旅は道連れ 世は情け


 頭に強い衝撃を感じて、目が覚めた。頭がじんじんする。痛む頭を押さえながら、自分の置かれている状況を考えた。
 ここはバスの中。そしてバスは止まっている。
 誰も慌ててないところをみると、事故ではないらしい。周りの人が荷物を降ろしながらちらちらと僕を見ている。流れてくる視線がなぜか同情的だ。
「いつまで寝ぼけてんの! もう降りるわよ」
 おねえの厳しい一言で、状況が飲み込めた。富山に着いたのだ。
「もう着いたの?」
 僕ののんびりした言葉に、おねえはさらに怒った目を向けてきた。
「さっきから起こしてるのに、ちっとも起きないんだから。こんなことならさっさと殴っとけば良かった」
 荷物がどさっと膝の上に落ちてくる。
「ほら、立って。ユズルが出ないと私も出られないじゃないの」
 僕は慌てて立ち上がり、自動的に荷物を持った。他の乗客たちに混じってバスを降りる。誰かが僕の肩を軽く叩いていった。それはなんだか深い意味がこもっていたような気がするけれど、僕はまだ寝ぼけていて、それを考える余裕もなかった。
 外は暗かった。朝の5時半なのだから当たり前だ。空気もひんやりを通り越して、寒さすら感じる。バスの中に戻りたくなったけれど、そういうわけにも行かない。他の乗客たちは、白い息を吐きながら、それぞれ散らばっていく。電車が出るまでどこかで時間をつぶすのだろう。
「なにこれ、寒いじゃないの!」
 おねえの声だ。後ろから聞こえる。振り向くと、ジャケットの前をかきあわせて、縮こまっている。そういえば昔から寒いのがニガテだった。冬になるとすぐに風邪を引いて、学校を休んでいた。その度に学校までおねえの連絡帳を持っていった。今となっては懐かしい思い出だ。
「寒いっていったって、おねえがここに来るって言ったんじゃないか」
 口には出さないけど、僕だって寒い。
「こんなに寒いとは思ってなかったわよ。もうすぐ5月になるっていうのにぃ。」
 そんな会話をしているうちに、バスは僕らを残して行ってしまった。バス停に残っているのも僕たちだけだ。
「と、とりあえず暖かい場所に行こうよ」
 富山の駅前は意外と店が多かった。それほど離れていない場所に、お皿とフォークのイラストが描かれた看板が見えた。良く見かけるファミレスの看板だ。
「こっち。ファミレスがあるみたい」
「これで入れなかったら怒るからね?」
 なんで僕が怒られなければならないのだろう。それでもあまりの寒さに、二人とも自然と小走りになった。
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