旅は道連れ 世は情け


 おねえは富山駅の駅案内板とにらめっこしている。海を見るという目標を達成するために、どこの駅に向かえばいいのか真剣に悩んでいるようだ。朝までとは違う、ふわりと広がる花柄のスカート。化粧もばっちり。どうりで遅いと思った。僕にもセーターを差し出されたが、「寒くないから」と遠慮した。  だってそうでしょう? 誰のためのものか分かっているんだから。
 結局おねえには電話のことを話せなかった。
 僕としても、どう切り出していいのかわからないのだ。
「よし、決めた」
 どこに行くかも教えてくれないまま、おねえは切符を買うと僕に渡す。そのまま何も言わずにホームへ向かって歩き出すおねえの後を、カバンをもって歩く僕。なんとも情けない。
 それほど待つこともなくやってきた電車の中は空いていた。観光地とは別方向なのか、観光客らしき人もあまり見かけない。おかげで人のいない向かい合わせの座席にゆっくり座ることができた。
 海まではどのくらいかかるんだろうか。窓の外はまだ街並みが続いている。おねえに話をするなら今がいいチャンスだ。
 でもどう話せばいいんだ?
 僕の電話何に使った?って聞いたら、答えてくれないだろうな。いっそのこと彼氏から電話があっ たってストレートに言おうか。ああでも、何で今まで黙ってたのって怒られそうだ。
 そもそも彼氏がいるのに、どうして僕を誘うんだろう。「弟みたいな」という電話の言葉がふいに頭をかすめた。弟だから、安心ってことなんだろうか。でも血のつながりがあるわけじゃなし、しようと思えば何だって・・・・・・。って何を考えているんだ僕は。
 あれこれと迷って沈黙している僕の隣で、おねえは何も知らずにあちこちにかかっているつり広告をおもしろそうに眺めている。
「チューリップフェアだって。おもしろそうだね」
「うん」
「ほたるいか料理ってオイシイのかなあ」
「うん」
 適当に相槌をうっていたら、頬をぎゅうっとつねりあげられた。痛い。
「なにするんだよ!」
 思わず声が大きくなった。ドアの近くの座席でうとうとしていた人が、その声に驚いてきょろきょろと周りを見回している。
「さっきから何ぼんやりしてるのよ」
 頬をふくらませて、おねえが僕をにらんでいる。僕の態度が気に入らなかったらしい。
 何って、おねえのことで悩んでいるんじゃないか。人の気も知らないで。
「何って・・・・・・」
 いっそのこと全部ぶちまけてしまおうか。そう思った僕の声に、次の駅を知らせるアナウンスが重なった。なんてタイミングが悪いんだ。
「次、降りるから」
 おねえはそれだけぼそりというと、僕から目をそらし、立ち上がった。
 スカートの黄色い花がやけに目に付いた。
 
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