだとか。

いずれにせよ、世の中は平和に過ぎ、あの日から四年が過ぎ去った。

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