旅は道連れ 世は情け



23時過ぎにバスは池袋を出た。僕たちの席は後ろの方だった。
窓際に陣取ったおねえは(席に文句は言えない)、乗る前にコンビニで買ってきたビールを開ける。
到着時刻などを知らせるアナウンスが小さい声で流れているが、なかなか落ち着かない乗客たちの会話にまぎれて、いつのまにか終わってしまった。
「はい、ユズルの分」
おねえが開けていない缶ビールとビニール袋をよこしてくる。
まさか振ってないだろうなと恐る恐る開けてみたけれど、中身がふきだしてくる様子はなかった。
冷たい液体が胃に染みて、夕飯がまだだと抗議の声をあげている。
ビニール袋の中にあるおにぎりも一緒に食べることにした。変な取り合わせだけれど仕方がない。おねえは、さきいかを口にくわえて、外を見ている。窓から離れている僕の席からだと、おねえの顔が映るばかりで外の景色は見えない。
「おにぎり食べないの?」
「私はいらない。全部食べていいよ。」
5つも買うんじゃなかった。
それでも空腹とビールの影響で、うっかり全部食べてしまった。お腹が満たされれば次に襲ってくるのは睡魔だ。
いつもはしゃぎすぎるくらいにうるさいおねえも、今日に限って静かだ。
消灯の時間になって、バスの中が真っ暗になった。ますますまぶたが重くなってくる。
「おねえ、僕眠いんだけど、寝てもいい?」
わざわざ承認を得てしまう自分が悲しい。おねえは窓の外を見たままあっさりと答えた。
「いいわよ。着いたら叩き起こしてあげる。」
「普通に起こしてください・・・・・・。」
「自分で起きればいいのよ。」
ごもっともです。でも僕は昨日あまり寝てなくて、今日も疲れているんです。
そんな言い訳を考えているうちに、僕は眠りの闇に落ちていった。
 
backnext

続きが読みたいと思った方は、これを押してくれると励みになります♪

表紙小説